第二十三話 翌日の大騒ぎ
「昨日のアレ、お前なんか知らないのかよ」
「お前こそ、高校生とパーティー組んでんだろ?」
「…………」
翌朝、学校に行くと新しい世界のことで持ちきりになっていた。
今一番ホットな話題なんだろう。
情報屋さんとかも、熱心に嗅ぎ回っているようだ。
教室に入る廊下のところで、珍しくわたしに話し掛けてくる人がいた。
「一橋さん、あたらしい世界のこと何か知ってる?」
同じクラスの子だ、情報屋をやっているんだろうか。
ポニテにしていて性格が明るい、かわいい子だ。
名前は、池戸みるきさんだったかな?
こういうの、陰キャなわたしには辛い。
「昨日知っただけだよ」
「一橋さんが、王女様を連れてお城に行ったって噂なんだけど」
そんなところ見られてたのか。
お城なんて、いつもガラガラなのに。
「ただの噂だと思うよ」
「そうかなぁ、一橋さん、競売に☆6装備たくさん売りに出してるよね」
調べてるなぁ、もう。
こういう人が情報屋さんをやってるのか。
「たまたまだよ、わたし、ガチャ運向上の加護を持ってるから」
「情報は高く買うよ? 秘密は独占していてもつまらないでしょ? ひけらかしてこそ、自己顕示欲を満たせるというものだし」
いや、陰キャでコミュ障なわたしに自己顕示欲なんてありません。
むしろ、世界に一人だけになりたいくらいまである。
「残念だけど、なんにも知らないよ」
「一橋さんって、群れるのを嫌うタイプ? 小島さんとは仲がいいけど」
小島さんとは、優のことだ。
優は男子にモテるけど、女子にも嫌われない子だから、池戸さんとかは面白くないのかも。
「そういうのじゃなくて、本当に何も知らないの」
「連れないなぁ、仲良くしようよ」
仲良くしたいんじゃなくて、利益を得たいだけでしょうが。
人間関係って嫌だなぁ。
陽キャだけど、エミリーみたいに、あっけらかんとしたタイプの方が好きだ。
「それじゃあ、何か思い出したら教えてね」
池戸さんは諦めてくれたけど、その日は何回も、昼休み中の高校生や大学生も含めて、同じ事を本当に何回も聞かれた。
そして、放課後。
今日も授業が終わった。
勉強はしっかりしておかないと。
「砂緒ちゃん、エミリーちゃんに会いに行こうか」
「うん、行こう行こう、変な人が来る前に」
優も一緒に行動していたから、おおよその事情はわかっている。
頼るべきは友人だなぁと、コミュ障のわたしでも思うくらい、頼もしい存在だった。
「今日は大変だったもんね」
「放課後は、面倒になりたくないから早く行こう」
スマホでふたり部屋を予約した後、ゲームにログインした。
月間ランキング一位だったり、今回のことだったり、クラスの女子とかにも嫌われているのかなぁ。
まぁ、別に仲良くしようとは思ってないんだけど……。
そういうところも、嫌われてるんだろうな。
ポータルで昨日の場所へ行くと、そこには、エミリーが待っていた。
「おはよー」
「待ってたヨー」
優もすぐに合流する。
「おはよー」
「ふたりが来る前に、聞き込みをしておいたヨ」
準備万端という感じだ。
NPCの情報にはガセもあるから、要注意なんだけど。
「どうも、海底神殿があるらしいヨ」
海底神殿!
なんかロマンを感じる響きだ。
「ダンジョンだよね」
「実装されてるのかなぁ?」
優の心配もわかる。
この島は、存在だけしていて、中身は未実装っぽいから。
「ダンジョンというか、ボスがいるみたイ」
「ボスかぁ~、三人じゃ、ボスは無理だよねぇ」
確かに辛いと思う。
ましてや、最新MAPの初ボスだから情報もない。
「行ってみようヨ!」
エミリーは、前向きだった。
挑戦してみないと何も始まらない的な考えだろう。
「私、死んだこと無いからちょっと不安だよ」
「わたしも、死んだことない」
「すごいねぇ、ワタシなんて何回死んだことカ」
痛みはないらしいけど、フッと意識が無くなる演出が神がかっていてコワイそうだ。
まぁ、本物を体験したことのある人は、この世にいないので想像の産物だけど。
「島の南端に洞窟があって、そこから神殿に行けるみたイ」
「じゃあ、やるだけやってみようか」
「怖いけど、私も行くよ!」
「じゃあ、行ってみよウ!」
エミリーを先頭にして島の中を歩き始めた。
そんなに大きな島じゃ無いっぽいから、すぐにたどり着くだろう。
「島の中は果樹園になっているのかな?」
「南国のフルーツがたくさんだね」
「勝手に食べていいのかな?」
エミリーが腕で×を作る。
「盗み判定されて、リライアビリティが下がるヨ?」
食べたみたいだ。
本当に好奇心旺盛だなぁ。
リライアビリティは、悪いことをすると下がるポイントで、オーラがオレンジで不審者、赤だと犯罪者になる。
英雄的な行為をすると上がるんだけど、ステータスと同じで、隠しパラメータだから見えない。
「食べたいなら、街で食べた方がいいヨ」
街で食べられるところがあるんだろう。
ダンジョンが終わったら、楽しみができた。
「採取はした?」
「街の方は海産物が取れたけど、こっちはフルーツ系と神秘系も取れたヨ」
採取で神秘系が取れるところは、なにか隠されているという合図になる。
運営の優しさだ。
それゆえに、確率の低い神秘系が出る出ないはよく揉め事になっていた。
でも、この島も、そのうちに丸裸にされてしまうんだろう。
神秘も儚いものだ。
「あっ、洞窟が見えてきたよ」
自然の洞穴のような洞窟だ。
海底神殿という感じではない。
「<ウィルオーウィスプ>」
「おっ、精霊魔法だネ」
光を灯す魔法は、割とどの職業にもあるんだけど、光があるところで魔法を使っておかないと、暗い洞窟の中では再使用できないのが精霊魔法だ。
光は、精霊の指輪があるからどこでも使えるんだけど、不審に思われないようにここで使っておいた。
「ウィスプちゃんは便利だよね」
勝手にふよふよ浮いているから、手が塞がらないのがいいところだ。
敵にぶつければダメージにもなる。
「もう少し明るいと良かったんだけどね」
タンクであるわたしが先頭で、優、エミリーの隊列だ。
でも、島の中もそうだけど、そもそも敵がいなかった。
海にはいたけど、ここは安全なエリアなのかな?
坂を下るようにして、暗い洞窟の中を進んでいく。
「ここから、海底神殿に行けるのかナ?」
「複雑な洞窟だったら嫌だね」
ギミックとかがあるのは、正直面倒くさい。
雰囲気を盛り上げる程度にしておいて欲しいところだけど……。
「行き止まりだ」
「行き止まりだねぇ」
洞窟の突き当たりに水たまりがあった。
あとは壁になっていて、行き来できそうな感じはしない。
この水たまりに入れという、運営の意志を感じた。




