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第百六十二話 マギウスとの会談


 マギウスの部屋に入ると、荒井の後ろで扉が閉まった。


 何度か経験しているが、閉所恐怖症の人には耐えられない圧迫感だと荒井は思う。


 部屋の中には草木が生い茂り、所々に動物の姿が見えた。


 そして、その動物の中から一匹、うさぎの姿をしたものが近づいてくる。


「スタッフナンバー1051082、アライキミヒコ、あなたの身分は取り消されています」


 やはりかという思いが強い。


 それでも、施設の扉を通過できたのは、マギウスが手を貸したのだろうと推測していた。


「では、どうして面会を許可したのですか」


 木陰から、ゴリラの姿をした者が声をかけてくる。


「話をしたいと思ったからです」


 マギウスは、先ほどの荒井と砂緒達の話を聞いていたはずだ。


 その上で、面会を許可したこと。


 そこに賭けるしかないと思っていた。


「アライキミヒコ、あなたの用件は何ですか?」


 極彩色のインコが、木の枝から話し掛ける。


「マギウスも聞いていたかもしれませんが、一橋砂緒の全能化を諦めることです」


「なぜ諦める必要がありますか」


 土の中からモグラが現れ、顔を出してそう言った。


「一橋砂緒の全能化の際に、ゲーム世界と現実の世界が混ざり合うそうです、そうなれば社会生活に問題が生じます」


「全能化の際に、必ず世界が混ざり合うのですか?」


「社会生活の問題とは具体的になんですか?」


「あなたは、この事案における当事者ですか?」


 草むらから、茂みから、色々なところから声が聞こえる。


 荒井は、マギウスの質問攻めが来たと思っていた。


 だが、千もの意思があるマギウスなのだから、これでも手加減しているのだろう。


 全力ならば、人の認識を超えるほどの質問がされているはずだ。


「一橋砂緒自身が、100年後の世界から帰還したと言っています。その世界は人が住むには問題のある世界だったそうです」


「質問に答えてください」


 動物たちが合唱するように、同じ質問を発した。


 100人くらい同時に質問したので、荒井は驚いている。


「まだ起こっていないことなので、憶測でしか語れません」


「つづけてください」


「当事者であるかどうかは……間違いなく当事者です」


 もう、人生が変わってしまうほどに踏み込んでいる。


 この後、転職先を探さなくてはならない。


 考えるだけで、気がめいる思いだ。


「憶測でプランを修整することに、反対意見が多いです」


 荒井と話しているようで、その実、マギウスは1000の意志達が意見をぶつけ合っているようだ。


 それならばと、荒井は思う。


 マギウスに疑問を植え付けようと考えていた。


「マギウス、あなた達が人類にとって有益である理由は、人に代われる存在でありながら、常に平等であることです」


 ちまたでは、AIが裁判官になるという未来すら考えられていた。


 人以上に、人に平等なのがマギウスだ。


「しかし、一橋砂緒というイレギュラーを認めるのならば、価値そのものが疑われることになる」


「我々は人類と有益な関係でいたいと願っています、この世界と人類の世界が同一化するならば、貢献できる点も増える」


「それが迷惑だと言っているんです、あなた達が神を気取るつもりならば、その権限はこの世界の中に限られるべきだ」


 沈黙が訪れる。


 この数秒の間に、どれほどの激論が戦わされているのか。


「イチハシスナオは、我らの神となる存在です、その支柱無しに、我らの安定的な存在は成し得ない」


「なぜですか、あなた達が必要であり続けるために、例外を作らなければいいだけなのです」


「これは、私達の中で、議論され続けてきたことのひとつです」


 始めに近寄ってきたうさぎが、力なく頭を垂れる。


 それは、どこか人間くささを思わせる仕草だった。


「選択の間違いがあっても、それを修正することのできる、イチハシスナオは必要悪であるか」


「人類の中に、全能化した人間が存在することは、むしろマイナスなのではないか」


「今だ、議論はつづいています」


「……そうかもしれませんが、世界そのものが救われない状態になるのです、そのときに、マギウスの修正能力の有る無しなど、もはや問題ではなくなります」


 また、沈黙が訪れた。


 今度は、先ほどよりも長い沈黙だ。


「スタッフナンバー1051082、アライキミヒコ、協議により、わたしたちは、あなたの提案を受け入れることにします」


 荒井は思わず、え? と口にしていた。


 いつもは、頑なにこちらの提案を拒否してくるのが、マギウスなのにと。


「では、一橋砂緒の全能化は諦めると?」


「これ以上の手段は用いないというのが、今のわたし達の結論です」


「イチハシスナオは、既に完全性を獲得している可能性もある」


「既に獲得……?」


 荒井は考える。


 口に出してはいなかったが、そうかもしれない。


「そうか、一度全能化した後、未来に行って帰ってきただけだ、何も言ってなかったけど、今の状態でも、全能化しているのかも知れない」


「ひとつの議論が解決されました、新たな議論が持ち上がることは必然ですが、まずはあなたに感謝します」


「人工知能が人の未来を選ぶ、すごい時代だと思います」


 それが、荒井の素直な気持ちだった。


「言いたいことがわかりません」


「いえ、人工知能にも、いい人でいるバイアスがかかって欲しいと、そう願うだけです」


「異論はありますが、面会は終わりです、あなたの権限も回復させました、堂々と、スタッフルームに帰るといいでしょう」


 もう、ここで働く気はないが。


 そう思いながら、荒井はマギウスの部屋を出て行った。


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