第百十二話 ギルドアジトで
「一橋さん! 初期限度人数の1万人ですよ!」
「名塚さん、頑張ったね」
「悪を許せない心が、こんなにも集まっているんです!」
ギルドを作成すると、正式なギルドアジトをもらえた。
今までは、街の集会所みたいなところを借りていたけれども、ちゃんと戦う設備の整った建物だ。
きっと、ギルドアジトを攻めたり攻められたりするんだろう。
ちなみに、ギルドアジトは、街の中ではなくて、どこか謎のフィールドに設置された建物だ。
探索してみたら、面白いものがあるかも知れない。
「ギルド経験値は、みんなが稼いだ経験値の1%が上納されるんだっけ」
「はい、一万人もいますから、2レベルになるのはすぐですよ」
それで、ギルドレベルが上がっていくと、設備や恩恵が色々付加されていくという仕組みらしい。
役職も色々あって、ギルドマスター、サブギルドマスター、軍師、大臣、親衛隊、騎士、団員などがあった。
「サブギルドマスターがひとり空いちゃってるけど、このままにしておく?」
「はい、どんな逸材が来るかわかりませんから、まずは、ボクとアンドレアさんのふたりでいかせてください」
アンドレアさんとは、初めに名塚さんとわたしに難癖を付けてきた剣士の人だ。
実際に行動力のある人で、今は、みんなから、それなりに認められているらしい。
ギルドマスターはひとりだけしか就任できないけど、サブギルドマスターは3人なることができる。
ひとつは空席にしておくというのが、名塚さんの方針のようだった。
そして、ここはギルドマスターの執務室。
別に何もしてないんだけど、部屋が割り当てられていた。
「初期の人達は、親衛隊になってるんだよね」
「はい、ギルドシステム実装前から蒼天騎士団にいた人は親衛隊、実装後に入って来た人は団員ですね」
「昇進とかはどうするの?」
「まずは、上納される経験値の多い人を騎士にしようと思います」
「一万人も管理できるかな……」
「任せて下さい、団員名簿から上納経験値でソートできますから、すぐにわかりますよ」
ギルドマスターは何も知らない。
管理に携わってないからなぁ。
正直に言って、ギルドのことは追い切れなかった。
わたしがやったのは、ギルドマスターだけの権限である、サブギルドマスターの指名と、ギルド専用ダンジョンの解放だけだ。
でも、ギルドダンジョン解放は、そんなに簡単じゃなかった。
上納する経験値がかなり多かったからだ。
少数ギルドだと、ギルドダンジョンを遊ぶのは、結構後になるだろう。
その他のことは、基本的に名塚さんに丸投げだった。
君臨すれども統治せず。
我ながら、酷いギルドマスターだった。
「ギルドフラッグですが、デザイナーの方がいましたので、何点かラフを上げてもらって、みんなの投票にかけたいと思います」
「そうだね、それがいいね」
ギルドの意志決定のために、投票システムというのがあった。
次にどうしたいかなどを、投票で決められるシステムだ。
これは、正直ありがたい機能だった。
わたしに決めて欲しいと言われたら、困ることが多い。
ギルドフラッグは、そのギルドを象徴する旗で、デザインは自由に決めることができる。
個人個人で、バッジにすることができて、普段から身につけることもできた。
「ギルド専用ダンジョンは、賑わってる?」
「もう、ものすごい盛況ですよ! 経験値もお金も、通常のダンジョンより効率がいいですからね!」
「これじゃあ、通常のダンジョンはガラガラかな?」
解放できないギルドや、そもそもギルドに入っていない人もたくさんいるだろうから、そんなことはないか。
「ギルド戦用ダンジョンは回数制限があるので、そんなに籠もることはできないんですよ」
「そうなんだ」
「ギルド戦用ダンジョンは、入場にルピがかかりますからね」
行ったこと無かったから知らなかった。
まさか、お金がかかるとは。
「それで、入る度に入場料が高くなっていく仕組みですね」
「じゃあ、自分の懐具合と相談して、採算が合わなくなったところで入るのをやめる感じなんだ」
「一ヶ月に1回リセットされるようですから、月末の今は、やっておいた方がお得なわけですね」
ギルド専用ダンジョンの他にも、ギルドマスコットの育成や、作物を育てるファーム、ステラという謎ポイントをを獲得できる儀式など、内容は盛りだくさんだった。
「あれ? なんだろう……」
どこからか通知が来た。
タップしてみると、ギルド経験値が2レベルに達しましたという通知だった。
「ギルドレベルを2に上げられるみたい」
「本当ですか! きっと、一番乗りですよ!」
名塚さんが興奮している。
一番とか、好きなんだよね……。
「じゃあ、上げちゃうよ?」
「お願いします、マスター!」
マスターって呼ばれると、ちょっと違う感じはするけど……。
わたしは、ギルドレベルを2に上げた。
「通知が来ました! 2レベルになってます!」
「みんなに通知が行くんだね」
ちなみに、ギルドレベルを上げるのもギルマスにしかできないみたいだ。
自動で上がるようにしてくればいいのに。
「まだ、ギルドスキルは何が欲しいか投票中でしたから、2レベルの分も追加しておきましょう」
「そうだね」
ギルドレベルを上げると、ギルドスキルが取れるんだけど、これは、みんなの投票で、どれがいいか決める予定だった。
ステータスや経験値にも補正がかかるらしい。
名塚さんが、ものすごい興奮している。
なんか、ちょっと心配だ。
「名塚さん、寝ないと駄目だよ?」
「寝ている場合じゃありません! やることがいっぱいで、ボクはもう、幸せの真っ最中なんです!」
孤独に戦うヒーローよりも、こういう組織っぽい方が好みなのか。
まぁ、蒼天騎士団を立ち上げたんだから、そうだよね。
「そういえば、ギルドレベルが2になったから、人を増やせるの?」
「はい、次は1000人増やせるみたいです」
「じゃあ、募集するんだ」
「きっと、すぐに埋まりますよ!」
数は力というけど、なんかちょっと怖さも感じる。
変な方向に進まなければいいけど……。
「砂緒ちゃん! ギルド面白いよ!」
そこに、優が飛び込んできた。
ここにも、おかしくなっている人がいる……。
「何をやっているの?」
「儀式をやって、ステラをもらうんだけど、それで種をもらって、花を植えてるの!」
ファームを楽しんでいるんだ。
こういう要素は、はまる人が多そうだ。
「花は実になるの?」
「アバターの色を変える染料になるみたい!」
「へぇ……」
それはちょっと興味のある話だった。
アバターの色を変えられるなら、試してみたい。
「食べられるものは植えられるの?」
「食べられる作物も植えられるよ!」
料理の方も、幅が広がりそうだ。
「レベルが上がったので、防御用の施設なんかも作れるみたいですね」
「防御用ってことは、戦うこと前提で間違いないね」
「ギルド間戦争は、しなくてもいいと思いますが、どう思いますか?」
「蒼天騎士団は正義のギルドだもんね、みんなのギルドと戦うのは、ちょっと違う感じがするよね」
「これも投票かな? レッドプレイヤーのギルドもあるみたいだから、限定的に戦うのはありそうだけど」
「レッドプレイヤーのギルド! 失念していました! いつ攻めてきてもおかしくないです!」
そこに、ゲーム内告知が入った。
まさか、緊急メンテかな?
ギルドシステムにバグがあったとか?
「プレイヤーの皆様に連絡致します、明日より、第四回イベントを開始致しますので、ふるってご参加下さい」
「ギルド実装と同時にイベントぉ~?」
「なんか怪しいね」
リサのお兄さんが言っていた通り、レイドボスをやらせるのかな?
「イベントの内容によっては、投票している時間がないかも知れないですよ!」
「イベントは、いつもぶっつけ本番だからね」
六月最後の週末だ。
これが終わったら、ランキングの発表だから頑張らないと。
どんないやらしいイベントなのか、はたまた楽しいイベントなのか。
前回が協力プレイイベントだったから、今回は競争?
蓋を開けてみるまでは、なにもわからなかった。




