第百二十二話 レッドプレイヤーの襲撃
ギルマス部屋に帰ってくると、優とエミリーはいなかった。
外で戦っているんだろうか?
一時間は帰らないと言ったから、多分そうだろう。
「ギルドマスター! いつの間に3レベルになったんですか!?」
部屋に、名塚さんとアンドレアさんが入って来た。
サブギルドマスターなんだけど、実質、この人達がギルドマスターみたいなものだ。
「おかしいな、まだ明日くらいまではかかると思っていたんだが」
アンドレアさんが鋭い。
粗野な人かと思っていたけれど、実際はすごく優秀な人だった。
公務員だという話だから、どこかの国の官僚とかやってるんだろうか。
「き、きっと、レアなモンスターをどこかで倒したんですよ」
「そうだな、まぁ、いいか」
わたしにはたどり着かないと思うけど、あまり勘ぐられても困る。
膨大な経験値を取得した誰かがいるってことだから、良く考えれば、わたしが怪しい。
いや、上納経験値でソートができるんだっけ?
「それよりも、交番の話だが……」
レッドプレイヤーに困っているギルドがあればと、募集をかけたところ、いくつか返事があったらしい。
そこまでは歩いて行く必要があるのだけど、ものすごく広いフィールドだから、ランドマークを利用しても、相当に時間がかかるとのことだった。
「仕方が無いですよね」
「そこでなんだが、オレ達がいない時間にも動けるように、大臣を任命してもらいてえ」
そうきたか。
それで、アンドレアさんがギルマス部屋に来たんだな。
「何大臣ですか?」
「んー? 外務大臣でいいんじゃねえかな」
「待って下さい、名前は後で変えられるんですよね?」
名塚さんが異議を申し立ててくる。
名前にこだわりがあるのか。
「まだ大臣を任命したことがないからわからないけど、10人任命できるから、名前が嫌だったら、一度罷免してから再任すれば大丈夫じゃないかな」
「外務大臣って、なんだか国みたいでボクは抵抗があります」
「国みたいなもんだろう、人が集まって武力と財力があって、法がある」
法とはリライアビリティのことだろうか。
割と治外法権っぽい世界だけど、ファンタジーだから仕方が無い。
「税金があったら嫌ですけどね」
払ったことないけど。
「違いねぇ、だが、ギルドの財源として、有志から募ってもいいかもな」
ギルドの財源って……お金がかかることもあるのかな?
他の砦まで歩いて行くのだって、消耗品代とかはかかるだろう。
レッドプレイヤーに装備を奪われた人に、貸し出す武具とかもあったらいいかな。
「やっぱり、大臣じゃなくて隊長とかにしませんか?」
「え、別にいいけど……」
「名前なんざ後でいい、ヤニックのやつを外務大臣に任命してくれ、あいつは使えるやつだ」
ヤニックさんは確か、小学校の先生をしている人だ。
「本人も了承済みなんですよね?」
「ああ、了解をもらっている」
「それじゃあ……」
わたしは、ヤニックさんを外務大臣にした。
「あー、大臣になってるー」
名塚さんが、泣きそうな顔でギルドステータスを見ている。
好みじゃないんだね。
「じゃあ、6人パーティーを10部隊ずつ、7ヶ所に派遣しているからな」
結構な数だ。
もちろん、腕に覚えのある人達だろう。
「砦を治めたら、レッドギルドと対決です!」
イベント二日目は、そのまま夜まで戦ってログアウトした。
イベント三日目の日曜日の朝。
優とログインすると、名塚さんがもうログインしていた。
「あはは、ギルドマスター、夜のうちに、砦が開通していますよー」
「…………」
なんか、HPは減ってないけどボロボロな感じだ。
キャラクターは疲れてないけど、プレイヤーが疲れているパターンだと思う。
「葉月ちゃん! また寝てないでしょ!」
「いや、寝ました、3時間……朝ご飯も食べましたから」
もう……名塚さんは、なんか不安を感じる人だ。
将来、ブラック企業とかに勤めないといいけど……。
正義の味方なら、そいうのは大丈夫なのか。
「ログアウトして、ちょっと休憩してきた方がいいんじゃないかな?」
「だ、大丈夫です! 一徹や二徹くらい、平気ですよ!」
それは、大人ならそうだろうけど、わたし達は、まだ脳も身体も発達していない。
寝るときに寝ておかないと、発育がおかしくなっちゃうよ。
「でも……」
わたし達が無言で困っていると、名塚さんはがっくりとうなだれた。
「わかりました……後で、ちょっと休みます」
なんかシュンとしている。
でも、興奮して寝られないのかも知れない。
「砦は、レッドプレイヤーギルドの近くのところだよね」
「そ、そうです、今は、警備に100名ずつ派遣しています!」
100名と聞くと少ないように聞こえるけれども、少数ギルドから考えたら、ものすごい大人数だ。
3桁人数がいれば、沸くモンスターも強いから、警備していても退屈しないだろう。
「大変です!」
そこに、ヤニックさんが飛び込んできた。
「交番が、1000人規模のレッドプレイヤーに襲われていると、連絡がありました!」
わたしは、名塚さんの方から、変なオーラが出ているのを感じていた。




