第二十四話 海底神殿のボス
エミリーが、水たまりに槍を突っ込んでいく。
「深いヨ、ここから泳いで行くのかナ?」
「泳ぐのかー」
「水中戦闘したこと無いよぉ」
敵がいるのかな? いるとしたら手強いだろう。
こっちは水の中に慣れていない。
「まぁ、入ってみまショ」
エミリーが、ザブンと水たまりに入っていった。
体力が減っていくけれども、水の中も移動はできる。
火じゃないから、ウィルオーウィスプも着いて来られた。
「おじゃましまーす……ぶぶぶ」
わたしも、水の中に入っていく。
身体が重い。
ゲームだから水はきれいだけど、自然の洞窟の水たまりだったら、怖くて入れないな。
後ろを見ると、優も水に入ってきていた。
ちょっとスカートがふわふわしている。
水着を着てこないと駄目だね。
「…………」
泳いで水の中を進んでいくと、広い海の中に出た。
割と暗い海だ。
深いんだろう。
優が手振りで、下を指さす。
なにか、建物っぽいものがあった。
そちらを目指して泳いで行く。
幸いなのか、たまたまなのか、敵は出てこなかった。
正直、あんまり戦いたくはない。
「…………」
息を止めているけれど、不思議と苦しさは感じなかった。
体力は、じりじりと減っているけれど、死ぬほどではない。
「…………」
建物にたどり着くと、エミリーが更に下を指さしていた。
更に下側に行くのか。
「…………」
エミリーに着いて行くと、下から建物の中に入れるようになっていた。
バリアーみたいなのがあって、水の侵入を防いでいる。
「ぷはぁっ!」
久々に息継ぎをした。
顔を出すと、ダンジョンのようになった暗い通路がある。
「なんか、呼吸をしないのは変な感じだネ」
「ぷはっ」
優も来たみたいだ。
「早く上がろう、魚とか来たら怖いし」
わたしは、床に手を付いて通路に這い上がった。
「どうモ!」
すぐに、エミリーの手を取って引っ張り上げる。
「砂緒ちゃん! 私も!」
「手を出して、せーのっ!」
上手く足をかけて、優も通路に這い上がった。
多分、ゲーム内のわたしは、アジリティが高いんだろう。
「神殿の中に、水は入ってこないんだネ」
ちょろちょろと、隙間から海水が入って来ているけれど、這い上がってきた水たまりに流れ落ちているようだ。
「よし、進もう」
さすがに、ここからは敵が出てきそうだ。
しっかりと隊列を組んで歩き始める。
でも、中の作りは意外とシンプルだった。
迷宮という感じではなく、本当に神殿という感じだ。
結構広かったけれど、簡単に中央部分に入る。
神殿の端の方とか、行きにくいところに採取ポイントがあるんだろうか?
採取したものは、調理や鍛冶なんかの生産職が使うので、いくらでも売れる。
インフレしないように、生産職はNPCから消耗品や道具を買うのは、他のことと同じだ。
「ここに何かあるのかナ?」
中央の広間の真ん中辺りに立つ。
結構広いところで、神殿というよりもアリーナみたいな感じだ。
「うわっ!」
すると、バタンバタンと周りの扉が閉まり始めた。
「ほ、本当にボスなのぉ!?」
「ワタシたちが一番乗りだヨ! 絶対に倒そうネ!」
ポジティブだなぁ……。
すごく強そうという不安しかない。
ダイフクは……出さないでおこう。
たまには、自力で頑張るのも面白い。
すると……床のタイルの隙間から、にゅるにゅると触手のようなものが、いっぱい出てきた。
こういう系……?
「攻撃攻撃!」
「なんか嫌だなぁ……」
エミリーは楽しそうに触手をなぎ倒していく。
優は、わたしたちに隠れるようにしながら補助魔法を掛けていた。
触手は動きが単純で、避けやすい。
そんなに強くはないのかな……?
的確にダメージを与えていって、最後の一本まで減らす。
「なんだろうこれ、イカとかタコかなぁ?」
「こういうモンスターなんじゃないの?」
「なんでもいいよ! これで、オシマイ!」
エミリーが最後の触手をぶった切ると、ふっと周りが暗くなった。
ボスが出て来る演出っぽい。
すると……床からしみ出すように、おじいさんの頭からイカタコの触手が出ているモンスターが現れた。
ちょっとキモいモンスターだ。
「なんかストーリーがあるんじゃないの、これ!?」
「なんか、聖なる神殿が悪魔に穢されちゃったらしいヨ」
わかりやすい敵ってことか。
「<インサイト>」
優が使う神官の魔法で、相手の弱点が倍加する。
悪魔相手なら、神官はすごく力を発揮できた。
でも……近づきたくないなぁ。
「アルケミストの力を見せて上げよウ!」
「<グラビティ>」
触手が、重力に押されるようにへなっとなっている。
海の生き物だから、水から出ると重力に弱いのかな?
わたしも、ここは魔法がいいと思った。
接近すると、あの触手が絡んできそうで怖い。
「<ジャッジメントレイ>」
光の精霊の上位魔法だ。
悪魔には利きやすいはず。
「キシヤアアァァァッァアアッッ!」
悪魔が悲鳴を上げている、利いているっぽい。
「いいよいいよ、このまま押し切ろウ!」
グラビティの効果は持続するのか、エミリーは槍で斬りかかる。
さっきと同じように、触手がばっさりと切れた。
「ぴいぎぎいいぃぃぃいぃぃぃっ!」
思わず耳を塞いでしまった。
おじいさんが、ものすごい甲高い悲鳴を上げて苦しんでいる。
それを間近で浴びたエミリーは、状態異常になっているのか、くらくらしていた。
気絶かな?
「<リカバリー>」
すぐに、優がエミリーの状態異常を回復する。
どうも、触手を切ると状態異常になるっぽい。
でも、くらくらしているエミリーに触手の攻撃が襲い掛かっていた。
すかさずわたしは、エミリーの前に立って攻撃を受ける。
完全回避、完全回避、完全回避、完全回避!
グラビティで弱ってるのもあってか、大丈夫、避けられそう。
「エミリー! 下がって!」
「お、オーケー、もう大丈夫」
ちょっとくらくらしながらも、戦闘態勢は取れるようになっていた。
下がって、魔法で戦うつもりのようだ。
じゃあ、わたしはここで盾になろう。
「<エクスヒール>」
続けざまに、優が魔法をお見舞いする。
神罰の杖の効果かな? ヒールでダメージを与えていた。
「<ストレインゲージ>」
エミリーは錬金術魔法だ。
重ね掛けできる、徐々にスリップダメージを与える魔法だったはず。
触手を切らないように工夫してダメージを与えていく。
「<ジャッジメントレイ>」
わたしは、近接している状態から魔法を使っていた。
触手の攻撃に当たると、絡み付かれるんだろうな……。
攻撃回数が多いから、そのうち当たりそうだけど、なんとか完全回避でしのいでいた。
そして、五発目のジャッジメントレイでボスが沈む。
「やっター!」
「勝ったー!」
「よかったー」
わたしは、最後まで触手の攻撃をかわしつづけていた。
このボスとは、もう戦いたくない。
『ユニークスキル、水呼吸スキルを取得しました』
みんな、ビクッとしている。
初ユニークスキルかな?
「水の中で呼吸ができるようになるみたい」
「これが、この島で採取するポイントなのかナ?」
海の中に採取ポイントがあるのか。
敵も出てこないみたいだし、採取するには打って付けだと思う。
「ねぇねぇ、宝箱もあるよ?」
スカウトの出番だ。
「あんまり、強力な罠は少ないけど、ボスの宝箱は危険かもヨ!」
わたしは、宝箱の鍵に手を当ててみる。
罠は……石化だ。
「石化の罠だ、みんな下がって」
「さすがスカウト!」
失敗しても、優が治してくれるだろう。
わたしは、あまり心配せずに宝箱を開けた。
中には……財宝と、オーブが3つ入っている。
「もう大丈夫だよ」
「おおっ! いっぱい入っているネ!」
「お金もそうだけど、このオーブは何かな?」
「ボスを初討伐した人がゲットできる激レアアイテムだよ、売ったら駄目だからね」
「そうなの!? 初ボスクリアなんて、もう無理だろうけどな~」
最下層のボスを倒したときは虹色だったけど、これは青色のオーブだった。
「3つあるから、分けやすくて助かるよ」
「そうだネ、3人で倒したから3つなのかも知れないネ」
何に使うのかわからないけれども、取りあえず貰っておく。
使うかどうかは、効果が判明してから考えればいい。
まぁ、動画の経済チャンネルでやっていたけれど、こうやって期待をあおっているときが、一番値が高いって話もあるにはある……。
「じゃあ、海底に行ってみようか、きっと採取ポイントがあるよ!」
「その前に、村でフルーツを食べよう!」
わたしは、フルーツが食べたい。
南国系のフルーツ大盛りで!
「そっちが先かー」
「どっちもやろウ! VRはこうでなくチャ!」
村でフルーツをたくさん食べた後、水呼吸で海底を歩き回る。
そして、まだ誰も入手できていないレア素材をたくさんゲットして、今日はログアウトした。




