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第二話 ガチャ屋


「じゃあ、今日の授業はここまで。テストに出るから注意しておけよ」


 ゲーム会社が運営するアリス学園では、授業もVRだ。


 黒板なんて無いし、内容も全部録画しておける。


 手元のタブレットに授業内容をどうコピペしておくかは、センスが出るところだった。


 VR用のヘッドセットを外す。


 これから放課後だ。


 昨日までは、パーティーにいたけど今日からソロだった。


 自由だけど不安、そんな表現が適切だと思う。


「砂緒ちゃん、それじゃあ行ってくるね」


「うん、優も頑張って」


 優は学年のアイドルだから、男子の視線を集めてしまう。


 一方のわたしは、チビでお子様体型だから、マニアックな需要しかない。


「さて……」


 どうしようか考えたけど、やっぱり、わたしの加護であるガチャ運向上を使うのがいいと思っていた。


 誰でもひとつ加護を持っているんだけど、その加護とのシナジーを考えて職業レベルを取ることが多い。


 剣を振りたい人は、そういう加護が出るまでキャラを作り直すわけだ。


 といっても、キャラ登録は十回しかできないから、ほどほどで決めてしまうことが多かった。


 わたしは、ガチャ運向上がレア加護だと思って決めたけど、シナジーはあまり無さそうだということに後で気が付いた。


「はぁ……」


 荷物を持って教室を出る。


 敵を倒したり、宝箱を開けても、出てくるのは現物ではなく、ガチャチケットが多い。


 お金だったりレアアイテムだったりは、ガチャで手に入れるのが普通だった。


 だから、ガチャを引くときにだけそのパーティーに入って、報酬を受け取るガチャ屋をやろうと思う。


 元パーティーだった賢者の金士(かなし)君の調べによると、大体の目安として、20%~30%くらい当たり確率が上がるようだった。


 プレイルームで一部屋借りる。


 お財布とかスマホとか盗まれないように、個室にゲーミングチェアだ。


 二人入れる部屋とか、五人入れる部屋とかもあるけど、わたしは当分個室だ。


 この部屋の使用料もあるから、最低それだけは稼がないといけない。


 いざとなったら、寮の部屋から繋ぐことも出来るけど、結構電気代がかかるので、プレイルームの方が割安だった。


「さてさて」


 ゲーミングチェアに横になってログインする。


 ワールド・イン・アビスのタイトルが脳裏に浮かんだ。


 そして、わたしの意識はゲームの中に入っていく……。


「ん……」


 気が付くと、昨日ログアウトした荒野に立っていた。


 いい思い出のない場所だ。


「ポータルオン」


 消耗品のワープポータルを出して、マイルームへ飛ぶ。


 かわいい物いっぱいの、第三の我が家だった。


 第一は実家の部屋で、第二は学園の寮の部屋ということになる。


 ちょっとベッドでゴロゴロした後、公式フォーラムの掲示板を開いた。


 ガチャ運向上加護持ちです! ガチャ屋始めました! 手数料は2ルピ! 酒場三階! ここぞというときのご利用お待ちしています!


 一回パーティーを組む料金を、2ルピにするようにした。


 ここ一番のガチャを引くときに利用してもらおう。


 掲示板には、他にも、日本円との両替をする両替商、pvpでわざと負けて経験値を稼がせる負け屋、ゲーム内の様々な情報を売る情報屋、月に一回のランキング集計の裏を突いた掃除屋など、様々な商売をしている人がいた。


 わたしは、街に出ると酒場の三階で待つ。


 広い街で、端から端まで歩いたら丸一日かかるけど、酒場と言えばここだった。


 アルコールを飲めるお店は他にも色々あるけれど、酒場といえば、このルナール亭を差す。


 待ち合わせたり、商売をするのはここが定番だ。


 今日も雑多に賑わっている。


「…………」


 世界規模でプレイされているゲームだから、色々な人がいた。


 人種も年齢も様々だ。


 キャラクターIDで検索してきてくれると思うけど、一応看板を出しておく。


「君がガチャ屋かい?」


「あ、いらっしゃい」


 初めてのお客様は、白人のパーティーだった。


 英語も何語も覚束ないけれど、ゲーム内では全て通じるようになっている。


「ガチャは何回引いてもいいのかい?」


「何回でもいいです、お一人様2ルピです」


 五人パーティーだったけれど、一人が抜けて、わたしとパーティーを組んだ。


「では、2ルピお願いします」


 取引画面を出して、2ルピもらう。


「パーティーステータスに、ガチャ運の加護ありますよね?」


「おお、初めて見た、すごいね、君はラッキーだね」


「あはは……」


 やっぱりレア加護に見えるんだろう。


 わたしとしては、もっと戦闘向きの加護にしておけば良かったと後悔しているんだけど……。


「じゃあ、ガチャどうぞ」


 ガチャチケットと呼ばれる、レベルの高そうな装飾品カードを手に持った。


 そして……。


「チケットオン」


 すると……金色の光が辺りを照らし出す。


 ☆6確定演出だ!


 手に持っていたガチャチケットが無くなり、宝石がひとつ落ちてきた。


「うおおおおおっ! やったぁぁぁっっ! 女神の涙ゲットだ!」


 仲間が大はしゃぎしている。


 当の本人は、驚きすぎて目をぱちくりとさせていた。


 女神の涙は聞いた事がある。


 ソーサラー垂涎のアイテムだったはず。


「おめでとうございます」


 わたしは、女神の涙を拾って、本人に手渡す。


「いやぁ、ありがとう。驚いたよ」


 確率はどれくらいなのか。


 30%確率が上がっていたとしても、元が0.002%とかだろうから、上手くいきすぎた。


「オレもやろうかな。パーティーに入れてくれ!」


 幸先のいいスタートだったせいか、他のパーティー四人もガチャを引くことになった。


 これで10ルピだ。


 そして、大当たりは初めの一人だけだったけど、まぁまぁのレアアイテムは出た。


 2ルピでこれなら満足なんじゃないだろうか。


「じゃあ、また頼むよ」


「ありがとうございました」


 その後も、パラパラとお客さんが来て、16ルピ稼いだところでヤメにした。


 掲示板に書いていた告知を消す。


「さて……経験値を上げようかな」


 適当な負け屋さんを探すと、ルピを払って経験値を稼いだ。


 対人戦でも経験値は上がる。


 ドロップがないから趣味みたいなものなんだけど、これでレベルを上げるという方法もあった。


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