第百四十七話 社交不安
7月も後半に入った夏休み。
唐突に、カジノイベントが始まっていた。
「さぁ、カジノやろう!」
「ワタシはパスかナ」
エミリーは冷静だった。
場の空気に流されない。
「えー、どうしてー?」
「カジノが白熱すればするほど、普通のダンジョンが稼ぎ時になるヨ」
「そうだけど……」
ちょっと優が可哀想になってきた。
カジノで遊ぶくらい、いいと思う。
滅茶苦茶に破産するみたいなイメージあるけど、ゲームの中のカジノくらい問題はないはずだ。
「ワタシは、この機会に第5階層と第17階層に入り浸りかナ」
エミリーは、イベントを放棄するみたいだ。
それもそれで、ストイックすぎる気がする。
「せっかくのイベントなのに~」
「たまに付き合うヨ、スナオはカジノと相性いいだろうから、イベント1位目指しテ」
「うっ……」
そう言われると、嫌な予感がしてしまう。
すごく大きく当たって、みんなに見られるような予感だ。
「カジノって、目立つよね……?」
「砂緒ちゃんまで!」
優が遊ぶのはいいと思っていたけど、自分がとなると、背中がムズムズする。
「優の付き合いくらいな感じで、一緒に行くよ」
「もういい! 私はカジノイベント頑張るよ!」
優は、ちょっと怒っているみたいだった。
いつもみたいに、みんなでイベントやりたいって思っただけなのかも知れない。
「わたしも一緒に行くって」
「まぁ、取りあえず、ホテルにチェックインしよウ」
「そうだね、行こう」
「どうやって使うのかな?」
「普通に、チケットオンでいいんじゃないノ?」
わたしは、特賞のリゾート宿泊券を手に持つ。
パーティーは、もう組んであった。
「チケットオン」
リゾート宿泊券を使うと、一瞬でホテルまでポータルされる。
ホテルの外ではなく、もうフロントが目の前だ。
親切設計とも言える。
「わー、すごいホテル」
「すごいネ、一泊いくらするのか怖いくらいだヨ」
取りあえず天井が高かった。
調度品も趣があって高級な感じだ。
わたしに、物の善し悪しはわからないけど。
「すみません、これを使いたいんですけど」
高級なホテルで、無料宿泊券を出すのは、ちょっと恥ずかしい。
NPCだから、別に恥ずかしくはないはずなんだけど。
「ありがとうございます、ただいまお部屋をご案内いたします」
そうして、滅茶苦茶広い高級な部屋に案内された。
あんまりファンタジーじゃない、現実にありそうな高級ホテルだ。
「ベッドが5台もあるね」
「名塚さんとかも誘おうか」
「きっと喜んでくれるヨ」
適当にベッドに寝転がる。
ふかふかも弾力も申し分ない、抜群の気持ちが良さだ。
「それじゃあ私はカジノに行って来るよ!」
「頑張っテ、熱くなりすぎないようにネ」
「わたしも一緒に行くって」
イベントだし、頑張った方が多分いい。
「お目付役みたいで嫌、砂緒ちゃんが、本気でイベント1位を狙う気になったら来て」
「えええ……」
「この日のために、幸運装備を一式買っておいたんだから! やるよ!」
優は、ギャンブル好きなのか嫌いなのか、よくわからなくなった。
コツコツ主義のギャンブル好きという、変わった人種なんだろうか。
「スナオ、行かせてあげるのも武士の情けだヨ」
「私が、死ぬみたいじゃん!」
「お財布の中身は死ぬと思うヨ」
「見返すから、今晩の報告を待ってて!」
そう言って、優はカジノに出かけて行った。
「あああ、仲間の結束が……」
「さて、ワタシは17階層に行って来ようかナ」
「わたしはどうしよう?」
「カジノに行ってもいいシ、ハヅキを手伝ってもいいシ、新しい世界を探索してもいいシ」
「そうだねぇ……」
「乗り物が解放されたんだから、新しい世界の砂漠から、別の場所に行けそうじゃないかナ?」
「それも気になるかなぁ」
途中を飛ばしてしまったけれど、新しい世界にも、まだまだ色々なものがあると思う。
敵の強さは、気にしなくてもいいわけだし。
「まぁ、スナオはカジノやった方がいいと思うけド」
「カジノが嫌なわけじゃないんだよ」
「注目を集めるのが、そんなに苦手なノ?」
「……うん、すごく苦手」
こうやって、エミリーや優と話しているのは気にならないんだけど、知らない人の視線は苦手だった。
「視線恐怖症? それとも社交不安なのかナ……慣れていくしかないヨ」
「今日は、テーマーパークで遊ぶよ、ゲットした鍵も気になるし」
「そうだね、ひとりが得意にならないように、明日からはユウと一緒にカジノに行った方がいいヨ」
「わかった、ありがとう」
「じゃあ、行ってくるネ」
「いってらー」
エミリーは後ろ手に手を振って、17階層にポータルしていった。
「…………」
広い部屋が、余計に静かに感じる。
防音がしてあるのか、テーマパークの悲鳴も聞こえてこない。
「…………」
このゲームを始めてから、ひとりになったのは、パーティーを追放されたとき以来だった。
なんとなく寂しい。
コミュ障だから、ひとりが好きというわけでもないのが、わたしの変なところだ。
これで、ひとりが好きだったら、人生豊かに暮らせたかも知れないのに。
「…………」
さて、テーマパークに行って来ようかな。
鍵を探すという名目で、わたしは動いていった。




