第三十三話 二体のボス
「<ホーリープロテクション>」
村人とわたし達に、防御魔法が掛かる。
一撃でも耐えてくれれば、回復することも可能だ。
プロテクションの意味はあるだろう。
「<擬人式神・紫炎武装>」
リサは、格闘術で戦うみたいだ。
魔法だと、村人を巻き込んでしまうからかな?
わたしは、剣と精霊魔法で柔軟に行こう。
上から降ってくる悪魔は、散発的で弱い悪魔だった。
わたしもリサも、一撃で倒せている。
こうなると、シューティングゲームみたいになるんだけど……。
上を見て、待ち構えていると、優が声を上げた。
「下から来てるよ!」
地面から悪魔が沸き出してくる。
しかも、わたしの位置からは遠い。
「<ファイアージャベリン>」
剣を鞘に戻すと、片手で魔法を唱えた。
悪魔は、一撃で消え去る。
「砂緒は下を見てください! 私は上を見ます!」
「りょうかい!」
「<セイクリッドヒール>
優が村人を回復させていく。
元気になって、逃げてくれれば助かるんだけど、そうもいかないか。
両面宿儺は、呼び出したままで、立ち往生している。
すると、床に大きなうねりが起きた。
「下から、大物が来そう!」
「上からも来てます!」
そっちは任せるしかない。
姿を現したのは、山羊の頭をした、本格的な悪魔っぽい奴だった。
VRだと、正直に言ってキモイというか怖い。
「<クアドラブル・エアブレード>」
出し惜しみしている暇はない。
セイバーのスキルはまだ試していないので、フェンサースキルで一番の奴をたたき込んだ。
「グモモモモモォォォォッ!」
4×2回のクリティカル攻撃で、悪魔は沈む。
「リサ!」
リサの方を見ると、そっちも一撃で倒せているみたいだった。
「こっちは大丈夫ですから、油断しないでください!」
リサがそう言った瞬間、上から下から、数え切れないほどの悪魔が沸いてきた。
「!?」
「ますいです!」
リサの叫び声が聞こえる。
人数がいないとクリアできないイベントなんだな。
でも、わたしはやっちゃう。
村人を巻き込まないように、上手く一列で魔法を撃てば……。
「<インフィニティワールド>」
長方形の空間を圧縮して大ダメージを与える、無属性精霊魔法だ。
そこから漏れた悪魔を、手分けして倒していく。
「私だって!」
優が、杖を悪魔に振り下ろしていた。
倒せはしないけど、いい時間稼ぎになる。
何人か、村人が攻撃されていたけれども、プロテクションのおかげか、一命は取り留めていた。
「<セイクリッドヒール>」
悪魔を倒しきると、優が範囲回復を行う。
「砂緒はどれだけ魔法を覚えているの!」
なんだか、悔しそうな顔をしているのは気のせいか。
対抗心を燃やされているのかな?
職業レベルを上げると、確率で魔法を覚えられる。
だから、運が悪いと中々覚えられない魔法とかもあった。
「砂緒ちゃんは運がいいんだよ」
「負けませんよ!」
「…………」
負けず嫌いかな……さっぱりしているから、嫌じゃないけど。
コミュ障なわたしとしては、何も言えない。
そして、床に、さっきよりも大きなうねりが起きる。
堅い床のはずなんだけど、波みたいにうねっていた。
「上から来ます!」
「下も来るよ!」
「もうー、終わらないよぉ」
泣き言を言っている暇はない。
地面と天井から二体現れたのは、大型の悪魔。
赤の悪魔と青の悪魔、これがボスのようだった。
「両面宿儺!」
リサが、待機させてあった両面宿儺をボスにぶつける。
わたしは、なんか技を使おうとしている青の悪魔に<オブストラクション>した。
「<インサイト>」
二体に、弱点倍化の魔法が掛かる。
そろそろ、優の魔力が尽きるんじゃないだろうか。
「優、大丈夫?」
「もう駄目かも、後は村人の回復優先にするよー」
それがいい。
ボスが、範囲攻撃してきたら一撃かも知れないけど、
赤を先に倒す感じで、優が赤に杖で攻撃している。
こういうときに、1レベルでもサブスキルを取っていると、役に立つのかも知れなかった。
両面宿儺と赤の悪魔がボコボコに殴り合っている。
悪魔の方が、強い感じかな。
「<掣肘拳>」
肘から特攻していくような技で、リサも戦いに加わる。
あっちは、三対一だから有利だ。
「<オブストラクション>」
青の悪魔は、ひたすら何か技を使おうとしている。
範囲攻撃だったらまずいので、オブストラクションをずっと掛けていた。
わたしの方が行動が速いので、たまに攻撃も入れていく。
「ウグァァァァァァァッ!!」
赤い方が倒される。
こうなれば、もうこっちのものだった。
でも、その瞬間、残された青が甲高い声で絶叫する。
「キイエエエェェェェェェェッッ!」
思わず、すくんでしまう絶叫だ。
状態異常に弱いわたしは、思わずビクッと硬直してしまった。
でも、抵抗を持っているのか、リサは平然と技を放つ。
「<思業式神・轟火炎陣>」
両面宿儺も、青に殴りかかる。
「…………!」
見ると、優も硬直しているようだった。
「…………」
危なかった、ふたりだったら村人を守れなかっただろう。
ようやく硬直が収まる。
「<ジャッジメントレイ>」
この硬直時間を超えてしまえば、後はフルボッコタイムだ。
リサは巫女レベルが高くて、格闘術は程ほどなんだろう。
ディレイの長い術の合間に、素早い格闘術を混ぜていく感じだった。
「<エクスヒール>」
トドメは、優のヒールだった。
青の悪魔も消えていく……。
パーティーのリソースが、そろそろ拙い感じだ。
宝箱がひとつ現れたので、わたしが調べる。
罠は無く、オーブが3つと、逆さ十字架がまた見つかった。
 




