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第四十一話 ミクロリニア


「ふぅ……」


 夜、お風呂に入って麦茶を飲むと、優からつぶやきが来ていた。


「なんじゃらげのライブチケットが当たっちゃった! ペアチケットだから一緒に行こう!」


 なんじゃらげは、ちょっと下品だけど人気のあるお笑い芸人だ。


 好感度は低いけど、変な人気がある。


 動画もたくさん上がっているから、コントを見たことがあった。


 面白いと思うけど、優がなんじゃらげを好きだとは意外だ。


 そんなに好きじゃないけど、たまたまチケットが当たっちゃったのかな?


「一緒に行こう、楽しみにしてるね」


 と返事をする。


 すると、すぐにその返事が来た。


「ありがとう! わたしも楽しみだよ」


 変なスタンプを返してスマホを置く。


「はぁ……ちょっと熱いけどログインしようかな」


 わたしは、薄手の部屋着に着替えると、ログインしていった。


 身体が火照っているけど、気温はあまり高くないので丁度いい。


「さて、水呼吸ポーションは……全部売れてるね」


 他にも、売り物がぼちぼちと売れている。


 わたしは、孤島に飛んで水呼吸ポーションを補充すると、またそれを競売に出してマイルームに戻った。


「虹色のオーブをどうしようか……」


 多分、どこでも使えるんだと思う。


 それゆえの虹色なんだろう。


 これを手に入れたのは、最下層のボスを倒したときだ。


 つまり、使うところは限られているんだと思う。


 候補としては、最下層か、新しい世界の初めの街か最終マップだ。


 最下層とか、最終マップとか、人が来るようになれば潤うんだろうけど、今のところあてにはならない。


 それなら、新しい世界の最初の街の領主になるのがいいような気がする。


 みんなに来てもらえば、すぐにも潤うし、戦わなくても転職で大きく儲けられるだろう。


「やっぱ、それしかないよね」


 みんなに来てもらうかはまだ保留としても、それが一番楽しいだろうという予感はあった。


「ダイフク、タマ、行くよ」


「ぴゅーい!」


「みゅうみゅうー!」


 部屋の中で遊んでいた二匹は、わたしの足下に寄ってくると、撫でて欲しそうにすり寄ってきた。


「しょうがないな、このこの!」


 二匹を両手でわしゃわしゃと揉みたくる。


 何とも言えない、ストレス緩和成分が揮発されているような、いい匂いがした。


「ぴゅーい、ぴゅぅぅい」


「みゅううぅっ、みゅー」


 気持ちよさそうにゴロゴロとした声を出す。


 いつまでもこうしていたいけど、時間は有限だ。


「じゃあ、出発!」


 わたしは、新しい世界の街にポータルした。


「…………」


 当たり前だけど、まだ、誰もプレイヤーはいない。


 人口もあまり多そうな街ではないので、何となく寂しい。


 本当に、ここでオーブを使っても良いのか、一瞬考えてしまった。


「いやいや、ここでいいんだよ」


 時間をかけると、慎重になってしまう自分の性格を知っている。


 わたしは、虹色のオーブを出すと、それを手の平にのせた。


「<セグメント>」


 虹色の光が立ち上り、それが空を一瞬だけ覆う。


 まるで、オーロラの様なきれいな光景だったけれども、それを観測したのはわたしだけだった。


 もうこれで引き返せない。


 後悔しても始まらないぞ。


 ステータスを出すと、ミクロリニアの領主という名前が付いていた。


 そういう名前の街だったらしい。


 さて、街の中を探検してみようかな。


「うーん……」


 まずは美味しいもの?


 あんまり、食糧が豊かじゃ無いっぽい土地だけど。


 わたしは、手近に見つけたレストランに入ってみた。


「これは領主様、いらっしゃいませ、今日は特別なメニューがございます」


「じゃあ、それをください」


「かしこまりました」


 即断即決。


 海マップの孤島とは違って、元々どんなメニューのどんな味なのかわからないので、食べるしかない。


 欲張るなら、通常のメニューを一緒に食べる手もあるけど、なんか不健康そうで嫌だった。


「お待たせいたしました、ミクロリニア特産ジュレとサブレでございます」


「…………」


 出て来たのは、あまり美味しそうじゃないゼリーのような食べ物と、固形のクッキーみたいな食べ物だった。


 デザートなのかな?


 これでお腹いっぱいにはならないと思うけど、そもそも、ゲームの中でお腹いっぱいにはならないから関係ないか。


 取りあえず、スプーンでゼリーをすくってみる。


 結構弾力のある感じだ。


「んぐんぐ……ん!?」


 口の中に入れてみると、甘みとコクが一瞬で広がっていく。


「なにこれ!」


 滅茶苦茶ウマイ。


 白っぽい四角いゼリーは、甘みとコクと塩バター感のある、こってりとした食べ物だった。


 どっちかというとデザートなのかな? でも、上手く分類できない。


「じゃあこっちも……」


 次に、長方形のクッキーを食べてみる。


 朝忙しいときに食べるプロテインバーみたいな見た目だ。


「んんっ! ンマイ!」


 こっちは、完全にしょっぱい味で、小麦の香りがいっぱいに広がる、高級パンに肉の味がプラスされたような味だった。


 独特だけど、決して嫌いじゃない。


 これはこれで美味しいものだった。


「そうだ……」


 クッキーにゼリーをのせてみる。


 そして、それを一緒に食べると……。


「んんんんんんっ!? あまじょっぱくて美味しい!」


 パンにジャムを付けて食べる形の最上位版だ。


 用意されている水を飲んでみると、それさえも異常に美味しく感じられた。


「グルメのためだけでも、領主になる価値あるね」


 すると、そこでピコーンと音が鳴った。


 なんだろう?


 ステータスを開いてみると、そこには領主クエストが登録されていた。


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