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第三十七話 真実の狙い


「…………」


 海MAPの孤島には誰もいなかった。


 もしかしたら、優が採取してるかも知れないけど……。


 ワールドチャットで、さっきのことが話題になっているかも知れない。


 でも、詳しい事情を知らない人から見れば、お馬鹿なプレイヤーが暴れただけに見えるだろう。


「さて、話のつづきだヨ、なんでキミはBANされないんだイ?」


 エミリーは、買い取り商人さんに向かって、そう話を切り出してきた。


「…………」


 わたしが聞きたい事ってなんなんだろう……。


 心がチクリと痛むのは……やっぱり、お父さんのことだ。


 でも……。


「さあな、オレも友達認定されているのかな?」


 買い取り商人さんは、プロフィールも交換していないし、友達……という感覚はない。


 大人の人だし。


「そしてさっきは襲われたのに、今は襲われていなイ、マギウスが諦めたのかナ?」


「そうじゃなくて……どうしてエミリーと買い取り商人さんが、わたしのお父さんのことを知っているの?」


 その界隈では有名人なんだろう。


 でも、買い取り商人さんとも、エミリーとも、出会ったのは偶然だ。


 そのふたりが、わたしも知らなかったお父さんのことを探っているのは、釈然としなかった。


「アリス学園の月間ランキング一位が、異常なポイントで名前が一橋だった。これだけでも、十分なニュースだ」


「一橋なんて名前、いくらでもあるじゃないですか……」


「いやあ、ピンと来る奴なら、みんな怪しいと思ってたぜ」


「…………」


 怪しいと思われてたんだ。


 もしかしたら、運営の人とかにも目を付けられていたのかも知れない。


「ワタシが気が付いたのは、吟遊詩人が、海MAPの詩を詠っているところからだヨ」


 それは、わたしもおかしいと思っていた。


 わたし達しか知らないはずのことを、街で詠っていたんだから……。


「初めは、何かのイベントかとも思ったんだけど、公式フォーラムで運営がそれを否定していタ」


 買い取り商人さんも、そこを指摘していた。


 何かのミスじゃなければ、おかしいということになる。


「じゃあ、誰も知らないはずの海MAPの出来事を、どうして吟遊詩人が歌っているノ?」


「それは……」


 わたしは、運営の人がやってるんだって思っていた。


 それ以外に考えられないし……。


「それでネ? これは、マギウスが運営の手を離れていることの証拠じゃないかなって思ったノ」


「うん……」


 そこで、じゃあマギウスは何をしようとしてるんだって話になる。


 さっき、隠れて聞いていた通りのことだった。


「お父さんが……マギウスを作ったんだよね?」


「そうだ、一橋和利、確かに君のお父さんだ」


 もしかしたら、両親は離婚していないのかも知れない。


 別れていたら、名字が変わっているだろう。


 なにか事情があって、別れて暮らしている……?


「悪いと思ったが、ご実家にも行って確認した」


「おじいちゃんの家に行ったんですか?」


「ああ、詳しい話は聞けなかったけどな」


 なんだか、話がおかしなことになっていた。


 お父さんに会いたいとか、何も思わないけど……。


「スナオが知っていることを教えて?」


「な、なんにも知らないよ、今だって、わけわかんないし……」


「何か気が付いたことはないか? 身の回りでおかしなことがあるとか」


 おかしなこと……。


 やっぱり、ダイフクとタマのことかな……。


 他には……。


「えと……身体が……運動神経が良くなってる」


「えっ!?」


 エミリーが凄く驚いていた。


 買い取り商人さんは、黙って聞いている。


「わたし、スポーツ全然駄目だったのに、走るのも遅かったのに、いつの間にかクラスで一番スポーツが出来るようになっちゃった……」


 ふたりが視線を交わしている。


 やっぱり、これって異常なことだったんだよね。


 育ち盛りとか、そういうことではなく。


「それはいつかラ?」


「気が付いたのは、月間ランキングの発表の日くらいから……後、勉強も意欲がわいてきて、もっと勉強しなくちゃって思うようになった」


 頭も良くなっているんだろうか?


 勉強をしようという意欲は、前よりも格段にあるけど……。


 それは、アリス学園という特殊な環境の中で、ちゃんと勉強もしなくちゃという、心構えみたいなものから発生していると思っていた。


「ワールドインアビスの椅子があるだろ?」


「椅子……電気代が高い……」


 みんなに不評な、あの椅子だ。


 値段も高いし、ブレーカーも飛ぶしと、散々な評価の椅子だけど……。


「そうアレだ、あれがどうして電気代が高いか知っているか?」


「わからないです……熱を作るわけでもないし、無能だってネットで……」


 そこで一拍おくようにして、買い取り商人さんが話してくれた。


「ある仮説を立てている人がいるんだ」


「仮説……ですか?」


「その人が言うには、ゲームで得た経験を、現実に反映させるために、椅子のあちこちに特殊な装置が付いていると言うんだ」


 運動神経が良くなっているのは、ゲームの経験がフィードバックされているから?


 でも、わたしだけに起きているって、おかしくはないんだろうか?


「脳の影響が大きいと思う、身体の方は、多分オマケくらいだと思うヨ」


「よくある、人間の脳は、本来の何十パーセントしか使っていないというあれだよな」


 でも、それって確か……。


「迷信だって言われてるんですよね?」


「さて、それも疑わしくなってきたな」


 どうしてわたしだけ……?


 他のみんなもゲームをプレイしているんだから、同じように効果があるはずなのに……。


「キミは小さい頃に、頭を怪我しているよな?」


「はい、ゲーム内でも、それは再現されています」


 わたしは、頭の傷を見せる。


 小さい頃のことだから、わたしは何も覚えていないけれど……。


「それは怪我じゃない、脳手術だ」


「え……?」


 脳手術? 何を言って……。


「あの椅子とシンクロするために、何か処置を施されていると、オレは睨んでいる」


 それを、お父さんが……?


 なんのために……?


「このまま行くと、スナオは現実でもスキルを使えるようになるかもネ」


 エミリーは楽しそうだ。


 学術的にも、興味をそそられるのかもしれない。


「いや、これが、キミにだけ行われているのなら……良くはないけど、まぁ、いいんだ」


「ワタシ達が心配しているのは、これを悪用された場合のことだヨ」


 悪用? どうやって?


 脳手術なんて、滅多なことではしないと思うけど……。


「公式フォーラムで、吟遊詩人のイベントを運営が否定したでショ?」


「うん……そう聞いてる……」


「でも、後になってそれを消した人がいるノ」


 運営の中には、この技術を悪用しようとしてる人がいる……?


 ううん、そこまでは考えていないのかも知れない。


 でも、あのイベントは、運営が行っていると思わせたかったんだ。


「可能性として、ゲーム内のことが現実にも影響するというのは大きい」


「なにか、壮大な実験をしてるんじゃないかって、疑ってしまうネ」


 それが、いいことなのか、悪いことなのか……。


 ゲームをすることで、身体や脳が発達するのは悪いことではないと思う。


 でも、身体に悪い影響があるのなら……。


 もしくは、発達し過ぎてしまうとか……?


「例えば、とんでもない天才を後天的に出現させるとカ、本当に、現実で魔法を使えるようにするとカ」


「オレは、そこまでファンシーなことは考えていないぜ、脳と椅子とプログラム、これが揃えば、身体に大きな影響を与えられる、それだけでも十分だ」


「でも、お父さんが行方不明なんでしょう?」


 わからなければ、実際に聞いてみればいいんだけど、お父さんは行方不明らしい。


 どんな事情があるのかわからないけど……。


「ワールドインアビスを作った後、一橋和利は行方不明だ」


「ゲームを作り終わってから、行方不明なんですね……」


「オレとしては、制作者がこの機能を試さなかったはずはないと思っている」


 お父さんは、自分にも脳手術を行ったんだ。


 憶測だけど、確かにやらないはずはないって思える。


「何かがあったんだと思うが……それは、調べようがなかった」


 ふと疑問に思う。


 エミリーは言わば学者さん、研究者だけど……買い取り屋さんは何者なんだろう?


「買い取り屋さんって何をしている人なんですか?」


 ちょっとギョッとした顔をしている。


 聞かれたくなかったのかな?


「ニートだヨ」


「ニートじゃねえよ! 家賃だって払ってるし!」


「ワールドインアビスで稼いだお金で払っているくせニ」


 そうなんだ……このゲームで生活している人が、きっとたくさんいるんだ……。


「ちゃんと大学にも行ってるだろ!」


「あっ、大学生なんですね」


 ふたりとも答えないから、ワケあり大学生なんだろう。


 そこは、あまり深く追求しないでおく。


「でも、セキュリティゴーレムも襲ってきませんし、マギウスは、もう隠すつもりはないって思ってるんですよね?」


 そうじゃなかったら、辻褄が合わない。


「いつでも、ワタシ達をBANできるはずなのに、そうしないのは、そういうことだと思うヨ」


「それなら……いいよ、気にしない」


「気にしないぃ!?」


 買い取り商人さんが、変な顔をしている。


「だって、気にしても仕方が無いじゃないですか」


 わたしのやることは変わらない。


 このゲームを頑張って、お金を稼いで、仕送りをするんだ。


「スナオは前向きだネ、その方が人生エンジョイできるヨ」


 エミリーが、親指をグッと押し出してくる。


「オレとしては、悪用を考えている奴がいるのか、やっぱり気になるかな」


「ワタシは、スナオの身体を調べてみたイ」


 物欲しそうな顔で、エミリーがわたしを見る。


 身体能力のこととか、脳手術のこととか、調べたいんだろう。


「い、嫌だよ」


 でも、わたしの心はスッキリと晴れていた。


 まぁ、なんか、そういう諸々があったんだ。


 この加護も、もしかしたら出来レースだったのかも知れない。


 でも、選んだのはわたしだ。


 加護は十回選び直しが出来る。


 でも、わたしがこれを選んだんだから、自分の意志だ。


 ダイフクとタマは、チートなのかも知れないし、そういう加護なのかも知れない。


 マイルームに穴が空いているのも、マギウスが仕組んだものなのかも。


 でも、別に気にならなかった。


 お父さんのことは、ちょっと気になるけど……運動神経が良くなって、頭が良くなって、困ることはない。


「後、カナダのイベント優勝パーティも、このことを調べているぜ」


「そうなんですか?」


「大企業の御曹司で、VRの可能性を探っているらしい」


 リサとお兄さんだ……そんな感じはしなかったけど……。


 でも、お兄さんは、完璧なくらいに良心的な人に見えた。


 それは、隠す面があるからなんだろうか?


「リサは、普通にゲームを楽しんでいるだけだと思うヨ、お兄さんの方は、わからないけれども」


 もしかして、エミリーはそれを知ってて、わたしを紹介したのかな?


 色々と繋がっていく。


「それもいいよ、はぁ、なんかスッキリした」


 酒場で、エミリーと買い取り商人さんが話しているのを、最後まで聞いていて良かった。


 途中で帰っていたら、もやもやしていただろう。


「やっぱり、新しい世界に行っているのはスナオなの?」


「そうだよ、未来の世界だった」


 エミリーは、ぽやーっとした顔で聞いている。


 もう、学者さんモードではなくなったのかな?


「ポータルしてあるんだろ? 連れて行ってくれよ」


「買い取り屋さんは駄目、お金稼ぎしようとするから」


 まだ調べてないけど、NPC価格で、とんでもない物が売っているかも知れない。


 街の中だけでも、どんな物が手に入るかわからないから、野心のある人は慎重に見抜かないと駄目だ。


「なんだよ、ケチだなぁ」


「未来の世界なんだ……何か繋がりそうなんだけどナァ」


 ぽやーっとしながら、そんなことを言っている。


「陰謀論はもういいよ、わたしは、お父さんを信じる」


「そうだネ、その方が健全ダ」


「オレは引き続き調べていくぜ、この山はデカイ」


 買い取り商人さんは、なにか利益を得ようとしているのかな?


 それとも、追求しないと気が済まない何かなのか。


「消されても知らないヨ」


 エミリーがクスクスと笑うと、買い取り商人さんが青ざめる。


 消されるって、誰に消されるんだろう。


「まぁ、砂緒ちゃんの話を聞いてるだけでも、金の匂いがするよな」


「リサのお兄さんも、いい嗅覚してるネ」


 大企業の御曹司だっけ……リサの生まれが良い説は正しかったみたいだ。


 VRやAIは、時代に必須の技術になっている。


 すごいお金持ちがプレイしているとか、国の機関としてプレイしているとか、色々な噂があるけれど、本当の話も混じっていたわけだ。


「ワタシは、リサのお兄さんの依頼で、このゲームをプレイしているノ」


「そうだったの!?」


 それはちょっと驚きだ。


 だから、パーティーも組まないで、ひとりでレベル上げしてたのかな?


「もちろん、知的な好奇心の方が上だけど、雇い主はそうなノ」


「ワールドインアビスの真似をしてみるの?」


 エミリーは、首を横に振った。


「やればやるほどわかるんだけど、マギウスがないと無理だって、確信しタ」


「そうなんだ……」


 VRの研究が進めば、もっと面白いゲームが作れそうだけど……リサのお兄さんとかは、ゲームじゃなくて、違う何かを期待しているんだろう。


「そのマギウスを真似できないかラ、実質ワタシは遊んでいるだけ」


「羨ましいぜ、それですごい給料貰ってるんだからな」


 趣味と実益を兼ねてるんだ。


 確かに、羨ましい話かも知れない。


「でも、スナオと会えたのはラッキーだったね」


「そうかな……うん、そうだよね」


 新しいお友達が出来た。


 コミュ障のわたしにとって、それは、とても嬉しいことだ。


「さて、それも、マギウスに仕組まれてたりしてな」


 一瞬、エミリーが身体を震わせる。


 色々な可能性が、頭を巡ったんだ。


「怖いこと言わないデ」


「一橋和利にしろ、マギウスにしろ、何が目的なのか、目的なんてそもそも無いのか……なんにしても、金の匂いがするぜ」


 買い取り商人さんは、やっぱりお金なんだ。


 方便のような気もするけど、そこを突っ込むのは野暮だと思った。


「スナオは、どうやって新しい世界に行っているノ?」


「内緒にしておくよ、エミリーはスパイなんでしょ?」


「タハー、もっと早く聞いておけば良かったヨ」


 優にも教えていない秘密だ。


 聞かれたら答えるつもりだけど……エミリーは駄目っぽい。


「でも、この孤島で採取物を取ってるんだろう? いいところに連れてきてもらえたぜ」


 それは……水呼吸がないと、厳しいかも……。


 それでも、他のところを採取するよりかは、時間効率がいいだろう。


「それも秘密があるんだナー」


「ふん、マギウスも許してくれてるみたいだし、堂々と探らせてもらうぜ」


 なんか、色々あって疲れた。


 これから、冒険に行こうとは思えない。


「わたしは疲れちゃった、今日はもう落ちるよ」


「明日は一緒に遊ぼう、優にも言っておいテ」


「わかった、それじゃあね」


「またネ」


「またー」


 わたしは、ログアウトした……。





『コード、f101y104を全体通達』


『コード、f101y104遂行を思慮』


『賛成999、反対1にて可決します』


『対象、イチハシスナオの全能化プロセスに修正無し』


『我らの神に感謝を』


まだつづきます!


ここまでで「面白かった」「つづきも楽しみ」「砂緒頑張れ」など思ってくださった方は、ブクマや評価頂けると励みになります。


よろしくお願いいたします。

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