第百十話 悪の首領
「…………」
怪しいギルドに入った人は、アイテムをもらって、大げさに喜んでいる。
サクラなのかも知れないけど、なんだか入らないと損をしている気持ちにさせられた。
もらっているアイテムは、プレジデントガチャの最高レアである、☆6装備だ。
普通に手に入れるのは大変だろう。
でも、この部屋で待ち合わせをしていたのか、仲間同士でどこかへ行く人もいる。
そういう人は、仲間同士でギルドを作るんだろう。
「NPOの人に話を聞いてみよウ」
「うん、わたしは聞いてるだけだから、お願い……」
「誰にでも、得手不得手があるもんだヨ」
「こういうのを、社会的役割分担って言うんだよ」
「ユウは難しい言葉を知っているネ」
ちょっと違う気もするけど、まぁいいや。
わたし達は、黒い鎧の人の近くに行った。
エミリーは、なんでもないことのように、黒い鎧の人に話し掛ける。
「あなたは、あれをどう思ウ?」
ギルド勧誘している男の人を指さす。
黒い鎧の人は、お手上げという風に肩をすくめた。
「さあ、まだ何とも言えないね、ゲーム内でのアドバンテージが欲しいなら、人を集めるのは定石だろうし」
「あなたはNPO法人の人なんでショ?」
「そうだよ、黒岩と言う、君たちはプレーン?」
わたし達が3人組みだって、すぐにわかったようだ。
レッドオーラじゃないから、目立つと思うけど。
「誤解の無いように言っておくと、レッドのギルドに入りにきたわけじゃないヨ」
「じゃあ、どんな用事かな?」
「アシステルさんに会えル?」
「私も会いたい!」
かわいいと聞いたから、優も会いたくなったんだろう。
本当は怖い人かも知れないのに。
「私も、彼女がログインするのを待っている状態なんだよ」
「アシステルさんのギルドに入るノ?」
「みんな、そのために、ここに集まっているようなものさ」
どうやら、すごく人望があるみたいだ。
イベントで何万人も人を集めたのは、伊達じゃないらしい。
そこに、ひとりの女性が部屋に入ってきた。
中学生くらいかな?
みんながそこに群がっていく。
「アシステルさん! ギルド作ってくださいよ!」
「オレ達、アシステルさんのギルドに入ります!」
部屋に入ったら、いきなり詰め寄られて、アシステルさんはちょっと困っている感じだった。
でも、すごい人気なのは確かだ。
「彼女は、若く見えるけど大学生だ」
「ホー」
「もう立派な大人だから、話があるなら聞いてみるといい」
黒岩さんは、30代くらいだろうか?
こんな形でゲームに関わっているだけあって、見た目も中身も大人だった。
「な、何よアンタ達! わ、私はギルドなんか作らないからね!」
「そんなこと言わないで、アシステルさんのギルドを見せてくださいよ!」
「みんなアシステルさんを待っていたんですよ!」
「う……ううっ……」
顔を赤くして、すごく困っている。
わたしは、ちょっと近しいものを感じていた。
気持ちはわかるよ。
わたしだって、こんなにされたら困るし。
「わ、わかったわよ! 仕方なくだからね! 私はやりたくないんだから!」
「ひゃっほーい!」
「アシステルさんのギルドだぞ!」
部屋に集まっているレッドプレイヤー達がにわかに活気づく。
勧誘をしていた男は、苦々しそうだ。
「でも、ギルドってどうやって作るの?」
「それはですね……」
詳しそうな人に話を聞いている。
でも……。
「…………」
名塚さんがいたら、燃えそうなシチュエーションだった。
悪のボスが目の前にいる。
まさか、レッドプレイヤーに、こんなわかりやすいボスがいたなんて。
「大丈夫そうじゃないかナ?」
「大丈夫?」
「あの男のギルドも、本当にクズなレッドプレイヤーしか集められないでショ」
そうだ、わたし達の目的は、独裁国家のエージェントが作るギルドに、レッドプレイヤーが入らないようにすることだった。
なんか、もうここに来ただけで、目的を達成したような気になっていたけど。
「そうだね、みんな楽しそうだし、イメージ変わっちゃった」
「じゃあ、帰ろうか」
「そうだネ、自分たちのこともあるシ」
そこに、大きな声が響いた。
「そ、そこ、そこのお前ー!」
アシステルさんの声だ。
あれ……わたしを見ている!?
「お前、蒼天騎士団の団長だな!?」
「いいいいっ!?」
「ひ、人違いです!」
「違うヨ! 他人のそら似だヨ!」
でも、アシステルさんは詰め寄ってくる。
なにか、確信があるみたいだ。
「このアバターに見覚えがある、大人達に団長と呼ばれていた」
「そ、そ、そ、そ……」
わたしは言葉が出てこない。
部屋中の殺気が、わたしに向けられているような気がした。
「だ、団長って言うニックネームなんです!」
「蒼天騎士団なのは否定しないんだな?」
「いいいいっ!?」
ど、どうしよう。
エミリーはお手上げという風なジェスチャーをしている。
範囲魔法で全員倒す?
黒岩さんもアシステルさんも?
わたしは、どうするか決められないまま、アシステルさんに詰め寄られていた。




