第四話 最下層
すみません、遅刻しました。
お楽しみ下さい。
「ここは……どこなんだろう?」
辺りに人がいる気配はない。
見たこともない地形で、明かりは床や天井がぼうっと光っている。
「ロケーションを使おう」
現在地を確かめる石みたいな消耗品で、どこでも売っている基本的なアイテムだ。
「ロケーションオン」
目の前にMAPが表示される。
詳細はわからないけれど、かなり広い。
初めの方のダンジョンよりも、ずっと広い地形だった。
まぁ、億という人がプレイするゲームだから、なんでもスケールは大きくなりがちだ。
でも……。
「え!? ダンジョン最下層!?」
MAPにそう表示されている。
ゲームは日々アップデートされているけれど、もう、最下層まで作られていたんだ。
まだ始まったばかりだから、未踏の地が多いんだけど、どうやらここが最深部のようだった。
ダンジョンは、縦に深くなっていくだけではなく、横にも広がっていくから、全てを把握するのは難しい。
しかも、最下層なんてまだ始まったばかりのゲームで無理な話だった。
「…………」
地形は……自然の洞窟っぽい。
湖になっていたり、空と森の地域があったり、ダンジョンと言っても色々なんだけど、ここは正にダンジョンという感じだった。
最下層なんて、神の領域みたいになってるのかと思ったんだけど……。
取りあえず、少し進んでみる。
敵に会う前に、アイテム採取できる場所とかあったらラッキーだ。
でも……。
「ん?」
急に辺りが暗くなった気がした。
暗くなったというか……光が遮られている。
これは……巨人か!?
「なんじゃこれはー!」
デカイ。
あまりにもデカイ巨人だった。
普通の階層なら立てないくらいデカイ。
十メートル以上ありそうな巨人だった。
すごく好戦的な感じで、わたしに気が付いている。
それが、手に持っている棍棒を振り上げた。
「あ……」
死んだ。
耐えられるわけがない。
わたし、死んだこと無いんだよなぁ。
最下層だもんなぁ……。
わたしは、ギュッと目を瞑る。
しかし……ガキンという音がした後、いつまで経っても衝撃が伝わってこなかった。
まさか、外した?
目を開けると、ダイフクが飛び上がって、巨人の攻撃を受け止めている。
「ぴゅーいっ!」
「えっ、強いの!?」
巨人がよろける。
渾身の一撃を弾かれて、体勢を崩したようだった。
「ぴゅうううぅ……」
そして、ダイフクが角の先に光を溜めていく。
なに!? 溜め攻撃!?
「ぴゅいいいぃぃぃぃっ!」
そして、角から放たれた電撃は、一撃で巨人を包み込んだ。
「グウオオオォォォォォ!」
巨人が巨体をくねらせて苦しんでいる。
そして……そのままデータの藻屑になった。
勝ったんだ。
ダイフク、すごく強い?
宝箱がズドンと落ちてくる。
見たことのない、極彩色の宝箱だ。
「これ、経験値もすごい入ったよね」
わたしは、褒めて欲しそうなダイフクをナデナデした。
「ぴゅーい!」
ダイフクが喜んでいる。
かわいい奴め。
「さて……」
宝箱開けられるかな。
今のところ、宝箱に悪質なトラップが仕掛けられていることが少なく、スカウトがいらない子になっている原因なんだけど……。
わたしは、宝箱に手をかざして罠を調べてみる。
罠は……テレポート!?
これって、石の中に入る奴!?
「……………」
今は、スカウト要らないみたいな風潮だけど、後でみんな困るんだろうな。
それとも、魔法とかアイテムとかで代用できるのかな?
「解除は無理っぽいかなぁ……」
テレポートの罠をタップして、解除率を調べてみる。
すると……。
「解除率は……100%!?」
そんな馬鹿なことがあるだろうか?
スカウトのレベルだけだと最大でも95%だったはずだ。
「ということは……運?」
ダイフクの加護が、わたしの運を引き上げているっぽい。
相当にレベルの高い宝箱だと思うけど、解除率100%とは……。
そういうことなら、開けない手はない。
罠を解除して宝箱を開けてみると、中には超レアガチャ券と見たことのないショートソード、装飾品や宝石がたくさん入っていた。
売ったらどれくらいになるんだろう。
すんごい額なんじゃないだろうか?
「これ……もしかして来た?」
この最下層で、わたし、滅茶苦茶儲けられる?
ゲーム内通貨を日本円に変える両替商も居るし、ヤバくない?
パーティーを追放されたときは、どうなることかと思ったけど、ホントに、人生塞翁が馬だなぁ。
いつもなら、今頃パーティープレイしていただろう。
ソロになったからこそ、得られたチャンスだった。
「よーし! 儲けるぞーっ!」
「ぴゅーい!」
わたしはダイフクをわしゃわしゃしながら、期待に胸を膨らませていった。