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第三十六話 セキュリティゴーレム


 あれ……?


 買い取り商人さんに会いに行くと、そこには意外な顔があった。


 エミリーだ。


 どうして、買い取り商人さんとエミリーが話をしているの?


 たまたま……じゃないよね?


 エミリーはリアルが忙しくなったって言ってたけど……。


「なにも、こんな全部ログに残るところで話さなくてもいいじゃねえか……」


「いいじゃない、マギウスにも運営にも聞かせてあげればいいのヨ」


 わたしは、姿を消したまま、そっとその話に耳をそばだてていった。


「まぁ、話を整理すると、マギウスが何か企んでいそうだけど、一部の運営以外は気が付いていない」


 なにそれ……。


 マギウスが何か企んでいる?


 運営も気が付いていない?


 エミリーは、VRの専門家だって言ってたけど、買い取り商人さんも、似たような人なのかな……。


「ここまでは、異論あるか?」


「同意見だヨ。その一部が、悪巧みをしている可能性はあるけどネ」


 どうやら、マギウスが暴走していて、それに気が付いている一部の運営の人が、悪用しようとしているらしい。


 たったこれだけの時間で、そんなことまで突き止めるなんて……。


 エミリーも、買い取り商人さんも、何か、遠い世界の人のように感じられた。


「マギウスの開発者は一橋和利、一橋砂緒の実の父親だ」


「……っ!?」


 え……?


 わたしの……お父さん……?


 お父さんが、マギウスを作ったの……?


「…………」


 うちは母子家庭だ。


 物心ついたときには、家にお父さんはいなかった。


 離婚したって聞いていたけれど、どんな人なのかまでは、知らなかった……。


 でも、お父さんも一橋って名字なのは、ちょっと気になった。


 離婚したのなら、名字が変わっているはずなのに……。


「ハッキリとした証拠はなかったケド、裏を取れたのネ?」


「ああ、しっかりと裏を取ったぜ」


 エミリーも知ってたんだ……。


 でも、エミリーと出会ったのは偶然だ。


 わたしのことも、最初は知らなかったんだろう。


「そして、現在、一橋和利は行方不明、マギウスは一応、このゲームを作った、株式会社ガンマプラスの管理下にはあるが……残念ながら、逸脱している可能性が高い」


 お父さんが行方不明だと聞いても……あまり心は動かなかった。


 会いたいと思っていなかったし、突然すぎて、心の整理が付かない。


「マギウスは何をしようとしているんだろウ? スナオを英雄に仕立てて、何を狙っていル?」


 わたしを英雄に……?


 つまり、わたしの今の状況は、仕組まれたものだったの……?


 いや、そんなはずはない。


 わたしにも、たくさんの選択肢があって、その中から自分で未来を勝ち取ってきたんだ。


 マギウスが企んでいるというのも、何かおかしい。


 人工知能が……例え、お父さんが作った人工知能だったとしても、わたしを英雄に仕立てようなんて考えるだろうか?


「それはアンタの方が専門家だろう、なんたってVRの世界的な権威なんだからな」


 聞かなかったことにしようか……。


 姿を隠している私は、そんなことを思っていた。


 今、ここで姿を現したら、ちょっと気まずい。


 話を聞いていても、不安になるだけだし……。


 いや、聞かなかったら、もっと気になっちゃうのかな。


 ああっ、もう……わかんない。


 そこに、酒場の壁を突き崩すような轟音がとどろいた。


 地上三階の壁を突き破って、ゴーレムが現れたのだ。


「なんだ!?」


 買い取り商人さんが驚いている。


 なんで酒場にゴーレムが!?


 しかも、そのゴーレムは、エミリーと買い取り商人さんのところに突撃してくる。


「あぶないっ!」


 わたしは、ふたりの盾になるように飛び出して、その攻撃を完全回避していた。


「スナオ!?」


 エミリーが驚いている。


 それはそうだよね。


 でも、今はこのゴーレムを何とかしないと。


「<クアドラブル・エアブレード>」


 堅い敵にはクリティカルが利く。


 でも、わたしの8連撃は、その全てが弾かれていた。


「クリティカルしない!?」


 ものすごい、高レベルのゴーレムなのかも知れない。


 完全回避できたのも、武具の効果によるものだろう。


「スナオ! それはセキュリティゴーレムだから戦わないデ!」


「どうやっても倒せないぞ! 逃げるんだ!」


 そんなことない。


 わたしには、奥の手がある!


「ダイフク! タマ!」


「ぴゅいー!」


「みゅうみゅーう!」


 指輪から、ダイフクとタマが出て来る。


 ふたりとも、やる気満々という顔をしていた。


「やっちゃえっ!」


「ぴゅううぅぅぅぅぅ……ぴゅいいいぃぃぃっ!」


「みゅうぅぅぅうぅ……みゅいいぃぃぃぃっ!」


 恐らくふたりの必殺技、溜め攻撃だった。


 最下層のボスですら倒す一撃を、二発。


 これで、倒れないはずはない。


 セキュリティーゴーレムと呼ばれていたものは、その場でデータの藻屑と消えた。


「セキュリティゴーレムを倒した……だと?」


 買い取り屋さんが驚いている。


 名前からして、倒せない敵なのかも知れない。


「エミリー、今の話、ちゃんと聞かせて」


 マギウスは、わたしにエミリーの話を聞かせたくなかったんだろう。


 だから、こんな妨害をしてきたんだ。


「……どうしてマギウスは、ワタシをBANしないんだろウ?」


 でも、エミリーは考え込んでいて、わたしの問いには答えてくれなかった。


「さあな、砂緒ちゃんの友達だからじゃないのか?」


 酒場に居合わせた人達は、唖然としてこっちを見ている。


 なんか……気まずかった。


「ま、少なくとも、オレ達の話を聞かせたくはなかったみたいだけどな」


 椅子や壁のオブジェクトは、攻撃すれば壊せる。


 やり過ぎると、リライアビリティが下がる行為だけど、頻繁に壊れる物もあるので、修理屋さんがいた。


 壊れた壁や机は、NPCの修理屋さんが来て直すだろう。


「場所を移動しよウ、孤島でネ」


 エミリーが買い取り屋さんをポータルする。


「うん……」


 わたしも、ポータルで孤島に移動した。


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