第百二十八話 上がるスカート
色々あった六月も、いよいよ最後。
学園ランキング発表の日が来ていた。
稼いだお金が膨大なのと、体育祭やらイベントやらで、まぁまぁ頑張った。
ランキングの計算式がどうなっているのかはわからないけど、多分、1位は維持できると思って、ガチャは回していない。
来月に取っておけるのは、いいことだと思った。
「暑くなってきていますので、水分補給を……」
今は、午後の授業が終わって、ホームルームの時間だ。
「…………」
前に座っている優のことが気になる。
どことは言えないけど、なんとなくスカートが気になった。
めくりたい、この気持ち。
「…………」
持ち上げられないかな……。
わたしは、後ろから見えている優のスカートを上に上げていく。
「……っ!」
優のスカートが、持ち上がっていく。
少しずつ、ゆっくりと……。
なんで? どうして持ち上がってるの!?
「きゃっ!?」
優が小さな悲鳴を上げて、スカートを押さえた。
そこで、なんとなく、感覚が途切れてしまう。
優のスカートと繋がっていたような感覚が無くなってしまった。
「どうしました、小島さん」
「い、いえ、なんでもありません……」
魔法? 超能力? 変なものに目覚めちゃった?
シャーペンに、意識を集中する。
「…………」
駄目だ、繋がっている感覚がない。
持ち上げられる気がしないし、実際持ち上がらなかった。
夢? わたし寝てる?
優のスカートは……。
「…………」
持ち上がる!
優のスカートが摘み上げられるように持ち上がっていく。
でも、それはすぐに手で押さえられてしまった。
「さっきの、砂緒ちゃんでしょ!」
ホームルームが終わって放課後。
わたしは、優に問い詰められていた。
「ごめん、できるかなと思ったらできちゃった」
「どうしてわたしのスカートなの!」
そこなのか。
持ち上がるという現象の方を、驚いて欲しいんだけど。
「いや、シャーペンとか持ち上がらないんだよ」
「もう絶対に駄目だからね!」
「はい……」
もう放課後になっているのに、みんなヘッドセットを付けている。
学園ランキングを見に行っているんだろう。
「わたし達もランキング見に行こうか」
「そうだね! 今回は、イベントの成績も良かったし、前回よりも上がってるかも!」
機嫌を直してくれたみたいだ。
良かった。
わたしはランキングで1位を維持、優は大幅アップした前回よりも、更にアップしていた。
「エミリーちゃん! 超能力ってどう思う!?」
わたし達は、常夏の孤島にいた。
ギルドアジトに集まると、色々と誘われてしまうので、ここが気楽で良かった。
「スナオが使えるようになったノ?」
「すごーい、どうしてわかったの!?」
「なんとなくだヨ」
エミリーは、なんでもないことのような顔をしている。
自分でも、どう思えばいいのかわからないけど……。
実際これって、拙いと思う。
あの椅子のせいなんだろうけど、こういうのを期待している人が、世界中に居るってことなのかな。
「どんな超能力なノ?」
「私のスカートを持ち上げることができる能力」
「めくったんだネ」
エミリーが笑っている。
笑っているけど、迷うような笑顔だった。
「サイコキネシスだね、自分を持ち上げて空を飛んだりできるかもヨ?」
「そんなこともできるのぉ!?」
「できないよ、できるわけないって」
そこまで強力じゃない。
できたら、その芸だけで、一生食べていけるかも知れない。
「でも、ついにそこまでいったんだネ」
歯切れの悪い言葉だ。
なにかを悩んでいるようにも見える。
「どうしたの?」
「ユウ、今まで黙っていたけど、ワタシはリサのお兄さんに雇われて、このゲームをプレイしているノ」
わたしは、前にそれを聞いていた。
優には言っていない。
「ええっ、そうだったの!? だからリサちゃんと知り合いだったのかぁ」
納得したように頷いている。
でも、メタバースのこととか、エミリーの研究まわりで知り合いだっていうことは、優も気が付いていただろう。
「リサのお兄さん、つまりパトリックの目的はね、自分の病気を治すこと、肺の難病を抱えている身体を治すことにあるノ」
「えええ? 会社の偉い人だから、マギウスとか、そういうのじゃないのぉ?」
それは知らなかった。
リサのお兄さんは、病気だったのか……。
「パトリックの親は、マギウスの研究の一環だと思っているシ、実際、パーティーの社員は、マギウスやメタバースの研究が目的だと思うヨ」
病気を治す目的でゲームをしている……というのは、話が合わない。
いや、意味がわからないと言ってもいい。
「お兄さんのことを考えているのはリサちゃんだけなの?」
少し寂しそうに優がそう言う。
そこが気になるんだね。
「そんなことはないヨ、何度か会っているけど、親とは仲良さそうだったシ」
「そうなんだ、良かったぁ」
エミリーの話はつづいていった。




