第四十九話 男の子との出会い
「どうやって進もうか?」
「真っ直ぐ進むのは、ちょっと怖いよね」
三階建てくらいの高さの滑り台を下りてきたわたし達は、だだっ広い部屋の中で戸惑っていた。
後ろに壁はある。
それなら……。
「右手の法則がいいかな?」
「右手の法則って何?」
「迷路で迷ったときに、右手を壁に当てて進んでいけば、出口から出られるという攻略法みたいなやつ」
「ははは、出口が壁沿いにあるなら有効だヨ」
それもそうか。
真ん中に、突然階段があるかも知れない。
「わかんないけど、真ん中を進んでいくのはなんか嫌だよ」
「じゃあ、右手で行こうカ」
後ろの壁に右手を当てると、そのまま右に進んでいく。
迷路じゃないから、迷うことはないんだけど。
「…………」
壁沿いにずっと歩いて行く。
下が砂地なだけで、他には何もないところだった。
「ここは、なんなんだろうネ?」
「ちょっと不気味だね」
「んっ!?」
視界の端に、何か動く者を見つけた。
モンスター?
でも、光から逃げるように動いた。
「<ウィルオーウィスプ>」
わたしはそれを追いかけるように走り出す。
「待ってて!」
返事を聞かずに飛び出して行く。
相手は足が遅い。
二足歩行だ。
モンスター?
いや違う……プレイヤーだ。
わたしは、それに追いつくと、タックルするように飛びついていった。
「はなせー! なにすんだよー!」
それは小学生くらいの少年だった。
なんか、わんぱくそうな少年だ。
わたしのウィルオーウィスプの明かりを目印に、ふたりが追いついてくる。
「砂地だと、足が疲れるネ」
「いきなり走り出すから驚いちゃったよ!」
「いいよ、来て」
そして、わたしが押さえ込んでいる者に目をやる。
「男の子……?」
「プレイヤーだったんだネ」
わたしは、男の子を離す。
男の子はむくれたような顔をして、地面に座り込んだ。
「光が近づいてきたから逃げたのかナ?」
白人の子供だ。
こんなところで何をしているんだろう?
「驚いちゃったかな、別に、お姉さん達は戦う気はないんだよ」
あやすように優が話し掛けるけど、男の子はそっぽを向く。
「こんなところで、何をしているのかナ?」
「ここはpvpエリアだぞ、殺せばいいだろ」
みんなで顔を見合わせる。
もちろん、そんな後味の悪いことはしない。
「どうする?」
「明かりも点けずに、こんなところに隠れているのはおかしいよ」
「まぁ、子供は殺せないしね」
「お前だって子どもだろうが!」
生意気盛りなんだろうか。
何をしているのか、吐かせたくなる。
「まぁ、何か必勝法があるんだろうネ」
エミリーの言う通りかも知れない。
この子は、何かに気が付いたんだ。
「何か困ってない? 大丈夫?」
優が優しく話し掛けると、満更でもないようにそっぽを向いた。
子供でも、美人に反応するのかー。
これだから男はなー。
「大丈夫だよ、殺さないんならさっさと行ってくれ」
「質問させてネ、ここはなんの空間なのかナ?」
「わからねえよ、落ちてきたらここにいたんだ」
ポータルでいくらでも戻ることはできる。
じゃあ、明かりも点けずに、何をやっていたんだろうか?
「くすぐってみル?」
「いっ!?」
男の子が驚いている。
くすぐられるのは苦手なのか。
「リライアビリティが下がっちゃうよ」
この子が見つけた攻略法が何かあるんだろう。
「じゃあ、行こうか」
男の子は、ホッとしているようだった。
「この先の壁沿いに、階段があったと思う、先は見てないけどね」
「本当、ありがとうね」
優が頭をナデナデすると、恥ずかしそうにその手をはね除けた。
今はスルーするしかない。
階段があるなら、昇っていこう。
「じゃあね」
「バイバイ」
「ああ、またな」
またな?
男の子は、またって言った?
でも、ふたりはその言葉尻が気にならなかったらしい。
翻訳の齟齬かな?
気にしすぎ?
考えながら歩いていると、情報通り壁沿いに階段があった。
「上る?」
「上ろウ!」
「じゃあ、わたしが先に上るね」
この広間のことは気になるけど、階段を上っていく。
階段を上った先は……何もない部屋だった。
扉もない。
「隠し扉かナ?」
でも、全員が昇ってくると、階段があった場所が閉じてしまう。
「閉じ込められた!?」
「罠かナ?」
何となく、部屋の中央に集まって様子を見る。
でも、何も起きなかった。
わたしは、オートマッピング機能を確認してみる。
でも、この四角い部屋しかわからない。
「キシュ1Fだって」
ここは、キシュという場所の一階らしい。
あの滑り台からして、三階分くらいは滑ったと思う。
昇ったのは一階分くらいだから、スタート地点は、もっと上の方にあったってことだ。
まぁ、プレイヤー全員で遺跡を歩いているとしたら、相当な広さだ。
MAPを全て埋めるなんて無理だろう。
「行き当たりばったりで探しながら歩くしかないだろうけド、ここはどうしようカ?」
「隠し扉だよね? そうしないと、閉じ込められちゃうし」
進行不能のバグみたいな扱いになっちゃうのかな?
取りあえず、わたしは壁を調べた。
「あっ……ここに隠し扉がある」
階段から上がって、正面の壁に隠し扉がある。
「罠はないね」
「開けていいヨ」
「気をつけてね」
「じゃあ、開けるよ?」
わたしは扉を開けて、壁の向こうに行く。
そこは……水路のある通路だった。




