第百三十二話 未来視
「良く来たな、一橋砂緒」
「…………」
わたしは、思いきり不満そうな顔をする。
「ま、まぁ、座ってくれ……」
前見たときは6人いたけど、今は3人だ。
どこかに潜んでいる?
そんなことをする意味はないか。
「さて、簡単に言うと、我々はこのゲームから手を引くことにした」
「そうなんですか」
確かに、少人数だと遊びにくいかも知れない。
レイドボスばっかりじゃないだろうけど、階層のボスはかなり強いだろう。
パーティー単位でしか遊ばない人に、トッププレイヤーは維持できないはずだ。
「だが、我々はどうしても知りたいことがある」
「君にしか聞けないことだ」
「なんでしょうか?」
教えたくなかったら、教えなければいい。
聞きたいことはないわけだし。
「我々が、このゲームに取り組んで来た理由でもあるんだが……新しい世界に初めて到達したのは君か?」
「…………」
もうゲームやめるんだよね?
それを知ってどうするの?
「誰にも話さない、信じてくれ」
嘘を言っている感じはない。
まぁ、別にいいけど……。
「そう……ですよ」
「おおおっ」
3人がどよめく。
活力というか、エネルギーのようなものを感じた。
「どのような方法でだ? マギウスをどうやって欺いた?」
「欺いてないです、なんか、仕様の抜け穴みたいなのがあったんですよ」
「抜け穴か……」
「我々のリサーチ不足か?」
「いや、君が、マギウスの制作者、一橋和利の娘であることに関係はあるか?」
それを知っているのは、ごくわずかな人だと思う。
人柄はともかく、そういう情報を掴める腕はあるようだ。
「お父さんとは関係ないと思いますよ、わたし自身、最近まで、そのことを知らなかったので」
「その抜け穴に、再現性はあるか?」
「試してないからわからないですけど、あると思いますよ」
「おおおおおっ……」
また、3人でどよめいている。
いや、感心されているのかな?
「やはり抜け穴はあったのか」
「しかも、マギウスが対処していない、これは、マギウスの危うさの象徴でもある」
「もういいですよね? わたしの知りたいことをを教えてください」
3人は顔を見合わせる。
そして、黒人の人が話し始めた。
「一橋和利の目的は、おそらく時間に関することだと思う」
「時間?」
また、変な話が出て来た。
でも、今までに出て来た情報は、全て正しい。
聞いておいた方がいいと思う。
「一橋和利は、もう二十年以上、未来に恋い焦がれ、脳を焼かれていた」
どうしてそれを知っているんだろう?
「ハッキングしたんですか?」
「……そうだ、マギウスが形になってからは見えなくなったがね」
肩をすくめている。
この人達、なんとかいうハッカー集団だ。
マギウスに興味を持っていたんだね。
「一橋麻理江の研究を知り、そこからヒントを得てマギウスを作り出した」
一橋麻理江は、お母さんの名前だ。
「だが、一橋和利は、一橋麻理江の研究から、更に未来視に関するヒントを得ているようだった」
未来視?
話が壮大になってきたな……。
世間がひっくり返るってそういうこと?
「マギウスは、おそらく生体コンピュータだ」
違いが良くわからない。
後で調べてみよう。
「だが、人間の脳ではない! オランウータンなどのものでも、恐らくない!」
なんか、ヒートアップしてる。
こういうところが、怖がられているんだろうなぁ。
「では、なんの脳なのか!? 人間よりも、遥に優れた知的生命体の脳だと推測する!」
人間よりも遙かに優れた知的生命体?
「宇宙人とかですか?」
「宇宙人がいれば、そうかもしれないが、我々はいないと思っている」
じゃあ、人間よりも優れた知的生命体ってなんだろう?
「すべては、一橋麻理江の研究から始まっている」
なんとかの解読をしてるんだっけ、それは言わない方がいいかな。
「全てが終わったら、また話を聞きに来るよ」
全てが終わるってなに?
終わってしまう何かがあるの?
「一橋和利の念願叶い、未来を見ることが出来た後、何が起こるのかわからんがね」
「君も、おそらく一橋和利のパーツのひとつだ、覚えておいた方がいい」
会ったこともないお父さんをかばうつもりはないけど、悪いことをする人ではないと思う。
お母さんが信じている人だし。
「マギウスにセキュリティホールがある可能性を知れただけで、また戦う気力が沸いてきたよ、ありがとう」
「いえ……」
「あの、最後に、握手してもらっていいですか?」
ラテン系の人が、そう言って手を差し出してきた。
「え!?」
「お、おまえっ!」
「ずるいぞ! 抜け駆けか!」
「別にいいですけど……」
あまりしゃべらなかった人と握手をする。
「やったー! 砂緒ちゃんと握手したったわ!」
滅茶苦茶喜んでいる。
ゲームだから、生理的な嫌悪感はあまりない。
「お、俺も、握手してください!」
「ずるいぞおまえら! そういうのは無しって言っただろ!」
「……すみません、なんか怖いので、もうやめておきます」
「そ、そんな……」
ふたりがガッカリしている。
ラテン系の人は、滅茶苦茶喜んでいた。
わたしだよ? 優じゃないよ?
「お前の右手をもらう!」
「砂緒ちゃん、ばいばーい! ひゃっほーい!」
3人がポータル移動した。
ゲームをやめるなら、身の回りの品物を整理して、現金に換えるんだろう。
「あの、さようなら」
一応、さようならをしておく。
トッププレイヤーが音を上げる状態なのか。
あの人達は、ギルドで人を増やすことを嫌がったんだろうけど。
わたしは、マイルームにポータルした。




