第百四十二話 新たなマップ
夏休みも間近になった、7月の中旬。
期末テストは終わったけど、イベントの方は全然来なかった。
成績は、期末テストよりもイベントの方が大事なのに、それが来なかったというのは辛い。
今月は、あまり稼げていないので、ガチャを回した方がいいだろう。
まぁ、運営の人も大変だろうから、そうそうイベントもできないんだろうけど。
「うーん」
ギルドダンジョン最下層を漁ってみようか。
経験値もドロップも美味しいと思う。
「よ、四つ葉のクローバーが、どんどん値上がってる……」
優が息切れするような声で、相場を見ていた。
幸運装備や材料は、どんどん値上がりしている。
投資商材としては、もう値上がり過ぎだと思うけど、初めの方に買っていたわたし達は、ただ待つだけだった。
第5層の人気も相変わらずで、蒼天騎士団とレッドプレイヤーの戦いは、日々、白熱していっている。
「でもねユウ」
「な、なに? エミリーちゃん」
「投資商品というのは、ある日突然大暴落するんだヨ」
「!?」
またそんな脅かすようなこと言う。
でも、利益があるうちに売っておくのも確実かも知れなかった。
「で、でも、まだ上がるかも知れないよね?」
「そこを見極められたら、投資のプロになれるヨ」
「も、もうちょっと我慢する……」
ストレスになっているのがありありだ。
優に投資やギャンブルは、合わないんだと思う。
「カジノ実装まで、相場を見るのは止めた方がいいんじゃないかな?」
「カジノ実装されるの!?」
すごい勢いで食いついてくる。
「いや、わかんないけど……」
「…………」
なんか、変なスイッチが入っている。
幸運商材の投資なんて、しない方が良かったのかも……。
「スナオ、レイジングテンペストを使ってみせテ?」
レイジングテンペストは、17階層のボスを倒したときにもらったユニークスキルだ。
使ってなかったけど、強いのかな?
「どういう効果なの?」
名前からして、強い攻撃スキルっぽいけど。
「攻撃力アップとヘイトアップの効果だよ」
「なんか、噛み合ってないスキルだね……」
ヘイトをもらうのはタンクの役割だから、火力じゃなくて防御力が上がった方がいいのに。
これじゃあ、アタッカーに攻撃が集中して、バフの意味が無くなってしまう。
「どうしてエミリーは使わないの?」
「レベルが足りないからだヨ」
「レベル制限があるんだ」
「多分だけど、何かひとつの職業レベルが、一定を超えていないと使えないスキルだネ」
ユニークスキルも、強くなってくるとそういうのがあるんだ。
階層ボスに挑むのは、これとユニークドロップ目当てというのがあるだろう。
「チャーチルがウォークライを使うから、その後で使っテ」
チャーチルは、エミリーのお供のユニットだ。
小さいけど、戦車型をしていて、堅いタンクができる。
チャーチルが、ウォークライを使うから、その後でレイジングテンペストを使って、タゲが取れるか試すんだろう。
「じゃあ、始めるヨ」
「いいよ、やって」
孤島には、貝とかカニとか、水辺の生物っぽいモンスターがたくさんいる。
パンとチャーチルが弾けると、近くにいたカニが猛然と襲ってきた。
ウォークライの効果でヘイトを上げて、タゲを取ったんだ。
「じゃあ、使ってみテ」
カニが、チャーチルを攻撃している。
でも、レベルが断然上がっているチャーチルに、傷を付けることはできないようだった。
「<レイジングテンペスト>」
「うわっ!」
使った瞬間、ものすごい火力アップを感じる。
やばそうなステータスアップアイコンが、3つ表示されていた。
カニは、チャーチルを無視して、わたしに攻撃に来る。
ちゃんとタゲを取れているようだった。
「ウォークライよりも、ヘイトが高いネ」
でも、このスキルは、本来使い方が違うんじゃないだろうか?
「これって、攻撃力アップが主で、そのペナルティとしてヘイトをもらう感じじゃない?」
「そうかもネ、でもスナオがタンクになれるのは、意味があるヨ」
まぁ、このパーティとしては、そうかもしれない。
わたしの場合は、回避盾だけど。
特にスキルも使わないで、さくっとカニを倒した。
「ボスのユニークスキルって、やっぱり強いんだね」
「優は使える?」
優は神聖魔法一本伸ばしだから、エミリーよりもレベルは高いだろう。
「うーん、使えないねぇ」
「第17階層を突破するのに、運営はよほど時間をかけるつもりだったんだネ」
ご褒美の前提レベルからして、足止めするつもりだったんだろう。
その隙に、ダンジョンが横にも伸びていって、全体的な強さの底上げとかもあったのかも知れない。
「どんどん攻略している人は、ユニークスキル目当てもあるかもね」
「やっぱりいましたね」
そこに、名塚さんが現れた。
ポータルしてきたようだ。
「どうしたの、葉月ちゃん」
「新しい大型マップが発見されました、蒼天騎士団も人数を割いて警備に行きます」
「いいネ」
新しいマップなら、警備と言わないでも、見学に行きたい人がたくさんいるだろう。
「じゃあ、行ってみようか」
「始めに言っておきますけど、遊びに行くんじゃないですからね、警備が主ですから」
そんな前置きをされると期待してしまう。
「どんなところなの?」
「それが……テーマパークというか、遊園地みたいなところらしいです」
「遊園地~!」
一番喜んだのは、優だったという。




