第百五十九話 変わった歴史
「うっ……」
なんか、ちょっと乗り物酔いしたみたいな感じだ。
タイムマシン酔いっていうの?
ちゃんと戻って来れたのかな。
「スナオ、どうしたノ!」
「あっ、いや……うわっ!」
目の前にパトリックさんがいる。
その後ろに王子様だ。
どうやら、ちゃんと戻ってこられたみたいだった。
装備も……ちゃんとある。
これなら、勝てる?
なんか仕組まれてるらしいけど……。
まぁ、でも、もう完璧に勝つ。
「<ブレス>」
どうやら、戦闘は始まったばかりみたいだ。
みんなが落ちる心配もない。
「ダイフクオン、タマオン」
「えっ、なにそレ?」
「あっ、ダイフクちゃん!」
優には一度見せたんだっけ。
衆人環視のテーマパークの中に、ダイフクとタマが現れた。
敵のふたりは、倒せないように細工がしてあるらしい。
つまり、回避できない負けイベントだ。
でも、負けたら死んでしまう負けイベントなんだから質が悪い。
でも、ダイフクとタマなら……。
「やって! ダイフク、タマ!」
「ぴゅいいいいー!」
「みゅうみゅうー!」
ダイフクとタマの攻撃が、パトリックさんと王子様を捉える。
そして……ふたりは、一撃でデータの藻屑と消えていった。
さすがは、ダイフクとタマだね。
ちょっとインチキだけど、向こうもズルしてるんだから、いいでしょう。
すると、その瞬間、パンパンとクラッカーが鳴った。
「え? なに?」
小さな鼓笛隊が現れて演奏が始まる。
「わぁ、かわいいのが来たよ」
「なにが始まったのかナ?」
何が起きているのかわからないけれど、きっといいことだろう。
照明の演出も始まり、まるでガチャでレアを引いたように、賑やかになった。
そして、ドスンと宝箱が落ちてくる。
きらびやかな、宝石の宝箱だった。
そして空中にくす玉が現れて、それが割れる。
『ジャックポットおめでとう!』
垂れ幕には、そう書いてあった。
「おおおおっ!」
周りにいた人達からどよめきが聞こえる。
ジャックポット? いいのかな。
「スナオ、宝箱開けテ」
「やったー! ジャックポットだよ!」
優が一番喜んでる。
宝箱には、罠も鍵もかかっていなかった。
ゆっくりとそれを開けると、そこには……大量のチップと、オーブがあった。
「やったー! カジノのオーブだぁ!」
優の喜びの声が響き渡る。
それを皮切りに、周囲の人達がざわめき始めた。
「ジャックポット!?」
「カジノのオーブだと!?」
「どういうことだ、そもそも、なんでテーマパークで戦ってる!?」
「やったネ、これはすごい報酬だヨ!」
そして、周囲の壁が閉ざされていく。
見えていた外部が見えなくなって、また、気味の悪いダンジョンのボス部屋に変わっていた。
ボスを倒したからか、扉が開いて、上と下に行く階段が見える。
この先はどうなっているのか……。
「やったね、ジャックポットだよ」
「オレンジチップがたくさんあるネ」
ふたりとも喜んでいるけれど、わたしはよろこべない。
今はそれどころじゃなかった。
「ふたりとも聞いて」
「ど、どうしたの?」
わたしが真面目な声を出すと、ふたりは緊張して辺りに目をやる。
「なにかあるノ?」
「すごく変なことを言うけど、本当のことなの、信じて」
優とエミリーが顔を見合わせている。
そして、コクリと頷いた。
「まず、これから起こることを話すね」
「まっタ、これから起こるこト? スナオはどうしてそれを知っているノ?」
「うーん、ややこしい話なんだけど、わたしはね、タイムマシンで100年後から戻ってきたわたしなんだよ」
「えええええ!」
優が驚いている。
いや、優は知ってそうだったけど……。
「いいの? マギウスと運営に聞かれてるヨ」
エミリーは、冷静に判断している。
「うん、でも、マギウス抜きの世の中って、きっともう無理だよね」
「そうだネ、これから世界は、マギウスを中心に発展していくと思うヨ」
AIの力恐るべしだ。
人間の仕事をAIが奪うと言うけれど、現実になるかも知れない。
「だから、話を聞かれるのは仕方が無いと思う、それでね、マギウスの目的は、わたしの全能化なんだって」
「ほう、それは面白いネ」
エミリーが学者モードになる。
基本的にいつも学者だけど、好奇心をくすぐると、少し顔が笑って、頬が上気するみたいだ。
「でもね、お父さんとかお爺ちゃんとかは、政府と組んで、違う目的があるみたいなんだよ」
「どんな目的?」
「なんかね、わたしが創造の力を得るみたいなの」
「すごいネ、創造って、ほとんど神様だネ」
「その力を再現するのがお爺ちゃんの目的で、タイムマシンを使いたいというのが、お父さんの目的らしいんだよ」
多分、これで合っていると思う。
直接聞いたわけじゃないから、違うかもしれないけど。
「ふたりの目的は違うんダ」
「それでね、ややこしいのが、全く違うわけでもないみたいなんだよ」
「どういうこト?」
「お爺ちゃんも、タイムマシンのことを考えて色々準備してるんだけど、お父さんは、それを出し抜いて、自分で利用しちゃうみたいな感じ?」
わかってもらえたかな?
優は、神妙な顔をして聞いている。
もちろん、この辺りのことも知らなかったと思うけど、触りは知っているはずだ。
「それで、スナオは、タイムマシンで100年後に行ったんダ」
「そんな他人事みたいに言わないで、エミリーが、タイムマシンはヤバイから奪えて言ったんだよ」
「違う時間軸のワタシのことだけド、判断は間違ってないと思うヨ」
結果的には、良かったと思う。
ゲームと現実は混ざらなかったわけだし。
「それで、お父さんからタイムマシンを奪ったら、そのまま、100年後に行っちゃったんだよ」
「じゃあ、お爺さんは、日本政府と繋がっているんだネ?」
「うん……優が知ってると思う」
「え? 私? なんで? 知らないよ?」
きょとんとしている。
神妙な顔で聞いているから、知っているのかと思った。
「そ、そうなの? 未来の優は何でも知ってたよ?」
「この時代の優は、まだ聞かされてないんだネ」
100年後に、優がいることを疑問に思わないのか、エミリーがそう言う。
そこを説明すると長くなるから、良かった。
「それでね、わたしは、今ログアウトすると現実のテーマパークの中にいるみたいなんだ」
「現実のテーマパーク?」
「そう、ここのテーマパークとそっくりな施設を現実にも作っていて、わたしの現実の身体は、そこに運ばれているの」
「ふーン」
「そこでね、創造器とかいうお母さんの研究の完成に携わるんだよ」
色々と、継ぎ接ぎだらけの説明だったと思うけど、エミリーは納得したみたいだった。
憶測も混じっているかも知れないけど。
「わかっていることから対処しよウ」
「うん、どうすればいい?」
「マギウスは、今、倒せないボスを倒されて困っているはずだヨ」
「そうだね、わたしはさっきのボスに倒されて、現実のテーマパークで目を覚ますというシナリオだったから、それが崩れて、困っているはずだよ」
「それじゃあ、また襲ってくるのかな?」
「何かしてくる可能性は高いと思ウ、GMは、このことを知らないはずだから、マギウスを止めてもらうとか、対策を立てよウ」
「あのGMの人は、わたしの担当らしいんだよ」
「担当がいるのカ……ちょっと怪しいかナ?」
「悪い人には見えなかったよ」
優が断言している。
わたしは……よくわからない。
「ユウを信じよう、取りあえずGMコールして」
「わかった」
わたしは、GMコールを行った。




