第五十四話 イベントが終わって
月曜日が来た。
イベントも終了し、わたしはとても眠い。
ひとりで市場をさまよっていたら、いつの間にか深夜だった。
「ふあぁー」
あくびをかみ殺しながら、教室に向かう。
今日は早く寝よう。
朝はいつもそう思ってるけど。
教室に着くと、なんだか騒がしい。
バタバタしている人もいる。
「砂緒ちゃん! 金貨と銀貨の使い方がわかったみたいだよ!」
それで騒ぎになってるのか。
まぁ、わたしも結構投資しちゃったから気になるけど。
「イベントアイテムを金貨と銀貨で買うシステムみたい!」
「どういうこと?」
「イベントロックというのを、金貨と銀貨で外すんだって。スキルの書も、使うときに金貨と銀貨がいるみたい」
そういう使い道かぁ、それ程値は上がらなさそうかな?
ワンチャン、金貨が1ラルトとかあるかなと思ってたのに。
「足りないから売って!」
優もあれから市場を回ったんだろう。
プレイヤー全員が、一回り強くなったイベントなのかも知れない。
「優は大きな買い物をしたばっかりでしょ?」
「リボで売って!」
なんか、いけない買い物の仕方を覚えてしまいそうだけど、わたしは金貨をあげるつもりでいた。
まぁ、海マップの採取品と名産品を売ればすぐに稼げるだろう。
放課後、エミリーにも金貨を融通したわたしは、その足で買い取り商人さんのところに行く。
「スナオは、投資の方の才能もあるんじゃないかナ」
「ないよ、たまたまだから」
一枚60~70ルピで買った金貨が、今日は150ルピくらいになっている。
たまたま上手くいったけど、とんでもない散財になる可能性もあったんだ。
酒場の三階に行くと、いつもの場所に買い取り屋さんがいた。
わたしの顔を見ると、いやらしい笑みを浮かべる。
こわっ。
「よお、イベントは順調だったみたいだな」
「金貨と銀貨を買って欲しいんですけど」
「いいぜ、何枚でも買う」
「じゃあ、金貨40枚、銀貨61枚をお願いします」
「え?」
商人さんの顔が青ざめる。
「さては、お金が足りないのかナ」
エミリーがクスクス笑っている。
このふたりは、なんか仲が良さそうだった。
どんな関係なのかは、良くわからないけど。
「さ、さすがにその量は買えないぜ」
買えないのか。
一番お金が掛かると言われる人件費をタダにしようとしているんだから、そう上手くはいかないか。
「大丈夫だヨ、この男は詐欺をしないかラ」
エミリーのお墨付きだ。
信じることにしよう。
「じゃあ、全部預けるので、売ってください。売り上げから6500ルピもらいます」
「ろ、6500ルピ!?」
商人さんは、慌てて計算している。
金貨一枚150ルピで売れれば、十分に儲けが出るはずだ。
「よ、よし、やってやろうじゃねえか!」
わたしは、買い取り商人さんに金貨と銀貨を渡す。
「で、でも大丈夫なの? 6500ルピだよ?」
優がちょっと及び腰になっている。
日本円で650万円だ。
警戒してしまうのはわかるけど……。
「この男は、ネットで揉め事解決屋をしているのヨ」
「あっ、コラ!」
「いいじゃなイ、損する話でもないんだかラ」
「揉め事解決屋?」
ゲームじゃなくて、ネット上でってこと?
興信所みたいな仕事?
「ネット上で揉め事があったら、それを公平にジャッジするというわけのわからない仕事だヨ」
なんだろうそれは……。
そもそも需要があるんだろうか……。
「……収入はあるんですか?」
優が、恐る恐るそう訪ねる。
でも……そこには静かな空気が漂っていた。
「これでも、国連安保理事会2.0と呼ばれている男だもの、篤志のひとつやふたつはあるでショ」
「待ってろよー! 今に見返してやるからなーっ!」
そう言い残して、買い取り商人さんはどこかに走って行った。
「わ、悪いこと聞いちゃったかな?」
「大丈夫だヨ、中身は学生だし、将来性があれば良いでショ」
「エミリーは、揉め事解決屋で知り合ったの?」
「つまらないことでネットのバトルになってしまってネ、その相手が連れてきたのがあの男だったのヨ」
「はぁー」
ネット上の揉め事でも解決すれば、お金になるのかも知れない。
でも、弁護士じゃなくて、揉め事解決屋ということは、必ずしも雇った人の味方になるわけじゃないんだよね。
それは……お金になるかわからないんじゃないだろうか。
そして、その日の夜。
わたしは無事に6500ルピを商人さんからもらうことができた。
商人さんがいくら得をしたのか、もしくは損をしたのか、それは知らない。
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