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第四十六話 初めての代行屋


 そして昼休み。


 学食でご飯を食べて、いい時間になると、交渉に赴いた。


 あまり早くても先方が困るだろうし、遅いとどこかに行ってしまうかも知れない。


 少しドキドキしながら二年生の教室に行く。


 一年生の教室とは、少し違う雰囲気を感じながら、出て来る人に声を掛けた。


「すみません、長谷川先輩はいますか?」


「長谷川かい? えーと……」


 教室を振り返って中を見る。


 わたし達は、長谷川先輩の顔も知らないのだから、こうする他ない。


「今は居ないな、一年生かい?」


「そ、そうですけど……」


 冷静そうな、女の先輩だ。


 頭も良さそうで、美人で抜け目が無さそうで……ちょっと身構えてしまう。


「そう警戒しないでくれ、私は後輩を取って食いはしないよ」


「す、すみません……」


 優も緊張していたようだ。


 ぺこりと頭を下げる。


「私は二年の野々村だ、代行屋をやっている、用があるなら全部引き受けるが」


「代行屋って……なんですか?」


 あまり聞いた事がない。


 うちのクラスには、多分いないと思う。


「そんなに難しく考えなくてもいい、君たちの目的を私が遂行しよう、途中の諸々を全部私が片付け、君たちに成果だけを届けるという仕事だ」


「ど、どうしよう……」


「わ、わたしもわかんないよ……」


 でも、考えないと。


 ここは油断すると、食い物にされてしまう怖い学校なんだ。


「…………」


 代行屋ということは、情報が必要ならこの人が情報を集めて、入札が必要なら、この人が入札をしてくれて、両替が必要ならこの人がやってくれるってことか。


 いいんじゃないだろうか?、同じクラスなら長谷川先輩のことで知っていることもあるだろうし。


「優、お任せしよう」


「い、いいの?」


「よし、じゃあ決まりだ、私は君たちの何を代行すればいいのかな?」


 どれくらい取られるんだろうか。


 料金が高かったら、断ればいい。


「長谷川さんの持っている☆7アイテム、プリンセスティアラを現金100万円で落札して欲しいです」


「ほう、それは大きな案件だね、ちょっと待ってくれたまえよ」


 野々村先輩は、スマホを弄り始める。


 プリンセスティアラで検索しているんだろうか?


「なるほど、長谷川が100万円くらいで売ると表明しているわけだね、これは簡単な仕事に思えるが……さて、君たちにライバルがいるかも知れない」


「それは、そうですね」


 同じく買いたいという人がいたら、競争になることは予想できる。


 すると、高い値段を出した人に売りたくなるのが人情だろう。


「上限として、いくらまでなら出せるのかな?」


「…………」


 なんか、差額をこの人が着服しそうに思える。


 でも、アイテムは欲しいし……やっぱり、長谷川先輩と直接やりとりをした方がいいかな?


「これは、あくまで仕事を遂行する上での必要な情報だ、私は長谷川をよく知っている、君たちよりも良い結果を出せる自身があるがどうかな? 成功報酬で1万円をもらおう」


「わかりました、最大で103万5千円を出せます」


「えっ、優!」


 さっき両替したお金から、野々村先輩への成功報酬を引いた額だ。


 でも、優がこんなに積極的になるなんて……。


 野々村先輩に、何か感じたのかな?


「了解した、何とかして見せようじゃないか」


 不敵な笑顔を浮かべている。


 自分の得だけを提案してくるのが、三流の詐欺師。


 お互いの得を提案してくるのが、二流の商人。


 相手だけが得な取引を提案してくるのが、一流の悪魔というけれど……。


 さて、野々村先輩はなんなのだろう。


「連絡先を教えてくれたまえ」


 優が、連絡先を交換している。


 知らない人に連絡先を教えるのは怖いけど、学校の先輩だし、まぁ、いいのかな。


 後は、吉報を待つのみか。


「じゃあ、お願いします」


「任せてくれ」


 野々村先輩は、教室の中へと戻っていった。


 まさか、本当は長谷川先輩が中にいたんじゃないよね?


「やあ、君たち野々村に用事かい?」


「えっ?」


 今度は、男の先輩がわたし達に声を掛けてきた。


 な、なんなの?


「野々村に関して情報を買わないかい? アイツが信用に足る人間かどうか、ボクの知っている限りの情報を教えよう」


「も、もうキリがないよぅ」


 優が音を上げている。


 もう限界だ。


「す、すみません、今回はもういいです」


「そうかい、残念だね、知っておいた方がいい情報もあるんだけどなぁ」


「うぐっ」


 さすが二年生。


 去年一年間、こういうことをやってきた経験値がある。


 一年生とはひと味もふた味も違う、くせ者揃いな感じだった。


 でも、無い袖は振れない。


 もう予算もメンタルもギリギリだろう。


「帰ろう、優」


「じゃあ、何かあったらまた来てね」


 男の先輩が、わたし達に手を振っている。


 エミリーはこういうのがやりたいんだろうか?


 人間不信になりそうで、なんか嫌だった。


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