第三十話 地下に潜る理由
「そうだ、ホワイトウルフのボスが、仲間を呼び続けるから、粘れば経験値を稼げますよ」
そういうのかー。
無限沸きだと、経験値は0設定にしそうだけど、完全VRだと悪さを出来ないからいいのかな?
「どうする?」
わたしは優を見る。
神官は、ソロでいけるところが少ないから、経験値は欲しいと思うけど。
「今日は、深いところを目指そう!」
優がそう言うならそれでいい。
わたしも、リサに頷いてみせる。
「そうですね、経験値は、また後にしましょうか」
たくさんの、ワーウルフの群れが現れる。
どれも似たような格好なので、ボスがわからない。
白っぽいから、雪に紛れて見にくいのもあると思う。
「さあ、おいで」
さすがに、最下層ほどは強くないだろう。
完全回避できるといいんだけど……。
1匹、特攻隊長なのか、耳のピンとしてる奴が攻撃してくる。
わたしは盾を構えて、その攻撃をいなす。
すると、ワーウルフの攻撃はあらぬ方向に逸れた。
10回は、確実に完全回避できるので、勝負はこれからだ。
「ボスを一撃で倒しますね」
「できるの?」
振り返ると、リサがお札を持って五芒星を描いていた。
陰陽道と言えば五芒星だろう。
「<思業式神・轟火炎陣>」
符術は召還魔法みたいなのもので、式神を使役する。
でも、今回のは、単発発動の火炎魔法みたいだ。
「グオオオォォォォォォォッ!」
一体のワーウルフが、丸焦げになってデータの藻屑と消えた。
グロいのは、見せない配慮になっている。
「すごい、強い!」
優が興奮している。
まだ見たことがない職業のスキルとか、色々あるんだろう。
わたしも、巫女のことはほとんど知らなかった。
「キャンキャン」
群れが逃走していく。
あの一体が、ちゃんとボスだったんだろう。
さすがは、イベント優勝パーティのアタッカーと言える火力だった。
「ボスの見分けが付かなかったよ、どこを見ればいいの?」
「形は同じだからわからないんですよ、群れの中心にいて、一番偉そうな奴がボスです」
わかるかなぁ、ちょっと自信ない。
でも、そんなところまで作り込まれているのは、凄いと思った。
それから、何回か雑魚との戦闘があったけど、問題なく道を進んでいく。
「日が落ちてきたね」
もう夕方だ。
夜になると、一気に見にくくなるから危険になる。
「夜にならないと発見できない場所もありますから、昼も夜も探します」
すごい意欲だ。
ゲーム攻略への熱意を感じる。
「リサは、どうしてそんなに下に行きたいの?」
単純な疑問を投げかけてみた。
ゲームなんだから、進行させたいと思うのは当たり前なんだけど。
「私は、1番になりたいんです、それ以外には興味がないんですよ」
わたしの方を見て、にっこり笑った。
こわっ。
「すごいねぇ、1番なんて考えたこともないよ」
「実際に、イベントで1番になっているんだから本当に凄いよね」
山の頂を目指すといえば当たり前なんだけど、日本だとそういう人は叩かれる。
外国の人らしい考え方だとは思った。
「エミリーちゃんとは、リアルで友達なの?」
「そうです、でも、リアルと言いますか、ネットで知り合いました」
イギリスとカナダは遠いからね。
実際に会うことは、あんまり無いんだろう。
「じゃあ、ネットからVRに入ったのかな?」
授業で使うようなVRでネットも楽しめる。
そっちが普及していたおかげで、ワールドインアビスも抵抗なく受け入れられた面があった。
「そうですね、ネットはVRで閲覧していました」
「エミリーちゃんとは、どうやって知り合ったの?」
「エミリーはVRとかAIに詳しいんですよ」
研究をしてるって言ってた。
飛び級で大学を卒業して、VRを研究している人なんだから、その詳しさは並じゃないだろう。
「私も、そういうものに興味があって、それで知り合いました」
歳も近いし、シンパシーがあったのかな?
共通の趣味があれば、友達になるのは簡単だっただろう。
わたしには、難しいけれど。
そんな話をしているうちに、完全に日が沈んだ。
「ホーリーライト」
辺りが明るく照らされる。
ゴーストとかアンデッドとかにも利く、便利な魔法だ。
「ダンジョンなのに、昼夜があるのは、なんか変だね」
「夜は危険だから、緊張感が出ていいです」
リサは楽しそうだ。
トリガーハッピー的な人なのかな?
リサと仲良くなっていく過程なので、まだ本当のところがわからない。
「わぁ、雪が降ってきたね」
ハラハラと雪が舞い落ちてくる。
それだけならロマンチックなんだけど、危険と隣り合わせだと思うと、喜んでもいられなかった。
「というか、すれ違うパーティーもいないね」
人気のないMAPなんだろう。
採取ポイントも少ない気がする。
「MAPはどれくらい埋めてるんですか?」
「今、9割くらいですよ」
「えっ!?」
そうなると、これからボス戦ということもあり得る。
一気に、緊張が高まってきた。




