第三十二話 ミッションの始まり
涸れ井戸の底から、横に続いている道を進んでいく。
「ストーリー的には、この村が悪魔の村だとわかって、本当の村人を助けに行くという感じになります」
「本物の村人がいるんだ?」
「ボスを倒せば、都合良く出て来るのかも知れません」
ゲームだから、そうかも知れないけど……。
「ちょっと聞き耳をしてみるね」
みんなに止まってもらう。
足音で聞こえなくなってしまう、か細い音もあるので。
「……ヶ……」
何か……微かに聞こえる。
人の……声?
「ちょっと聞こえにくいけど、人の声が聞こえる」
「本当ですか!? 元のパーティーだと誰も気がつけなかったんですよ」
リサが喜んでいる。
攻略に行き詰まっていたのかも知れない。
イベント優勝パーティーだから戦闘特化なのかも。
「こっちだよ」
音を頼りに道を進んでいく。
たまに止まってもらって、音を確認したりした。
自然の洞窟に悪魔の手が入っている迷路は、複雑かつ広い。
何度か、雑魚悪魔と戦闘になったけど、問題なく倒していた。
この分なら、三人でボスもいけるかも知れない。
「こっちは来たことがないエリアです。何もないと思っていたのですが……」
「気味の悪い十字架は、別のところで使うの?」
「はい、それで開く扉があるんですよ」
そっちを重点的に調べたってことか。
人情として、それは仕方がないと思う。
「でも、この分だとそっちはダミーですね」
あんまり信用されると、何もなかったときが辛い。
「この先にも、何かあると決まったわけじゃないから……」
「何も聞こえないから、私達には、わからないよ」
そのまま、三十分くらい、迷路の中を歩いて行く。
1キロの距離があるなら、本当に1キロ歩かなくてはいけないのが、完全VRの長所でもあり短所だ。
ゲームの都合上、ショートカットとかはない。
「声が近くなってきた」
「悪魔が偽装しているかも知れませんので、気をつけてください」
NPCを殺してしまうと、リライアビリティが下がる。
すれ違う人に変な目で見られるのは嫌だ。
更に5分ほど進むと、曲がり角から紫色の光が漏れているのに気が付いた。
優にアイコンタクトする。
「うん」
ホーリーライトを消すと、真っ暗になる。
「進みましょう」
リサが先頭になって進んでいく。
衝動が抑えられないのか、スカウトが先頭の方がいいと思うんだけど……。
紫色の光は、部屋の中から漏れていた。
「た……れー……」
ぐぐもった声が聞こえる。
村人なんだろうか?
ちょっと覗いてみると、何か、人間サイズくらいのカプセルが、等間隔でたくさん並んでいた。
「誰もいないですね」
リサが、部屋の中に入っていく。
冒険をしている感はあるけど、ちょっとホラー寄りだった。
「カプセルの中身を見てください」
そこには、閉じ込められている人間の姿があった。
紫色の光に包まれて、かなり衰弱している。
「た、体力を吸われているのかな? 早く助けないと」
「たすけてくれー……」
リサは考え込んでいる。
これがフェイクなのか、村人なのか難しいところだ。
「悪魔なのか判断が付かないから、助けてから考えよう」
「そうですね、そうするしかないです」
優が、カプセルを杖でコンコンと叩いている。
「カプセルを壊せばいいのかな?」
「やってみましょう」
リサが、格闘術で思いっきりカプセルをぶん殴る。
すると、バキッとカプセルが割れて、中の人を助け出せるようになった。
「…………ん!?」
そこで、警報が鳴り響く。
紫色の光の他に、赤い警戒色のような色が点滅し始めた。
「どんどん割っていくから、優は中から人を出して」
「わかったよ」
カプセルは、ざっと100個くらいある。
壁の両側に並んでいるので、リサと手分けして、カプセルを割っていった。
「はっ!」
剣の柄で、カプセルを割れる。
敵が来る前に、カプセルを割っておいた方がいいだろう。
なんか、エネルギーみたいなのを吸われているから、それを止めないと。
「多いなぁ」
ちゃんと割らないと、中の人を助け出せない。
優は、助けた村人にヒールをかけている。
部屋の端までカプセルを割っていくと、その先にレバーのような物があった。
「このレバーを、引けばいいのかな?」
「やっちゃってください!」
罠かも知れないけど、ボタンがあったら押すのが冒険者だ。
レバーをがッちゃんと手前に引く。
すると、紫の光が消えて、警報の赤っぽい色だけになった。
「<ウィルオーウィスプ>」
自分の周りが、明るく照らされる。
わたしは、割ったカプセルの中から村人を助け出していった。
「<悪行罰示式神・両面宿儺>」
リサが床に五芒星を描く。
闇に映えて美しい。
なんか呼び出したのか、辺りが明るく照らされる。
するとそこに、多足多椀の巨人が現れていた。
強そうだけど、今は、村人を助けないと。
地面の五芒星がずっと明るく光っている。
「<ホーリーライト>」
優が、杖に光を灯した。
この部屋全体が明るくなる。
やっぱり、光系はホーリーライトの明かりが一番いい。
村人全員を助け出すと、優が範囲魔法を唱える。
「<セイクリッドヒール>」
衰弱していた村人が、少し元気になった気がした。
「話は聞けるかな?」
「もしもし? 大丈夫ですか?」
優とリサが、村人から話を聞こうとしている。
そこに、突然、雑魚悪魔が沸いてきた!
「上からだよ!」
降ってきた雑魚悪魔が、村人を攻撃しようとするところを、わたしが倒す。
「護衛ミッションです! 気をつけてください!」
「三人しかいないのにぃ~!?」
優にも戦って貰う必要があるかも知れない。
わたしは、上から降ってくる悪魔に備えた。




