第五十七話 美味しいマフィン ※
ライブから帰ってきた日の夜。
わたしは、生産職である料理スキルを習得しにギルドへ来た。
イベントでスキルをゲットしたのが切っ掛けだけど、料理を上手くなりたい。
そんな乙女心というか、向上心のようなものが間違いなくあった。
現実だと、食べさせる相手がいないけど、ゲームの中なら需要はある。
それで、本当に料理の腕が上がるのかは不安だけど、まずはやってみようと思った。
「料理ギルドへようこそ、ウマイ料理を作ってみないかい?」
口ひげの、ウイスキー飲んでいそうなおじさんキャラがそう言ってくる。
多分、ギルドの広報とかそれなりに偉い人なんだろう。
気にしたこと無いけど。
料理は持ち運びの消耗品としても売れるし、自分でお店を開いて売ってもいい。
小さなカフェとか個人で開いて、ご近所の人にコーヒーとケーキを食べに来てもらえたら、みたいな夢もある。
現実にしろゲームにしろ、どっちでも。
「料理を作りたいです」
「それなら料理ギルドに登録するといい、無料だからカウンターに行ってみてくれ」
カウンターに行くと、キッチンになっている対面式の場所だった。
すぐにでも料理が出来そうな設備が、色々と整っている。
「いらっしゃいませ、お客様、本日はどういった御用向きでしょうか」
「料理を覚えたいんですけど」
「かしこまりました、それではレシピを覚えられるように、料理レベル1を付与いたします」
ぴろりんとSEが鳴った。
料理レベル1をゲットしたんだろう。
「料理は、料理ギルドや街のレストランでレシピを覚えることで、作れるようになります」
「ふむふむ」
レシピを覚えないと、料理は作れない。
そのレシピは、ギルドやレストランでゲットできると。
孤島にもなにかレシピがあるのかな?
「材料は、採取品を競売で買ったり、自分で採取して集めます。他にも釣りをしたり、モンスターの素材を使うことも可能です」
「なるほど」
そういうのは、今までもたくさんゲットしてきた。
全部売り払っていたけれど、今度からは取っておこう。
「材料と道具とレシピを差し上げますので、まずはレシピを覚えてください」
「いただきます」
レシピは、目玉焼きだ。
わたしは、目玉焼きのレシピを使う。
ティロリー♪ とSEが鳴った。
覚えたんだろう。
「では、作りたい料理名を唱えて、オンと呼びます。試しに、目玉焼きオンと呼んでください」
「目玉焼きオン」
すると、フライパンをコンロの上に乗せるイメージが沸いた。
「作り方がイメージされていると思います、そのイメージ通りに、目玉焼きを作ってみてください」
もらったフライパンを手に取る。
「初心者用の焦げ付かないフライパンですので、作ってみてください」
油は要らないのか。
コンロに火を付けてフライパンを乗せる。
すると、今度はフライパンの上に卵を割って入れるイメージが沸いた。
「なるほど」
フライパンが温まってきたら、卵を割って入れる。
じゅわわわっと、美味しそうな音がして、卵に火が入った。
蓋はない。
半熟とか堅焼きとか、そういうのは好みなんだろうか。
そろそろ良さそうかなと思っていると、フライパンからお皿に目玉焼きを移すイメージが沸いた。
基本的には、このイメージ通りにやれば良さそうだ。
わたしは、お皿に目玉焼きをのせる。
「どうぞ、食べてみてください」
カウンターのお姉さんから、塩こしょうをもらった。
ぱっぱっとかけて、フォークで食べてみる。
「うん、目玉焼きだ」
リアルで食べる目玉焼きと、何も差はない。
食感も味も、熱さも黄身がこぼれそうになるのも、全部同じだった。
「レベルが上がると、色々なレシピを覚えることができます」
いきなり難しい料理はできないという事だね。
「レベルはどうやって上げるんですか?」
「レベルは、料理をすることであがりますので、コツコツと作ってください」
経験値と一緒か。
ひたすらに料理を作り続けるしかない。
「同じ料理をたくさん作ると、得意、極意などになります」
目玉焼きの極意とかあるんだろう。
「そうなると、イメージされる調理法が特別なものとなります」
「イメージと違う作り方をしてもいいんですか?」
「構いません、ご家庭の味を再現するのもいいですし、外部の動画で紹介されている、最新の作り方を真似されるのもいいでしょう」
「ふむふむ」
自由度は高そうだ。
まぁ、初心者のわたしには要らぬ心配だけど。
「レベル1で覚えられるレシピを全部売ってください」
道具は、競売でいいの買おう。
「ありがとうございます」
競売をざざっと見てみる。
どんな料理が人気なのか……。
「うーん……」
どうも、レベル1だとマフィンが需要あるようだ。
「キッチンは、こちらの設備をご利用ください」
「キッチンって、マイルームには置けないんですか?」
「置けますが、少々お値段がかかります」
やらなくなってしまったらもったい無いけど、わたしはキッチンを買った。
マイルームに戻ると、部屋の隅にキッチンを設置する。
うん、やる気が出て来た!
競売で必要な道具や材料を買いながら、レシピを一通り作ってみる。
知らない国の料理とかもあったけど、どれも美味しい。
「うんうん、売れるマフィンをたくさん作ろう」
材料費とかの元を取れるマフィンを中心に作っていき、出来上がると、競売に出していく。
いつの間にか、マフィンが得意料理になっていた。
明日、優とエミリーにマフィンを食べてもらおう。
ある程度満足したところで、ログアウトした。
料理人を語るスレ 34
500、競売に砂緒ちゃんのマフィンが売ってる。
501、男はどうしてロリコンなのか。
502、砂緒ちゃんの手作りマフィン食べたい!
503、安く売ってるな、レベル上げか。
504、料理の道は険しいで。
505、割と採算取りやすくはあるけどな。
506、鍛冶職人とか阿鼻叫喚だからな。
507、海マップの特産品をたくさん売っていた子でしょ? 海鮮系とかレシピ売ってくれないかな。
508、海マップは釣りキチが集まってくるイメージ。
509、刺身作ってみたけど、高レベルレシピ欲しいな。
510、砂緒ちゃんのマフィンがバナナマフィンになってる(笑)
511、レベルが上がったか。
512、そして、バナナマフィンのレシピなんて持ってねーよ。
513、完全上位互換やなぁ。
514、砂緒ちゃんのレベルがもうひとつ上がったら、当分出てこない一品だろうな。
515、海鮮系レシピ発掘してくれよ。
516、海マップも謎なマップやからな、難しいやろ。
517、砂緒ちゃん料理するのか、ママやな。
518、きもいよ?
519、ロリコンでマザコンとかホント死んで?
520、なんとでも言え、毎日砂緒ちゃんの料理食べる楽しみができた!




