第百三十八話 クローバーは誰の物?
「採取ポイントだ~」
「やったネ」
レッドプレイヤーが現れる第5階層を警備中だけど、採取もするし、モンスターも狩る。
蒼天騎士団も、普通にプレイしているのだ。
「採取は、おまけですからね」
採取ポイントは、パーティー単位で現れる。
だから、同じパーティーなら、全員が同じだけ採取することができた。
「ぴよぴよ」
「え?」
カホウが勝手に指輪から出て来ていた。
ダイフクは、たまに勝手に出て来ることがあるけれども、カホウは大人しいと思っていたのに。
でも、こんな小さなひよこは、誰も気が付かない。
地面は一面のクローバーで、そこに埋もれるようにしているのも、目立たない一因だった。
「ん?」
所持品が何か増えた。
なんだろう?
調べてみると……知らない、四つ葉のクローバーをひとつ持っていた。
なにこれ?
「ぴよぴよ」
もしかしてカホウ?
これ、カホウが拾ってるの?
でも、採取ポイントはまだ光っている。
わたしはまだ、採取してない。
「クローバーの中に、四つ葉のクローバーがあれば良いのになぁ」
「あるらしいヨ、だから、みんな地面を探してるんだネ」
「ええ、そうだったのぉ? じゃあ17階層も岩を掘ったりすれば、鉱石が出て来るってこと?」
「多分だけど、そうだヨ」
「…………」
どうやら、カホウは普通に、このクローバー群生地から四つ葉のクローバーを見つけているみたいだ。
すごい。
戦闘系じゃなくて採取系だったんだね。
「さあ、警備をつづけましょう」
5階層と一口に言っても広い。
普通に歩いているだけじゃ、端から端までなんて、到底歩けないくらい広かった。
この辺りの人は、みんな四つ葉のクローバーを探している。
レッドプレイヤーも、視界に入る限りは見えなかった。
「あ」
また、所持品が何か増えていた。
見てみると、所持している四つ葉のクローバーが2個になっている。
「ぴよぴよ」
採取で稼げるマップなら、カホウ最強かも。
「返せよ!」
「ふざけるな! 俺の物だろ!」
そこに、揉めている人の声が聞こえてきた。
100メートルくらい離れているところで、ふたりの人がつかみ合っている。
「やめてください! 蒼天騎士団です!」
当然、名塚さんはそれを止めるために走っていった。
蒼天騎士団の仕事なのか怪しいとは思いながらも、わたし達もそれに着いて行く。
「蒼天騎士団です、どうしたんですか?」
名塚さんが仲裁に入る。
つかみ合っていたふたりの男は、取りあえず離れてくれた。
「俺が見つけた四つ葉のクローバーを、コイツが横取りしたんだ!」
「俺がひとりで見つけた物だ! お前なんか関係ない!」
どうやら、採取品で揉めているみたいだ。
これは、わたし達の出番じゃないと思うけど……。
「待っタ待っタ、キミは、どうして自分が先に見つけたって主張しているノ?」
片方の男の人に、エミリーがそう言う。
高校生くらいだろうか、少し焦ったように、その男の人が弁解する。
「そ、それは、俺が先に見つけて、あったと叫んだからだ」
「そんなの関係ない! 俺はもう見つけていた!」
「なんだと! この泥棒が!」
もう片方は大学生くらいだろうか?
言い合いになっても引く気はないように、言い返している。
「じゃあ、どっちが正しいか、蒼天騎士団に決めてもらおうぜ!」
先に見つけたと言っている方が、そう言いだした。
これは困るやつだ……。
こういうの苦手だなぁ。
「いいとも! どっちが正しい!?」
ふたりが名塚さんとエミリーを見る。
名塚さんは、ちょっと困っているようだけど、エミリーはもう、心が決まっている感じだった。
「先に手に取った方が正しいに決まっているでショ、100メートル離れたところから先に見つけたって、手に取った方の物になるのは当然だヨ」
「そら見ろ! 変な言いがかり付けやがって!」
「汚い、蒼天騎士団汚いぞ!」
「はっ、これで四つ葉のクローバーは俺の物だな、あばよ」
「待てよ! 話しは終わってないぞ!」
「どうしてだ! 蒼天騎士団にジャッジさせるって言いだしたのはお前だぞ!」
そうだ、いいことを思い付いた。
「それなら、納得するまで弁護士を雇いますか?」
「べ、弁護士?」
まだ学生っぽいふたりは、ちょっと困惑している。
まぁ、もちろん、わたしも弁護士なんて良くわかっていないんだけど。
「ネット上で起こった揉め事を、正当にジャッジしてくれる人が居るんですよ」
「ああ、そういうことカ」
エミリーは、納得してくれたみたいだ。
優も、わかったという風に頷いている。
「いいぜ、そいつを紹介してもらおうか」
自分の正しさに自信があるのか、四つ葉のクローバーを持っている大学生っぽい人がそう言った。
「酒場の3階に上がったすぐのところで、買い取りをしている商人さんがいるんですが、名前は……」
「サキサカだヨ」
「さきさかさんです」
「ちなみに、料金を取られると思うから、自分が正しいと思うか、慎重に考えてネ」
先に見つけたと主張している、高校生風の男は、動揺していた。




