第百五十八話 優の秘密
「うーん」
100年前に、わたしは現実世界とゲームの世界を一緒にしてしまったらしい。
そんなことした覚えはないんだけど……。
そういえば、システムメッセージみたいな声で、私の全能化が完了しましたとかなんとか、そんなことを聞いた覚えがある。
あれなのかな?
あのとき……?
「だからね、今生きている人はみんなステータス画面を出せるし、モンスターもいるし、スキルも魔法もあるんだよ」
「…………」
やっぱり、テーマパークの時なのかな?
誰もいないテーマパークだったのに、突然、みんなが現れた。
そしてそこに……お母さんとお父さんが現れたんだ。
あのとき、わたしは、ゲームの世界を混ぜてしまったの?
「ゲームだから、もちろんマギウスもいるよ」
「待って、じゃあ、この話は聞かれているんじゃないの!?」
「大丈夫だよ、マギウスは敵でも味方でもないから」
「そうなんだ……」
マギウスが世界を支配しているとか、そんな感じではないんだね。
でも、酒場があったり、街があったり……確かに、ゲームと現実が混ざっているみたいだった。
「待って、そうでもないかな? むしろ砂緒ちゃんにとって、マギウスは味方なのかも」
「そ、そうなの?」
「周りの人は、色々な思惑があったんだけど、マギウスの目的は、砂緒ちゃんの全能化が目的だったんだよ」
「なにそれ!」
確かにそう言っていたけど、あれはマギウスの声だったんだ。
「砂緒ちゃんを神様にしようとしていたらしいよ、自分たちがあがめる神様として」
「そ、そうなんだ……」
「それでね、マギウスには1000の意志があって、そのひとつがマイルームを保持することを強行に提案してきたの」
マギウスはお父さんと結託しているのに、わたしのマイルームをそのままにしてくれたんだ。
別に、お父さんも、わたしを排除したいとは思ってないだろうけど。
「でも、どうしてだろう? 100年も、わたしのマイルームを取っておいたなんて」
シークレット扱いだとか、なんか言っていたけど意味がわからない。
「理由はわからない、でも、マギウスにある意志のひとつは、神様とかじゃなくて、純粋に砂緒ちゃんの味方だよ」
わたしの味方……。
「アパートは無くなっちゃったから、砂緒ちゃんの好きだった酒場にマイルームを置いたの」
「そうだったんだ……」
優が置いたみたいな言い方だけど、どういう立ち位置なんだろう。
偉くなってるのかな?
「砂緒ちゃん、この未来は駄目だよ、こうならないようにして」
「え!?」
「戻れるでしょ? 死ぬ前に」
「死ぬ前……地下ダンジョンのパトリックさんと王子様に負けたとき?」
色々あって時間の感じ方がおかしいけれど、ほんの数十分前だろう。
「そう、そのとき」
「でも、戻っても勝てないと思うよ」
「あれは、負けるようにプログラムされていたらしいんだよね」
「そうだったんだ……」
おかしいと思った。
レベル差を全く感じない強さだったから。
まぁ、ボスになって、強くなっていたのかも知れないけど。
「あのときに戻って、今度は、いつもの装備で戦って」
装備を持っていけば、勝てるだろう、もちろん。
というか、ダイフクとタマがいれば余裕なはずだ。
「でも、もし、あそこでわたし達が勝っちゃったら、この世界はどうなるの?」
「わからない、残るのかも知れないし、消えてしまうのかも知れないし」
「そんな……」
つまり、なかったことにしてしまうということ?
この世界で生まれた人も、幸せな人もいると思うんだけど……。
「でもね、この100年間、みんな困って生きてきたんだよ」
それはそうだろう。
ゲームと合体してしまったら、色々と困るはずだ。
「だから、この苦しみを終わらせて欲しいの」
「優は……それでいいの? 消えちゃうかも知れないんだよ?」
「うん、いい、世界中のみんな、大体の人はそう思っているはずだから」
「そうなんだ……」
どのくらい困っているのかわからないけど、そう言うからには、かなり困っているんだろう。
あまり、幸せな人がいないくらい……。
「わかったよ、戻ってやってみる」
「砂緒ちゃん!」
わたしは装備を確認していく。
そして、いつも通りの装備で、ダイフクとタマとカホウの指輪を着けた。
「じゃあ、戻ってみるね」
「タイムマシンは出せる?」
「ううん、乗って来たタイムマシンがあるから、大丈夫だよ」
「そうなんだ……頑張ってね、砂緒ちゃん」
「うん、頑張るよ」
タイムマシンを身長計みたいに立てると、片足を乗せて、片手で取っ手を掴む。
「そういえば、わたしはどうなったの? その、100年後なら、わたしがどうなったかわかるでしょ?」
喫茶店やってたのかな。
それとも、誰かと結婚したりした?
このゲーム世界で、幸せに暮らせたんだろうか。
「砂緒ちゃんがどうなるのかは……秘密」
「えええ~」
教えてくれてもいいのに。
「砂緒ちゃんの人生が狂ってしまわないように、教えない方がいいでしょ」
知ると狂ってしまうような人生だったのかな。
聞かない方が良いのかも知れない。
「じゃあ、優も元気でね」
「うん、砂緒ちゃんに会えてよかったよ」
優と別れを済ませる。
不思議と、感傷的な気持ちにはならなかった。
「100年前の、パトリックさんとアラブの王子様と戦っているときに戻して」
『100年と38分53秒前になります』
メッセージが聞こえた。
そのくらいかな?
「うん、そのくらいで」
『タイムマシン、スタートします』
視界がぶれて、意識が途切れた。




