第二十七話 新職業と上位職業 ※
最下層のMAP制覇で、新しい世界にタダでいけるわたしは、砂漠の上を歩いていた。
ここは、結構縦に深い場所にあるはずなんだけど、新しい世界だから、もうダンジョンの奥深くという設定は通用しないのかも知れない。
空は曇り空で、砂漠には似合わない感じだ。
「着いた……」
スタート地点から見えていた街にたどり着く。
外壁は、石じゃなくて鉄っぽい金属だ。
金属の建築物なんて、文明が進んでいるのかも知れない。
入口を捜すように、外壁伝いに歩いて行く。
すると、すぐにゲートのようなものを見つけた。
「…………」
入口は、特に警戒されている様子がなく、警備の兵士とかもいない。
遠慮しないで中に入ると、そこには驚きの光景が広がっていた。
「うわぁ……」
未来を連想させるような、地球よりも文明の進んでいそうな街並が広がっている。
重力に関する制御の技術があるのか、空に浮かんでいる建物まであった。
いや、ゲームだから感心するところではないのかも知れないけど。
「でも……」
問題なのは……そこが未来だということではなく、ほとんど廃墟みたいな光景だと言うことだった。
言うなればディストピア。
お姫様の言っていた通り、荒廃してしまっているようだ。
「…………」
ボロボロの未来都市……それが、ワールドインアビスの新しい舞台であるようだった。
チラホラとNPCがいる。
人はまだ生きている設定のようだ。
でも、皆貧しそうで世紀末な感じがする衣装だった。
まぁ、NPCなんだから、雰囲気作りでそういう格好をしているだけなんだけど。
しばらく街の中を歩いて行くと、見慣れない施設、ガンナーギルドを見つけた。
新職業なんだろうか?
ファイターギルドとか、フェンサーギルドとか、職業にはギルドがある。
そこで、職業に必要な消耗品を買ったり、レベル1を取得するために訪れる必要があった。
2より上のレベルは、いつでもステータス画面から上げられる。
「取りあえず入ってみよう」
建物に入ってみると、新職業ガンナーが解放されましたとメッセージが出た。
まさか、これ、全員かな?
騒ぎになってないといいけど……。
ちょっとサイバーな雰囲気の内装に、黒いレザージャケットの男。
なんか強キャラ感ある男の人が、わたしに話し掛けてきた。
「銃の訓練をしてみないか?」
「あ、いや……やめておきます」
取りあえず、やめておく。
「そうか、気が変わったらいつでも来るといい」
こういう、人間と話しているようなスムーズな会話も、マギウスが管理しているんだろう。
ネトゲなんだから当たり前だけど、コミュ障には辛い。
そして、億を超える人がプレイしているゲームだけあって、窓口が100くらい作られている巨大空間だった。
新しい世界にポータルする人が現れたら、ものすごく混雑するんだろう。
建物を出ると、その先にはバードギルドがあった。
これも新職業なのかな?
建物に入ってみると、新職業バードが解放されましたとメッセージが出た。
歌とか楽器とかは、ちょっと取ってみたい気持ちもある。
中には、古代ローマの歌姫みたいな格好をした女の人がいた。
楽器とかも飾ってあって、音楽が流れている。
「歌で人を幸せにしてみない?」
「取りあえず……やめておきます……」
「そう、気が変わったらいつでも来てね」
剣や斧のように、楽器ごとにスキルが違うっぽい。
壁のスクリーンにある簡単なスキルツリーを見て、その複雑さに目眩がした。
この分だと、他にも職業がありそうだけど……。
わたしは店を出て、辺りをぶらつく。
酒場とかも、どんな飲み物があるか試してみたい。
「おっ!? おおおおっ!?」
しばらくぶらついていると、既存の上位職っぽいギルド街を見つけた。
これが全部、新職業とは考えられないくらいの並びだ。
「転職できるんだ!」
わたしは取りあえず、精霊魔法の上位職っぽい建物を探す。
「これかな? 看板としては精霊っぽいけど……」
そのギルドの看板には、地火風水がイメージされた絵が描いてある。
名前は、ドルイドギルドだった。
中に入ってみると、自然が強調されたイメージの作りになっている。
ドルイドは、フードのおじいちゃんが話し掛けてきた。
「精霊魔術を極めてみないか?」
「極めてみたいです!」
「それじゃあ、窓口に行くといい」
ここにも、100くらいの窓口があって、それぞれにドルイドっぽいNPCが配属されていた。
「すみません、転職したいんですけど……」
「ドルイドに転職するためには、100ルピが必要です」
100ルピかー、結構するなー。
まぁ、世界が違うのにお金が共通なのは、ご愛敬なのかな。
王様に貰った100ルピは、ここで使えということなんだろう。
「お金ではなく、クエストで転職することも可能ですが、いかがいたしますか?」
なんか集めろとか、どっかに行けとかお使い的なものだろうか。
きっと、大変なクエストだ。
なにせ、十万円分の労働なんだから。
「100ルピ払います」
でも、わたしはお金を払っていた。
お金で解決できることは、お金で解決した方がいい。
その方が、結果的にお得になる。
「それでは、あなたの中の精霊力を高めます、準備はいいですか?」
「はい、どうぞ」
ドルイドの女の人が、手で輪を描く。
「むん」
ドルイドに転職しましたというメッセージが出た。
さようならシャーマン、はじめましてドルイド。
「新たなる精霊との契約に耐えられる身体を手に入れたはずです、何かあればまた来てください」
「はぁ、ありがとうございます」
転職しちゃった。
取っている職業やスキル、加護で、ステータスは決まるっぽい。
そのステータスが隠しパラメータだから、わからないけど、きっと色々とアップしたはずだ。
その調子で、フェンサーをセイバー、スカウトをファントムシーフの上位職にした。
お金だけじゃなくて、必要経験値も結構必要だったけど、まだ余裕がある。
どうやら、転職といっても元々の職のレベルも引き続き伸ばせるみたいだ。
元の職業レベルが15で、新しい職が1レベル追加されている感じだ。
「はぁ、成長って楽しいなぁ」
他に、どんなのがあるかだけ確認して、今日は落ちよう。
少しぶらついた後、ポータルをメモしてマイルームに戻る。
ワールドチャットを覗いてみると……やっぱり騒ぎになっていた。
まったりと新職業を語る2
145、ガンナーってことは、現代か未来かだよな。
146、割と大航海時代くらいかもよ?
147、バードが今日暴れてたのは、この布石だったんだなー。
148、新しい世界に進んでる奴らは、今頃ご満悦だな。
149、悔しいけど期待しちゃう。
150、この調子で職業増やされたら、何を取ればいいのかわからなくなるな。
151、ていうか、初めからガンナー取りたかった。
152、それな。
153、後発組は、そういうことも出来るんだろう。
154、歌の下手なオレがバードやったらどうなるんだ?
155、パーティーの迷惑になる。
156、ずっと歌ってるのも疲れそうだな。
157、新しい世界いきてーよー。
158、銃あったら剣いらなくね?
159、その辺は、ちゃんとバランス取ってるだろ。
160、剣と銃を合わせて最強に見える。
161、ガンブレーダー降臨。
162、剣よりも弓だろ、要らなくなるのは。
163、俺は弓が好きなんだよ!
164、弓って言っても3発同時に撃ったりするファンタジー弓だぞ、銃と互角に戦えるよ。




