第百四十六話 第5回イベント開始
「やったー! 夏休みだー!」
ついに夏休みがやって来た。
終業式も終わり、今日からずっと自由な日々だ。
恐れていた宿題は、経験値とルピの獲得だった。
でも、どうやって経験値やルピを獲得するか、計画書を書いて、実際どうなったかを提出する。
ただ稼ぐよりも、けっこう難しかった。
経験値は、気合いで戦い続けるしかないと思うんだけど、養殖屋さんとか雇って、レベルを上げるとか工夫しなければいけないんだろうか?
養殖屋さんは、パワーレベリングを手伝ってくれる人のことで、結構お金がかかる。
その計画を実行するためには、お金を稼ぐ計画も必要になりそうだった。
「砂緒ちゃんは、家に帰るの?」
「うん、一回は帰ろうかなと思ってる」
アリス学園では、実家に帰る人が少ないと聞いているけど、わたしは帰るつもりでいた。
ちょっとは、帰った方がいいよね?
お母さん心配だし。
まぁ、みんななんだかんだ学校にいるから、情報屋さんも養殖屋さんも、たくさんいるだろう。
「あっ……」
何か説明がポップアップしてきた。
なんだろう?
「どうしたの?」
「えーとね、夢のリゾート宿泊券が使えるみたい」
「エ……まさかとは思うけド」
「うん、そのまさか、あのテーマパークにホテルがあるみたい」
リゾートと言えばリゾートだ。
カジノがなければ、なお良かったんだけど……。
「カジノに行けと神様が言ってるんだよ」
そんな神様嫌だ。
「じゃあ、期間中はホテルに泊まろうカ」
「やったー! リゾートホテルだよ!」
とはいえ、ゲーム中に寝るわけじゃない。
拠点が、孤島やギルマス部屋から、ホテルに変わるだけだ。
きっと、美味しいものとかもあると思うけど。
そこに、空から運営の告知が聞こえてきた。
「レディースエンドジェントルメン!」
え? この声は……。
「牧田一郎さんだ」
優の好きなベテラン声優さんで、この人の声がかかるということは……。
「栄えある第5回、『WORLD IN ABYSS』公式イベントを開始致します! みんな準備はいいか!?」
「イベント~!?」
今回は、あまりにもいきなりなイベントだった。
なんの告知もなしだから、社会人の人とかは休みが取れなかったりするだろう。
「まぁ、世界中の学生が夏休みではないけど、この時期に休みは多いと思うヨ」
学生はそれでいいけど、働いている人は、ちょっとかわいそうだった。
「さぁ、今回でイベントも第5回目だが、ちょっと突然に始めさせてもらうぜ」
ちょっとじゃない、すごく突然だ。
夏休みに何かやるとは思っていたけど、こんないきなりとは……。
「今回のイベントは、なんとカジノイベントだ! カジノでどれだけチップを増やせるかを競ってもらう」
「ああああああ~」
「やったー! カジノイベントだー!」
優にお墨付きを与えてしまうイベントだ。
「お金持ち有利じゃんと思ったそこの君、チップは買った分は含まれない、純粋に、増やした分だけを競うものだ」
とはいえ、100万円持っている人と1000円しか持っていない人じゃ、勝負にならないだろう。
「途中でアイテムに交換してもいい、増やした分は記憶済みだから、持っているチップの量を競うものではないということだ」
「これは、カジノ産のアイテムが値崩れするヨ、なるべくルピで持っていた方がいいと思ウ」
それもあるか。
今、ルピが高騰しているから、余計なアイテムは買わない方がいいということだ。
「そして、大幅にマイナスになってしまった君、やる気が削がれるよな、でも、安心してくれ、計測する数値は0以下にはならない、チップのマイナスが10000枚でも、次に1枚増やせばプラス1枚だ」
「うんうん、運営だってみんなに楽しんでもらいたいよね」
カジノに入り浸る夏休みはイヤなんだけど……優が、乗り気で聞いている。
牧田さんの声でテンションが上がっているだけだろうか?
「今回は、期間を一週間と長く設定した、そして、報酬も豪華なものを用意しているぜ?」
「イベントを頑張れば、カジノでアイテムゲットして、イベント報酬でもゲットして、二倍お得だよ!」
そんな上手くはいかないと思う……。
多分、負けるギャンブルは面白くないし。
「カジノってちょっと嫌だなと思っているそこの君は、これを期に、是非挑戦してみてくれ、それじゃあいいイベントを!」
「いいイベントを!」
優がやる気のように声を張り上げた。
「運営は、どーしてもカジノをやらせたいみたいだネ」
「今も賑わっているんだよね?」
「すごく流行ってるよ、装備にスロットを開けるアイテムが欲しいみたい」
とはいえ、☆5以下の装備品は壊れるし、☆6装備は中々手に入れられない。
90%以上のプレイヤーが☆5以下の装備でやりくりしていると思うんだけど、スロットを空けたいようだ。
まぁ、オープン初日からプレイしているような人なら、☆6以上の装備を、ひとつかふたつ持っていても不思議じゃないか。
7月は、NPC売りのイベントがあったくらいで、大きなイベントはなかったんだけど、なんとカジノイベントとは……。
ワクワクしている優を尻目に、わたしは考えていった。




