第三十九話 トリコロール海
「わぁ……」
オーブから光が立ち上り、それが空を覆っていく。
そして……手の中から、オーブは消えていた。
「これで、領主になったの?」
「ステータスを見てみよう」
ステータス画面を出してみると、トリコロールの領主という名前が、新たに加わっていた。
「ここの海は、トリコロール海って言うんだネ」
珊瑚がキレイで、トリコロールなのかな?
まぁ、いわくはわからないけど。
「あっ、なんか増えてる!」
「どこ?」
「画面の右下!」
視界の右下に、なにかお金の袋みたいなのがもぞもぞしていた。
「なんだろうね?」
わたしはそれをタップしてみる。
すると、細かく、3イヤとか5イヤとか細かい単位で、お金が増えているようだった。
「税金が入ってる!?」
「えっ、そうなノ!?」
額は少ないけれども、ものすごい勢いで細かくお金が増えているようだった。
「こ、これ、寝ている間も増えていくんだよね?」
「多分そうじゃないかな、海マップが廃れるまでは、儲かりそうだね」
「その階層のボスを倒すと、その階層を支配できるわけだネ!」
支配というのは、ちょっと言葉が鋭い気もするけど、領主になるっていうのはそういうことのようだった。
「これは、新しいマップに行きたがる人が増えそうだね」
オーブを得られるかどうかで、その後が大きく違ってくる可能性がある。
まだ、領主のうまみはあまりわかってないけど。
「あんまり、シビアになるのは嫌だね」
「のんびりな感じではなくなるのかな?」
「全員がそうではないヨ、もちろんあわよくば狙うんだろうけド」
こうすることで、新しいマップを開拓する人が増えるという、テコ入れみたいなものなのかも知れない。
お金を稼ぐ手段が増えると、インフレしそうだけれど、どこかで帳尻を合わせてくるんだろう。
なにか、お金を使わせるシステムも組み込まれているに違いない。
「ん? クエストだ」
「私も来た」
「ワタシもだヨ」
領主クエスト、ひっつきガニを五匹倒せ。
トリコロールの住民が困っている、引っ付きガニを倒せ。
領主には仕事もあるワケなんだ。
「私は、街の人を治療しろって出てる」
「わたしはカニを倒せ」
「ワタシは、ポーションを納品しろだっテ」
「へぇー」
「それぞれに得意なことがクエストになるんだね」
わたしに、街の人を癒せってクエストが出ても困る。
無理なくこなせる範囲で、クエストが出て来るのかな?
「でも、このクエストは時間制限がないネ、暇なときにやればいいみたいだヨ」
「放っておくと、どんどんクエストが溜まっていくのかな?」
「そうすると、民忠みたいなのが下がったりして」
そういう経営要素はどれくらい本格的なんだろう。
本来の主旨とは違うから、ガッツリは来ないと思うけど。
「税収が落ちていくとかありそうなの?」
「革命が起きて、領主じゃいられなくなるのかも」
「怖いナァ」
まぁ、取りあえず、もう領主になってしまったものは仕方が無い。
成るようになれだ。
「村に行ってみようよ」
今は孤島にいるから、フルーツが採れる村だ。
乗り物も売ってるんだけど、まさか、解放されてる?
「行ってみよう!」
「うん」
暑い夏の日差しがギラギラしている中、わたし達は村まで歩いた。
「これはこれは領主様、ご機嫌麗しく」
「おおおぉ……」
NPCがわたし達を意識している。
「すごぉい、領主様だって」
「んー、物が安くなったりしないのかナ?」
「ありそうだね、道具屋さんに入ってみよう」
近くにあった道具屋さんに入ってみる。
「これはこれは領主様、実は、特別な品が入荷したんですよ、なんと、水の中で呼吸ができる薬! 一瓶100イヤです」
「はえー」
優が変な声を出している。
ちょっと特別感あって、こそばゆいよね。
VRだから、余計にそういう気持ちがわいてくる。
「これをプレイヤーに売って、海の中も採取してもらえバ、税収もアップする仕組みなのかナ?」
「それいいかも」
取りあえず、みんな十本買ってみた。
後で競売に登録してみよう。
「あとは乗り物だね」
「解放されてるかナ?」
「おじさん、乗り物は入荷しましたか?」
露店でサーフボードを売っているおじさんに、優が話し掛ける。
「これは領主様、大変申し訳ないのですが、まだ入荷していないのですよ」
「そうですか、残念ですけど、また来ますね」
「乗り物は、運営が解放するタイミングを見計らっているんだネ」
悪用ができると考えているんだろう。
この孤島にあるんだから、まずは船の実装が先なのかな?
「じゃあ、フルーツ屋さんに行ってみよう!」
「おいしいのが入荷してるかな?」
「スナオはフルーツ好きだネ」
なんか、むしろ一番楽しみな気持ちを抑えながら、フルーツが食べられるお店に向かって行った。




