第五十二話 スペクタクル
他のプレイヤーが調べていた部屋に、わたし達はいた。
そのプレイヤー全員は倒せなかったけど、残りは逃亡している。
戻って来ることはないだろう。
「多分、水の中は調べてないよね」
「釣りをするのかな?」
優が水を覗き込んでいる。
「じゃあ、ちょっと見てくるね」
わたしは、じゃぶんと水の中に入っていった。
外側がプールみたいだったけど、底もプールみたいに平らだ。
何かが隠されているような気配はない。
ウナギもいないし、モンスターらしきものはいなかった。
すぐに水面にあがっていく。
「なんにもなかったよ」
「もう取った後だったのかもネ」
わたしは床の上に這い上がる。
そしてその場に座り込んで、さっきゲットした物を床に並べていった。
すると、エミリーもその隣に並べていく。
「装備は剣と盾とガントレット、スキルの書はブリッツフォース? 神聖魔法の攻撃魔法と、調理スキルのクイックグリルだね」
「負けたら、こうやって取られちゃうんだねぇ、ある程度のところでやめないと」
「アイテムは、全部砂緒が持っていた方がいいネ」
「うん、それがいいと思う」
「でもこれ、多分、中間試験も兼ねてると思うよ?」
「あー、そうかー」
優ががっくりとする。
思い出したくない現実なのか。
「ン? なになニ?」
エミリーが不思議そうに首をかしげている。
アリス学園生ではないから、知らないんだろう。
「イベントの成績が中間試験とか、期末試験の代わりになってるんだよ。一応、勉強の方もするんだけど、それはお飾りで、こっちが成績の本命なんだ」
「ほー、なるほどネ」
わたしばっかりポイントを持っていたら、優の成績が悪くなってしまう。
それとも、パーティー単位で見てくれているのかな?
多分だけど、タンクに価値のあるお宝を持たせるのがセオリーだろうし。
「大丈夫だよ、砂緒ちゃんが持ってて」
「そうだネ、成績を付けるとしたら、ポイントだけを見ていないと思うヨ」
「じゃあ、最悪は逃げるようにするから」
ポイントを全部奪われたら、さすがに評価は悪くなるだろう。
「これで金貨が2枚と銀貨が9、装備が3、スキルが3だネ」
ひとつずつ、アイテムのポイントを調べていく。
何も持っていないわたしが、アイテムを取って確認していった。
「剣が50、盾が82、ガントレットが53……フォースが87、調理が24」
「ワタシの槍スキルも渡すヨ」
「槍スキルは槍が56だから……コインを会わせて合計で642ポイントだね」
「すごーい、トップを超えちゃったね」
「まぁ、ひとりでは持ってないだろうからね」
「六人パーティーだとしたら、六倍の3600ポイントくらい持ってると言うことだヨ」
要らなそうなのは、持って行かないとかもあるんだろうか?
ポイントが高いと目を付けられるしね。
「でも、見た目だけでも一位になれたのはすごいね」
あんまり目立ちたくはないけれど、すぐに追い抜かれるだろう。
でも……なんだこれ。
「あれ?」
「どうしたの?」
「なんか、水の量と流れが増えてないかな?」
「増えてるネ、プールから水が溢れてるよ」
心なしか、大気が震えているような気もする。
「まさか……」
「え? なになに?」
「洪水が来そうだって話だヨ」
「洪水!? なんで!?」
なんでかはわからないけど、川の水の量が増えていて、地響きが伝わってくる。
「ログアウトしよう」
「できないよ!」
遺跡の中でログアウトはできないの!?
それとも、イベント進行中みたいな扱い!?
「ポータルオン!」
できない!
どうする!?
「あはは、ホントに洪水なのかな? 他のプレイヤーが何かしたんだネ」
「ど、どうしよう!」
時間がない……走って逃げても水じゃ追いつかれるし……。
「そうだ! ボート!」
わたしは、孤島まで行くのに使ったボートをプールに浮かべる。
「ナイス! スナオ!」
「乗って!」
さっと全員でボートに乗る。
その瞬間、奥の通路から鉄砲水のような濁流が押し寄せてきた。
「きゃあああっ!」
「うわあぁぁぁっ!」
「ヤホオォォォォォッ!」
ボートは水に押し流されるように川を進んでいく。
すごい勢いだ。
「スペクタクルだネ!」
「そんなこと言ってる場合か!」
波に押し出されるように川を滑っていく。
すぐにY字路まで流されるけど、エミリーが槍で上手く来た方向に舵を取った。
「この先って確か!」
「滝があるよぉぉぉッ」
「アトラクションもいいネ!」
あっという間に押し流されて、滝までたどり着く。
「きゃあぁぁぁぁっ!」
「んぎいいぃぃぃっ!」
「やほーイ!」
ボートは宙に浮かび、そのまま滝壺に着水する。
水が跳び跳ねて、びしゃびしゃだけど、それは元からだ。
でも、水の勢いは止まらずに、ボートを押し流していく。
「この先ってどうなってるの!?」
「やっぱり川下も見ておけばよかった!」
「イケー! GOGO!」
スプラッシュな遊園地みたいなことをしていると、川の終わりがやってくる。
川が途中でなくなっていて、暗い闇の中に水が吸い込まれていた。
「きゃああぁぁぁぁっ!」
「ぐああぁぁぁぁっ!」
「宝探しはこうでなくっちゃネー!」
そしてそのまま……わたし達は、ボートごと闇に飲まれていった。
「ん……」
落ちていく浮遊感の再現が尋常じゃ無かった。
VRで遊園地もやれちゃいそうだ。
「みんな大丈夫?」
「たはは、刺激的だったネ」
「心臓が爆発するかと思ったよ~」
ふぅ……取りあえずみんな無事みたいだ。
「ヒールするね、<セイクリッドヒール>」
落下で受けたダメージが回復していく。
「ここはどこなんだろう?」
わたしはオートマッピングを調べてみる。
すると、そこには『始まりの間』と書かれていた。
初めに、滑り台で下りてきた砂地のところだ。
「ここに落ちてくるようになっていたんだ」
「<ホーリーライト>」
優が明かりを灯す。
すると、そこには初めに会った男の子がいた。
「なんだ、姉ちゃん達生きてたのか」
「そういうことカー」
エミリーがなんだか納得している。
なんだろう?
「ここでは、こうやって稼ぐんだぜ」
波にのまれた他のプレイヤーが砂地に倒れている。
そしてそれは、すぐに宝箱になった。
5人くらいいたけど、宝箱は4つだ。
「宝箱は半分ずつな。恨みっこ無しだぜ」
たくましいなぁ。
宝箱を2つ開けると、銀貨が8枚と、装備が2スキルが1だった。
ポイントは883。
トップだろう。
「じゃーなー、また会おうぜ」
男の子が、軽くウインクしてくる。
また会おう、確かそう言っていたけど、それがこういう意味だったとは……。
「あの子を襲えバ、大もうけできるヨ」
「さすがにそれはちょっとなぁ」
だからあの子は、襲われないよう明かりも点けずに、ここで待機しているんだ。
ポイントが増えて狙われないように、アイテムをどこかに隠している可能性もある。
でも、この攻略法は、すぐに真似されてしまうだろう。
いや、水が来るってわかっていれば、対策もできるのかな?
ロープで固定して、水呼吸ポーションとか。
「ねえ、今度はpvpエリアじゃない方に行ってみようよ」
「そうだネ」
「行ってみようか」
わたし達は、マイルームにポータルした後、また街からイベント会場に行ってみた。




