第百二十七話 第四回イベントが終わって ◎
イベントは終了した。
期間としては、月曜日の朝までやっていたらしい。
名塚さんは寝たんだろうか……ちょっと心配だ。
そして、集計時間を経て、ギルド金貨の発表が行われた。
1位は……もちろん、蒼天騎士団だった。
いや、誤差だったけど。
2位は、アシステルさんのREDというギルドだった。
色々な意味が込められていると聞いたけど、なんだろうか。
そして、順位に応じて、ギルドアジトに設備が届けられた。
1位の報酬は、なんと結婚式場だった。
ゲーム内で結婚したい人は、蒼天騎士団のギルドアジトで結婚指輪を買うと、結婚できるというシステムだった。
そのうち、普通に実装されるんだろうけど、一足早く結婚したい人は、ここで結婚できるようだ。
指輪は一律で10ルピ。
1万円だ。
高いか安いかはわからないけど、一緒に買えばいいんじゃないかとは思った。
それで、お互いに贈り合えばいいと思う。
ちなみに、2位の報酬は離婚調停場という恐ろしい施設だった。
離婚したい人は、レッドプレイヤーのギルドアジトに行かないといけないみたいだ。
結婚は、慎重にしてねという運営のお達しだろう。
イベントが終わると、ギルドアジトのあるフィールドにはモンスターがでなくなり、砦を攻めることもできなくなった。
もちろん、街と同じpvp禁止エリアだ。
今日も、レッドプレイヤーは罪のない人を襲う盗賊プレイをし、蒼天騎士団はそれを取り締まるプレイをする。
何も変わらなかったけど、何かが変わった。
そう思わせるイベントだった。
ここはスタッフルーム。
運営の社員達が忙しく働く、侵入禁止エリアだ。
しかし、大仕事だったイベントも終わり、みんな一息吐いているという状態だった。
「やぁ、イベントも終わったねぇ、良かった良かった」
なぜかチーフに呼ばれた荒井は、嫌な予感を覚えつつも、普通に雑談していく。
「蒼天騎士団とREDの戦いで、宝箱をふたつドロップさせたのはチーフですね?」
ボスとはいえ、イベントモンスターから複数の宝箱がドロップすることはない。
ましてや、中身が全く同じというのは、バグ以外なら奇跡としか言いようがなかった。
「さぁてねぇ、俺は知らないなぁ」
チーフは、戦いが始まったところでマギウスに掛け合い、報酬を半分ずつにして欲しいと要望を出したのだと、荒井は思っている。
こんな上司だけど、粋なことをするじゃないかと、少し感心していた。
「ところで荒井君、君を呼んだのは他でもない」
「なんでしょうか」
来たぞと思い、少し防御姿勢になる。
どの件なのか、心当たりが多すぎてわからない。
だが、このタイミングで呼びつけられるということは、イベント関連だろうか?
色々思い当たる節のある荒井としては、恐ろしい時間だった。
「ギルドダンジョンに最終マップがあるそうじゃないか」
「あっ……」
チーフには報告しなかったが、どういう問題になっているんだろうか。
結局呼び出されるなら、報告すれば良かったと思う荒井だ。
なにか損をした気分になってしまっている。
「報告、連絡、相談は、社会人の基本じゃないのかな?」
「いや、開発部に問い合わせたら、通常の挙動だという話でしたので……」
「それを判断するのは、俺だよ、俺!」
開発がバグじゃないと言っているものを、騒ぎ立てるのもどうかと思う荒井だが、報告はするべきだった。
それは、わかっている。
「また、例のプレイヤーがデビルガチャ券をゲットしたそうじゃないか」
「まぁ、そうですね」
「最下層や最終マップで、ドロップ率を操作している意味が無いじゃないか!」
「ですが、落ちるガチャ券がデヴィルガチャ券でしたので、例のプレイヤーは使わないかと……」
「それを判断するのも俺だよ!」
「はい、すみません……」
段々チーフが苦手になってきている荒井は、報連想がおろそかになってきていた。
なるべく関わらないようにしようという、大人の判断だ。
これは、荒井だけではなくて、そうさせるチーフも悪い上司だと言えるが……それはまた、別の話だ。
「ギルドダンジョンもドロップ率を調整する」
「調整するんですか……」
「遭遇率も含めて、荒井君に任せるから、よろしくな」
「え?」
荒井は思わず聞き返す。
自分に任せると、チーフは言ったのか?
「例のプレイヤーの件は、君が担当だろう?」
「そ、そうだったんですか!?」
「言ってなかったかも知れないが、そうなんだよ」
そんな無茶苦茶な話があるかと、脱力してしまう。
クレーム担当になってしまったようで、なんだか腑に落ちない。
「今度から、例のプレイヤーのことは報告するように」
「わかりました……すみません」
そう言って、荒井は引き下がった。




