第百十五話 空を走る
イベントが始まって、今は防壁の上に登ってきていた。
うーん、結構高い。
10メートルくらいの高さがあった。
足場は、割としっかりしているけど、壊れるときは壊れるだろう。
「回り込めー!」
「うおぉぉぉぉっ!」
「負傷したヤツは下がれよー!」
下では、大声大会みたいになっている。
クモは強いみたいで、地獄絵図だった。
そして、お尻が持ち上がると、空中に糸を噴射する。
それが密集している人を巻き込んで、大事故が起こっていた。
「落ち着けー! 武器で切ればいい!」
アンドレアさんが頑張っている。
上からだと全体が見れるからわかりやすいけど、戦いながら指揮をするのは大変そうだった。
「攻撃手段のある方は、攻撃してください!」
壁に並んだ魔法使いやハンターが、一斉に攻撃を始める。
「<トリプルスナイピング>」
「<エクスバーン>」
「<エネルギーボルト>」
わたしは、どうしようかな。
「スナオ、あれ使ってみよウ」
エミリーが、防御用の装置を指さしている。
大きな弓……バリスタかな?
「これ、どうやって使うの?」
「多分ネー……」
バリスタの隣に置いてある、大きな矢をつがえる。
そして、ハンドルをギリギリと巻いていくと、弓がどんどんしなっていった。
「おっ、おおっ、すごい、強そう!」
最後に、ハンドルをかちっと固定する。
「狙いを付けテ!」
弓だと放物線を描きそうだけど、これだけ近ければ、気にしないで撃っていいはずだ。
クモの頭を狙う。
「引き金を引ク!」
わたしは、引き金っぽいレバーを引いた。
ビィンと空気が震える音がして、矢が飛んでいく。
それは、クモの頭に突き刺さって大ダメージを与えていた。
「キュオオォォォォッ!」
「みなさん! 城壁の弓を使ってください!」
わたし達を見ていたのか、名塚さんがそう指示する。
「ギルマスとエミリーさんは、みんなに使い方を教えてください!」
「あはは、ワタシも撃ってみたかったネ」
「まだ、何回でも撃つチャンスはあるよ」
右手と左手に別れて、バリスタに着いている人に使い方を教えていく。
これで火力は上がると思うけど……。
地上の方は半分くらい人がいなくなっていた。
どうやら、毒にやられているようだ。
クモの血が毒になっていて、攻撃すると毒になってしまう。
「な、名塚さん、毒治療を下の方に!」
名塚さんも緊張しているのかな……。
状況がよく見えていない。
「ど、毒の手当ができる方は、下に降りてください!」
「わたし行ってくるね!」
「うん、頑張って!」
優が下に行ってしまった。
回復要員が下に降りると、待っていたかのように、大グモが子グモをまき散らす。
100匹以上いる子グモに、下は大慌てだった。
いや、子グモと言っても、人間より大きい。
ちょっと怖いまである。
フォールダウンだと届かないかな……。
闇の精霊がそもそもいないけど。
わたしは、ティタニススタッフを装備した。
「<エレメンタルポテンシャル>」
「<分身>」
「<セレスティアルスフィア>」
空中に光の珠がふたつ現れる。
そこから、光が沸き上がり、こぼれ落ちていった。
その光は、ホーミングするように大グモと子グモを捕らえていく。
「…………」
下を観察すると、子グモの方は、当たれば一撃のようだった。
でも、それで大グモのヘイトがわたしに向いてしまう。
「ウォークライ!」
「ウォークライ!」
下の方で、ウォークライを連発しているけれども、ヘイトを取れないでいた。
わたしのヘイトが高いなぁ。
持続型だから、使い難い魔法なのかも。
そして、大グモはわたしに向かって毒を吐き出してきた。
「うわっ!」
慌てて避けるけれども、何人かが巻き込まれてしまう。
しまった、毒の治療を出来る人がみんな下にいる。
「<ポーションピッチャー>」
アルケミストだろうか、毒を治すポーションを投げる人が居た。
エミリーも使えそうだ。
でも、まだわたしへのヘイトが下がりきっていない。
また範囲攻撃をされたら厄介なので、ウイングブーツの効果で空を走る。
「こっちだよ!」
『おおおおっ!』
空を走るわたしを見て、どよめきが聞こえる。
駄目だ、目立ってる。
わたしは、慌てて下に降りた。
「みなさん、ギルドマスターにつづいてください!」
「やれ! オマエら!」
ビィンビィンとバリスタの音も聞こえる。
そして、前足をやれたのか、クモが倒れ込んだ。
「うわああぁぁぁっ!」
みんなが、それこそクモの子を散らすように離れる。
「今だ! 頭を狙え!」
地上部隊が、頭を集中的に攻撃する。
そして、それが決定打になったのか、クモはキィィィと鳴いて電子の藻屑と消えた。




