第百五十六話 タイムマシン
テーマパークに、お父さんとお母さんがいる。
そして、お母さんは研究が完成したと言っていた。
「砂緒、素晴らしかったぞ」
「…………」
お父さんが、ものすごく喜んでいる。
ちょっと興奮していて、怖いくらいだった。
でも、どうしてだろう、わたしはあまり嬉しくない。
ピンと来ないのもあるけど、嫌なものを感じていた。
「お母さんは、なんの研究を完成させたノ?」
物怖じしないエミリーが、お母さんに聞いていく。
同じ研究者として、そこに興味があるんだろう。
「あたしが研究していた、創造器という物の作成だ」
「創造器? すごい言葉だネ」
「あたしが考えた言葉じゃないよ、遠い昔に、偉人が使った言葉だ」
「聞いたこと無いけど、意味はなんとなくわかるヨ」
意味がわかるんだ。
ソウゾウキ? 創造器ってことかな?
何かを創造する器ってこと?
「砂緒、理解していないみたいだが、ここは……ゲームの中じゃない」
「え……?」
お父さんが、楽しげに、そう話し掛けてきた。
ゲームの中じゃないって……剣とか持ってるんですけど。
銃刀法違反になっちゃう。
「ステータスオン」
優がステータスを出す。
そこには、普通にステータス画面が出ていた。
やっぱり、ゲームの中じゃないか。
「ステータスが出ますよ?」
優も不思議そうにしている。
というか、周りの人も、いつも通りの装備だ。
お父さんの、Tシャツにジーンズがちょっと浮いている。
「ツマリ……どういうことだヨ」
エミリーは、理解に苦しんでいるというよりも、なにか思い当たることがあるような声だった。
ちょっと焦っているのがわかる。
「お義父さんがすぐにやってくるだろう、麻理江、タイムマシンだ」
タイムマシン? お爺ちゃんが言っていたけど本当に?
ちょっと信じられない。
「和利さん……行ってしまうの?」
お母さんは、どこか寂しそうだ。
愛しているんだとわかる。
わたしには、正直、それが嫌なことに感じた。
「なに、時間の流れなんて、もはや無いも同然だ、距離も時間も、意味を成さないだろう」
「あたしは……砂緒に、父親というものを見て欲しかった」
「ああ、そうしよう、落ち着いたらそうなるさ、約束するよ」
「お母さん、わたしは……」
別に、無理に父親を見たく無い、そう言おうとしたんだけど、その憂いのある笑顔を見て、何も言えなくなっていた。
お母さんが、手に持っている玉を目の前に掲げる。
バスケットボールくらいある大きさで、今は白っぽく光っていた。
そして、そこから身長計のような長い棒が出て来る。
手品を見ているような気分だった。
あの玉の中から、こんなに長い棒が出て来るなんて。
「片手片足なのか、洗練されているな」
その棒には、足をかけるところがあって、片手で掴めるようになっている。
乗るとしたら、片手片足ということになるだろう。
「あれが、タイムマシン……」
エミリーが低い声でそう言う。
ここがゲームじゃないという辺りから、わたしは、状況についていけてなかった。
でも、エミリーは何か考えている。
「取りあえず100年後でいいかな」
お父さんが、そうつぶやいている。
「スナオ、あのタイムマシンを奪って逃げて」
「え!?」
「よりにもよって、本当にタイムマシンはヤバイヨ」
「タイムマシン……ヤバイ……の、かな?」
わからない。
タイムマシンがあったらどうなる?
「株とか宝くじとか当てられる?」
「そんなものじゃ済まないヨ」
「そ、そう?」
「早ク!」
エミリーの鋭い声に、わたしは思わず駆け出していた。
いつも通り、身体が軽い。
ゲームの中としか思えない。
わたしは、お父さんからタイムマシンを奪うと、それを掴んで離れる。
「なっ! 砂緒!」
『タイムマシン、スタートします』
「え?」
一瞬、視界がブレる。
そして、テーマパークの喧噪が、遥か遠くに消えていった。




