第二十九話 地下十階層
「リサちゃんは、巫女さんの格好をしているけど、巫女なの?」
「そうです、巫女で陰陽道と格闘術を使います」
「ふぇー、格闘術なんだ」
近接系の中でも異彩を放っているのが格闘術だ。
素手ですごいダメージを出したりする。
メインが巫女で、サブに格闘術なのかな?
「アバターも☆7かな?」
「はい、課金してしまいました」
巫女服は、まぁまぁレアなアバターだけど、リサの着ているアバターは見たことのないミニスカ巫女アバターだった。
腰に大きなリボンが付いていてかわいい。
装備も、レア度の高そうなものを身につけている。
これは☆6じゃなくて、☆7~☆8くらいのレア装備だ。
さすがは、イベント一位のパーティーメンバー。
どれくらいの課金をしているのか、聞くのが怖いくらいだった。
「ところで、おふたりは、何か予定がありますか?」
予定は……特にない。
「無いかな?」
「無いよね?」
孤島も、おおよそわかったくらいで、細かいところはまだ探索してないけど。
強いていえば、またフルーツ食べたいくらいだろうか?
「それでは、階層の深いところに行きませんか?」
階層の深いところ。
最先端の冒険者が集う場所だった。
割とみんな、横に横にダンジョンを攻略していきがちなんだけど、本気の人達は縦に攻略しようとする。
その方が、強い敵が出て来るからだ。
そして、攻略に一歩近づく。
「深いところって、今どの辺りなんだろう?」
「一番深いところで、地下10階だと思うよ」
地下10階か、永遠の風にいた頃に地下5階だったから、半月で5階進んでいることになる。
「わたしは、もっと深いところを目指そうと思っているんですよ」
横に広げるんじゃなくて、縦に深くする。
エンジョイ勢じゃない、リサはガチ勢だ。
大人しそうな顔をしている割に大胆。
お金には不自由してないだろうから、名誉が欲しいんだろうか。
「三人で大丈夫かなぁ?」
「行ったこと無いからわからないね」
どのくらい強い敵がいるのか。
どんなMAPなのかも気になる。
「大丈夫ですよ、無理そうだったら人を雇ってみましょう」
雇う……パーティーを募集するんだよね?
なんか、お金を払って人を雇うように聞こえたけど……。
とにかく、お金持ちなのは、間違いないようだ。
「それじゃあ、行ってみようか」
「砂緒ちゃんがそう言うなら……ちょっと心配だけど」
神官がいないと無理だけど、最低限のパーティーにはなっていると思う。
最近、ダメージ受けてなかったから、ちょっと怖い。
「じゃあ、ポータルしますね」
「う、うん」
地下十階をメモしてあるんだろう。
リサが、先にわたしをポータルした。
「っと……」
飛ばされた先は……薄暗い、雪の世界だった。
常夏の海MAPとは、全然違う様相だ。
「ここが今の最深部か……ちょっと肌寒く感じるのは、気のせいかな?」
海MAPが暑くなかったように、雪MAPでも寒くはない。
でも、なんとなく寒い雰囲気だった。
「わぁ……」
すぐに、優とリサも来る。
優は、雪を見て嬉しそうにしていた。
「雪なんだぁ、でも、あんまり寒くないね」
「それはそうだよ、寒くて死んじゃったら困るし」
VRでも、寒さを感じると良くないらしい。
高いところから落ちるとか、ショッキングな出来事は、なるべくオブラートに包まれている。
「でも、ちゃんと触ると冷たいんですよ?」
「きゃっ!」
背中に雪を入れられた優が悲鳴を上げる。
リサは、面白そうに笑っていた。
「ひどいよぉ」
リサは、言葉遣いが丁寧だけど、ちょっとお茶目なようだ。
カナダの人だから、雪はお手の物だろうし。
「ごめんなさい、お詫びに私も冷たくなります」
「え?」
そう言って、リサは雪に倒れ込んだ。
顔から、真正面に倒れ込む。
人の足跡の付いていない新雪に、大の字が出来上がった。
「大丈夫!? リサちゃん!」
「大丈夫ですよ、雪は気持ちがいいです」
「ははは……」
外国人のよくわからないノリだ。
日本人だと、あまりやらない。
『ワオーン、オオーン』
「え? なに?」
そこに、獣の遠吠えのような声が聞こえた。
近い、敵なのかな?
わたしは剣を抜いて、盾を構える。
「あっ、敵です、群れなので気をつけて下さい」
リサは、もう慣れているようだ。
それ程慌てていないので、強い敵ではないのかもしれない。
「なんていう敵なの?」
「ホワイトウルフという敵です、人型をしている白いワーウルフですね」
「怖そう……」
なんか、色違いが他のMAPで出て来そうなイメージだけど。
雪に擬態するために、白っぽくなっている的な説明もありそうだ。
「来ますよ」
「じゃあ、わたしが先頭で盾をやるから」
「はい、優さんを中心にして、隊列を組みましょう」
さあ、今の深層の敵はどんなものなのか、わたしは敵がくるのを待ち構えた。




