第五十八話 ふたりのランキング
形ばかりの中間試験が終わった。
本命の方のイベントはとっくに終わっている。
でも、一応学校だから、最低限やらなくちゃいけないことはあるんだろう。
得に、義務教育の中学生は、その辺りの縛りがキツそうだった。
甲子園常連校とかだと、勉強は午前中だけとか、良く聞く気がする。
高校に上がると、また感じが変わるのかも知れない。
ましてや大学ともなれば……。
まぁ、今考えていても仕方が無い。
「優は、商人をやってるの?」
「やってるよー、採取品で安いのをNPC売りしてるんだけど、そこで結構儲けられるの」
「転売とかは?」
「やらないかなー、そういうのは慣れてから?」
競売での取引でも、普通より手数料が少なくなる。
NPCとの売買でもお得になるし、何気なくやるなら商人はよかった。
酒場で売り買いをしている人も、ほとんどが商人だ。
露店を出すことが出来るので、そこで値切りとか、物々交換の交渉とかも出来る。
「砂緒ちゃんは、お料理してるの?」
「うん、マフィンを作ったから食べてね」
「本当ー! すごい楽しみ!」
「孤島で、珍しいバナナマフィンのレシピを売ってたから、そればっかり作ってるんだ」
「お菓子系なんだね」
「そうかな、そうかも」
意識していなかったけれども、無意識にお菓子系をやっている気はする。
喫茶店を開くなら、軽食も作れないと駄目かもだけど。
「小島さん、二年生の先輩が呼んでるよ?」
クラスの子が優を呼ぶ。
そこには、先日お世話になった野々村先輩がいた。
「やあ、ちょっといいかな?」
「また、何か企んでいるんですか?」
「そんな、人聞きが悪いじゃないか」
そう言いながら笑っている。
これは、何か企んでいるんだろう。
「実はね、学校全体で動いていることなんだけど、月間ランキングの計算式を解明しようという話なんだ」
それは面白そうだけど……。
「興味ありますけど、なぜわたし達に?」
「それはもちろん、サンプルとして優秀だからだよ」
なんか誤魔化されている。
「私は、あまりお話しできることも無さそうですけど……」
「いや、是非ふたりに協力して欲しいんだ」
なんだろうか。
元々、グイグイ来る人ではあったけど。
「経験値や得たお金、アイテム、イベントの成績、ボスの撃破、取引、生産職、色々な角度から検討されている」
「効率的なランキングの上げ方なんかが解明されるんですね」
聞いておいて損はないと思う。
優も、ちょっと興味ありそうだ。
「発端は、同じレベルで同じような資金のプレイヤーが、ランキングで100位以上差があったというところからなんだ」
「ふたりは、パーティーを組んでいたんですか?」
「そうなんだよ、だから、経験値を含めて、細かい、どんな敵を倒したとかも、それ程は大きく違わないはずなんだ」
「儲かっていたんですか?」
「いや、ふたりともお金に困っていたそうだよ」
成功していたなら、何をやっているのかわかったものじゃないけど、お金がなかったなら、特別なことは出来なかったはずだ。
みんなが興味を示すのもわかる。
「ふたりはその違いに驚いた。でも、この秘密を解き明かせたら、すごい情報になると考えたんだ」
「でも、その情報が漏れていると言うことは……」
「そう、協力して秘密を解明しようとしたんだけど、仲違いして、それまでの情報を情報屋に売ったらしい」
リアルの人間関係にもヒビが入るのは、なんだか嫌だ。
でも、一緒にゲームをしていれば、喧嘩をすることもあるだろう。
「今出回っている情報は、正直、怪しいものが多いんだが、私は、元の出所に近いところから情報を得られたんだ」
「あんまり、答えられることもないんですけど……」
野々村先輩に、色々と話す気はない。
頼りになる先輩だとは思うけど、いつ食い物にされるかわからない、信用のおけなさも感じる。
「ちなみに、そのふたりの決定的な違いは、生産職で魔法付与をやっていた方がランキングが低くて、転売を多くしていた方がランキングが高かったというところなんだ」
「うーん、それってなんか変な感じ? 生産職を頑張った方がポイント高くないとおかしくないですか?」
「そう、普通はそう思うよね」
「でも、実際には違ったと」
生産職で材料を買って、出来た物を売って、流通のサイクルを回していた方がランキングが高そうなのに、転売で稼いでいた方が100位以上高かったわけだ。
それは、おかしいと思ってしまう。
「そこで仮説が立てられたんだけど、競売ではなく、プレイヤーとの取引に高いポイントが割り振られているのではないかという話なんだ」
生産職は、手っ取り早く素材を競売から買ってしまうことが多いんだろう。
わたしもやってみて、それは強く思った。
一方、転売をするならば、安く購入するために様々な取引をしていたはずだ。
それこそ、学園内で取引をするくらいに。
わたし達は、野々村先輩との話を続けていった。




