第十六話 運営の苦悩 ◎
社員が忙しく働いているスタッフールーム。
そこで、憂鬱な顔をしているチーフの下に部下が資料を持ってきた。
「チーフ、例の生徒について面白いことがわかりました」
「なんだ? 不正の証拠でも見つかったか?」
チートがないことを売りのひとつにしているゲームでは、不正の証拠が見つかるのもまずいのだが。
「いえ、どうも我々のライブラリにないペットをテイミングしているようなんです」
マギウスによって、日々データは更新されていくので、スタッフも全体像は把握できていない。
ましてや、テイミングできるペットの種類など、興味もないくらいの事項だった。
「ライブラリにないペットを、どうやってテイミングするんだ?」
「ログから割り出した動画を見てください」
そこで、手元の資料から動画が流れ始める。
そこには、砂緒と優が喫茶店で話しているログが再現されていた。
「あっ!」
「何この子! 砂緒のペットなの?」
「そうだよ、ダイフクっていうの」
「ダイフクちゃん、お友達の優だよ~」
「わたしも、ペットテイミングしようかな」
「何がいいの?」
そこで動画が途切れる。
確かにペットのことを話しているようだが、肝心のペットが映っていなかった。
「ライブラリにないため、ログからでは再現できませんでしたが、ダイフクというペットが居るようです」
「これがバグなのか?」
「ペットと最下層がどう繋がっているのかは不明ですが、何かが起きていることは間違いないようです」
しかし、チーフはどうにも腑に落ちないようにため息を吐いた。
「これ、友達だろ? ふざけてるだけじゃないのか?」
「以前、買い取り屋の前でもペットの話題が出て来ていました、これで二度目です」
一度目は、何かの間違いだと判断したようだが、二度目ともなると、そこには必然があると考えたようだ。
「ふーむ、取りあえず、このペットらしきものの解析を進めてくれ」
「異常があることがわかりましたので、本人から聴取しますか?」
ゲームマスターがプレイヤーに話しかけることは希にある。
もちろん、必要があっての場合だ。
「本人は異常だと気が付いていないってことか」
「ランダムを装ってアンケートに答えてもらうくらいなら、簡単にできると思いますが」
チーフはなんだか嫌そうな顔をした。
部下が、ナイーブな問題を更にナイーブにしているように感じる。
「なんか、もったい付けてるな、イベントはどうなんだよ?」
「どうも、例の生徒はイベントを放棄するようです」
1MAP目を突破したことは報告を受けていたが、それは最新情報だった。
「トップは目指さないか、名誉が欲しいわけじゃないんだな」
「今は、友達のテイミングを手伝っていますので、普通の女子中学生という感じですね」
バグ利用をしているという感じはない。
チーフは、多くの経験から、チーターの取る行動には当てはまらないような気がしていた。
「まぁ、それなら対応を急がなくてもいいか?」
「いや、バグがあるなら発見しておかないと、痛い目に遭います」
「それもそうか、ボスをずっと隠してるのもなんか嫌だしな」
ボスを撃破すると現れる新しい世界は、当分秘密にしておく存在だ。
万が一のことがあると、長期のプランが滅茶苦茶になってしまう。
「ボスの撃破条件に5人以上のパーティーを組むというのを新しく付けました」
「それじゃあ、この生徒には倒せないのか」
チーフには、脆弱な理論のように感じるが理屈の上では成り立つ。
そこから漏れることを考えて、更にセーフティにしていく慎重さが足りないような気がしていた。
「ボスがいないので、逆に快適に最下層を探索できてしまっていたので、イベントが終わった後にボスを稼働させたいと思いますが、どうでしょうか?」
「プレイヤーひとりに手こずるものだな」
「それフラグっぽいからやめて下さい……」
色々悩んだ末に、チーフはボスの再稼働を承認した。




