第百三十九話 GMコール
「くっ……! そいつも蒼天騎士団とグルなんだろ!」
今、大人気の第5階層警備中。
揉め事を起こしていたふたりに、買い取り商人さんを紹介したんだけど、片方が猛烈に否定してきていた。
後ろ暗いというか、自分に問題があると理解しているというか。
これは、ちょっと怪しいなぁ……。
「グルじゃないヨ、国連安保理事会2.0で検索してみテ、それがサキサカという男だかラ」
「ウソだ! 言いふらしてやる! 蒼天騎士団はサギ集団だ!」
遠巻きにこの揉め事を見ている人達が、ヒソヒソと話をしていた。
大人の人もいるけど、取りあえずは蒼天騎士団に任せるという感じだろうか。
「ボク達が詐欺をしているというなら、GMコールをしてください」
「じ、GMコール……?」
名塚さんが、きっぱりとそう言う。
ここだけの話ではなくて、蒼天騎士団の悪評をバラ蒔くと言われれば、名塚さんが黙っているはずはなかった。
GMコールとは、重大な問題が発生したときに、ゲームマスター、運営のスタッフを呼び出したり、マギウスの判断を仰ぐことができるシステムだ。
ただ、イタズラに使われないように、GMコールにはゲーム内マネーがかかる。
正当な呼び出しだった場合は返金されるけど、イタズラには使えないくらいの額だった。
「う……」
「どしたんですか? ボク達が詐欺をしているというなら、早くコールしてください!」
バンと効果音が聞こえそうなシーンだった。
決まった。
今の名塚さんは輝いている。
相手はぐうの音も出ないだろう。
逃げ出すのか、それとも捨て台詞を残して去るのか。
やけくそでGMコールしたら、逆にすごいけど。
「そうかよ……それなら、パパに言い付けてやるからな!」
「…………」
この場に、何とも言えない微妙な空気が漂った。
パパ?
高校生くらいに見えるけど、パパが出て来た。
「パパはな、このゲームを作っているガンマプラスの専務理事なんだぞ、蒼天騎士団全員アカウントBANしてやる!」
「…………」
偉い人だからって、そんなことできるのかな?
相当な親バカならあり得る?
「専務理事なら非営利法人でショ、ガンマプラスじゃなくて、アリス学園の間違いじゃなイ?」
違いがわからないのか、男の人はちょっと焦っている。
わたしにも、違いはわからないけど。
「ご、誤魔化そうとしてるな? 謝るなら今のうちだぞ?」
「そうじゃなくテ……」
これだけ自信満々に言ってるんだから、ウソでは無さそうだ。
うーん、でもなんというか、この……。
「キミは、アリス学園に通ってるノ?」
「う、うるさい! あんな馬鹿が集まる学校には行きたくないんだよ!」
みんながムッとしているのがわかる。
通っていないエミリーですら、機嫌は良く無さそうだ。
「大丈夫でショ、パパが子供のために見境なくなる人なら、この子を裏口入学させてるはずだヨ」
「な、なんだと!?」
そうか、それもそうだね。
親バカの線は無さそうだ。
「違う学校に通ってるってことは、この子は勉強がいまいちで、パパはちゃんと常識をわきまえた人だヨ」
「ビビってやがるな! だからそんなことを言うんだ!」
どうしようもないほどに子供だった。
わたしも、他人のことは言えないけど、これはかなり深刻だと思う。
「こういうときこそ、GMコールじゃないですかね」
悪を許さない1号の名塚さんがそう言う。
2号はいないけど。
「そうだネ、脅迫されているわけだし、使ってみようカ」
「な、なに? 脅迫?」
しっかり脅迫してるんだけど、本人にはその認識がなかったようだ。
子供の時に、ちゃんと成長できなかった人なのも知れない。
「じゃあ、ギルドマスター、お願いします」
「え?」
みんなが、わたしの方を見る。
それに釣られて、男の人も、周りで見ている人も、みんなわたしを見ていた。
「ぎ、ギルドマスター!?」
男の人の声が震える。
そこで、どうしてちょっと怯えた感じになるのか。
ヒソヒソ声も大きくなっていた。
スクショとか撮られてたらイヤだなぁ……。
「10000人以上の武装集団のトップだヨ? びびっちゃったかナ?」
「び、びびってなんかいないぞ! お前達こそ、謝るなら今のうちだからな!」
これは、解決し無さそうだ。
「じゃあ、やってみるよ」
わたしは、ステータス画面からGMコールを押してみる。
100ルピかかりますが、よろしいですか? とメッセージが出た。
緊急の場合、100ルピを分割でお支払い頂くことも可能ですと注釈が付いている。
そして、わたしの所持金から100ルピ、10万円分が引かれていた。




