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第四十五話 トイレの両替商


「おはよう、優」


「おはよう、砂緒ちゃん」


 朝、登校すると、優はいつも通り早く来ていた。


 もっと寝ていたいとか、学校休んじゃおうとか、思わないんだろうか。


 いや、思わないか。


 朝、学校に行くのは、もう訓練されたように馴染んでいる。


 ましてや真面目な優なら、思いもしなさそうだ。


 だからモテるんだな。


「イベントのPV見た?」


「あ、もう出てるんだ、まだ見てないや」


 次回イベントがもうすぐ開催される。


 今度は、宝探しらしい。


 どんなルールなのかは、相変わらず当日までわからない。


 すぐに的確な判断で、最善を尽くさないといけないわけだ。


「イベントPVに、リサちゃんが出てたよ」


「へぇ、わたしも見ないと」


 さすが前回イベント一位パーティー。


 見た目もかわいいし、広告塔としては最適だろう。


 リアルでも大企業のCEOの娘らしいし、持ってるものが違うね。


「そうだ、ポーション結構売れてたよ」


「そうなの! もう、競売の登録数ギリギリまでポーション並べておいたよ!」


「じゃあ、結構儲かったんじゃないの?」


 一本900イヤの儲けだ。


 十本売れれば9ルピ。


 百本売れれば90ルピだ。


 バカスカ売れてくれれば、とんでもない利益になるはずだった。


「お金が貯まったから、昼休みに交渉に行きたいんだ」


「え? 交渉って何?」


 優がなんだか、もじもじとしている。


 遠巻きに、男子がエロい目で見ているのを感じた。


「☆7装備のプリンセスティアラを安く売ってくれる人がいるから、交渉に行きたいの」


 そういうのか!


 それは、わたしも興味がある。


「わたしも行っていい?」


「もちろんだよぉ、一緒に来て、ちょっと怖いし」


 ☆7装備ともなれば、大台を超える物がたくさんある。


 いわゆるミリオンだ。


「ルピで買うの?」


「ううん、日本円で欲しいんだって、だから、両替商でルピを日本円にしなくちゃいけないの」


 ゲーム内で取引している業者だと、二割が手数料になっていた。


 でも、1000ルピなら、ギリギリ学園内でも両替できると思う。


「両替は、次の休み時間にやっておこうか」


「そうだね、すぐだしね」


 十分あれば、両替くらいできるだろう。


 そして、昼休みに本命の交渉というわけだ。


「でも、☆7装備って、物にもよるけど結構高そうだね」


「そうなの、1~2ラルトのアイテムなんだけど、アリス学園の生徒なら100万円で売ってくれるんだって」


 両替のギャップはこちら持ちってことか。


 まぁ、円が必要になることもあるだろう。


 でも、☆7装備なんて狙って出せる物じゃないし、学園の生徒が持っているなら好都合だ。


「プリンセスティアラの効果は何?」


「MP消費が20%カットとMP回復速度30%アップ、魔法の威力が20%アップだよ」


「いいね、それは欲しいね」


 これはかなり強い。


 魔法職なら誰でも使える能力だし、100万円なら転売しようとする悪い奴もいそうだ。


 早めにゲットした方がいいだろう。


「でしょう? これは出物だと思うんだよね」


「優のこと応援してるよ」


 でも、中学生が100万円の買い物というのは、金銭感覚がおかしくなっているかな?


 ゲーム内で稼いでゲーム内で使ってるから意識が希薄になってるけど、こうして100万円を払うとなると、重みが感じられる。


「席に着けー」


「先生来たよ」


「じゃあ、次の休み時間にね」


 わたしたちは、席についてヘッドセットを付けていった。





 休み時間になった。


 両替商のところに行く時間だ。


 時間は十分。


 さっと行ってさっと帰ってこないと。


「一番安い人を探そう、パッと出て来るかな」


「待って、ここは情報屋でしょう」


「情報屋さん?」


 優が不思議そうな顔をしている。


 でも、こういうときこそ情報屋の出番だと思っていた。


 わたしは、何かと絡んでくるクラスの情報屋、池戸さんの席まで行く。


「池戸さん、一番安い両替商を探しているんだけど、知ってる?」


 突然話し掛けられた池戸さんは、値踏みするような目でわたしを見てきた。


 なんか、こういうジリジリするの苦手だなぁ。


「そうね……体育館の女子トイレの一番奥で取引している三年の先輩が安いわよ、手数料5%くらいで、5ラルトくらいなら取引できるわ」


 やっぱり情報があった。


 手数料5%もかなり安いと言える。


「そうなんだ、ありがとう、情報料を払うよ」


「いいえ、これはお近づきの印よ、情報料はタダにしておくわ」


「そ、そう? わかった、ありがとう」


 なんか借りを作っているみたいでイヤだけど、まぁ、いいか。


「情報があったよ、体育館の女子トイレだって」


「そんなところで取引するの? 大丈夫?」


「三年の先輩らしいけど、授業は出てないのかも知れないね」


 そのまま、優と体育館へ行く。


 次の授業で体育館は使われないのか、閑散としていた。


 トイレに行くけど、誰もいない。


 他のお客さんもいないみたいだけど、奥の扉が閉まっていた。


 優と二人で目を合わせる。


 コクリと頷いて、優がノックした。


「買い? 売り?」


 中から、そんな声が聞こえてくる。


「ルピを円にしたいです」


 円が主体だろうから、この場合は買いだろう。


「買いだね、いくらだい?」


「1100ルピを売りたいんですけど……」


 5ラルト……つまり、5000ルピくらいまでなら取引できると言っていた。


 間違いがなければ、いけるはずだけど……。


「いいよ、扉の前にあるQRコードを読んで」


 トイレの扉に、QRコードが張ってある。


 優がそれをスマホで読み込むと、104万5千円の表示が出ていた。


 レストランとかもそうだけど、アリス学園内では、スマホでルピのやりとりができる。


 恐る恐る、優がスマホをタップした。


「毎度あり」


「あ、ありがとうございます!」


 すぐに口座を見てみると、確かにお金が増えているようだった。


「大丈夫、成功だよ」


「良かったね、授業が始まる前に帰ろう」


 それにしても、これって税金がかかるんだろうか?


 一時所得とかで?


 税務署も、気が付いていないだろうけど。


 そして、すぐに教室に帰って、すぐ授業が始まった。


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