第四十八話 第二回イベント開始
イベントの日になった。
正確には、昨日の深夜にイベントが開始されたんだけど、朝から参加しようということで、優とエミリーと打ち合わせていたのだ。
「砂緒ちゃんは、イベントマップの情報見た?」
「なんにも見てない」
「私も見てないんだぁ、楽しみだよね」
「うん、でも、昨日の夜に解放だから、まだ情報はそんなに無さそう」
「それが楽しいよねぇ」
「きっと、なんかいやらしいことを考えてるよ、運営は」
「エミリーちゃん来てるかな?」
時差があるから、あまり無理をしないで欲しいけど、時間には融通が利くみたいだ。
土曜日で学校が休みだったけど、登校して部屋を借りて、優と二人でログインした。
マイルームで、ルーティーン的なあれこれをしてから、孤島に行く。
ここは人が少ないから、待ち合わせるのに便利だった。
「おはよウ、スナオ」
「おはよう」
優はもう来ていて、ワクワクしているようだった。
わたしは、楽しみとハラハラが半分ずつくらいだ。
「イベントマップ見に行ったけド、遺跡だったよ」
「えー、見に行っちゃったのぉ?」
「ごめんごめん、つい待ちきれなくてネ、でも、まだ探検はしてないヨ」
「遺跡? マップ全部が遺跡なの?」
「多分、かなり広範囲にわたって遺跡だネ」
それはすごい。
現実にはあり得ないことだけど、そこはゲームならではなのか。
恐らく、ひとつの県くらいには広いんじゃないだろうか?
凄まじい人数が挑戦する遺跡なんだから。
「スタート地点はみんな違うみたイ、中心に向かって攻略していくのがセオリーっぽいヨ」
「じゃあ、行ってみようよ!」
「街に、イベントマップに飛ぶNPCがいるから、そこからだネ」
「じゃあ行こうか」
街にポータルしてから、パーティーを組んでイベントキャラに話し掛ける。
「イベントのご参加ありがとうございます、pvpエリアの方が、高価なお宝があるという噂ですよ」
うげー、またバトルなのか。
しかも、お宝を掛けて奪い合いをするのかな?
「どうする?」
「pvpエリアに行ってみよウ!」
「急に怖くなってきたよぉ」
「まぁ、今のところ、失う物もないし、pvpエリアにいってみよう」
わたし達は、イベントマップのpvpエリアに移動した。
「…………」
暗い建物の中だけど、微妙に空気が乾燥してる気がする。
外は砂漠みたいな設定なのかな?
ということは、ピラミッド的な建物?
「<ホーリーライト>」
優の杖が明るく灯る。
結構遠くまで見通せる光で、アンデッド的なものにダメージも与えられるから、ピラミッドなら調度良かった。
ピラミッドって、お墓だもんね。
「ワクワクしてきタ!」
「ちょっと待って、何か聞こえる……」
聞き耳をすると、遠くから色々な音が聞こえてくるけれど、近くからは聞こえない。
取りあえずは進んでも大丈夫そうだ。
「どう?」
「大丈夫、近くにはいないみたい」
「戦闘も盛り上がるけどネ!」
宝探しと言うよりも、宝奪い合いなのかな?
pvpエリアじゃなければ、純粋な宝探しなのかも知れない。
「いきなり襲われるかも知れないから気をつけて」
「宝探しっぽくはあるよね!」
優は、ドキドキよりもワクワクが勝ったみたいだ。
VRならではの臨場感も相まって、わたしも昂ぶってしまう。
「でも、何を争うんだろう?」
冷静に考えたら、他のパーティと出会っても、どうもって挨拶をして通り過ぎるだけじゃないの?
「手に入れたお宝を、奪えるのかなぁ?」
「まぁ、考えても始まらないヨ、先に進んでみよウ!」
ここは通路の一番端のようだった。
行く道はひとつで、迷いがない。
「でも、こういうときって後ろが怪しくないかな?」
わたしは、後ろの壁を探し始める。
「うんうん、隠し扉とかありそうだよね」
「スナオは慎重だネ」
エミリーは、やれやれという声を出しているけれども、見つけてしまった。
「ここが押せるようになってる」
「えーっ!?」
スタート地点の壁に少しだけ切り込みがあって、多分押せるようになっているんだと思う。
「罠かな! それとも隠し扉!?」
「押してみよウ!」
「あっ!」
相談する前に、エミリーが押してしまう。
すると、急に身体が不安定になった。
床が……無くなっている。
「キャアアァァァァァッ!」
「あはははははははははっ!」
「もうぅぅぅぅっ!」
わたし達は、床が抜けて滑り台みたいなったところを、勢いよく滑っていく。
優のスカートがひらひらしているのがやけに目に付いた。
やっぱり、冒険にスカートは不向きなのかな。
まぁ、神官はお色気担当なのかも知れないけど。
そんなことを考えていると、終点まで滑り降りていた。
「きゃっ!」
「イタタ、下は砂だネ」
わたしは、ふたりにぶつからないように、華麗に避けて降り立った。
優のホーリーライトが、広い空間を映し出す。
前には壁が見えなかった。
「モンスター部屋かな?」
「ボスとかいるのかも」
「お宝いっぱいかもネ!」
それはないと思うけど……。
オートマッピング機能を確認してみる。
「始まりの間って、書いてある」
端の壁が見えない、相当に広い空間だ。
「でも、意味もなく、こんな広い空間は作らないよね?」
「罠なら、人の骨とか落ちてるのがパターンだヨ!」
周りには砂だけで、そういう物は見えない。
いきなりの変なスタートになってしまったけど、これがわたし達の第二回イベントの始まりだった。




