第百九話 レッドの理由
「さあ、今うちのギルドに入れば、これがタダでもらえるぜ!」
カタコンベの扉を開けて中に入ると、大勢のレッドプレイヤーがいた。
声を上げている男と、様子を見ているプレイヤー達だ。
ここに集まるのが、レッドプレイヤーの習慣なんだろうか?
わたし達でいう、酒場みたいな。
「あれは何をしているノ?」
様子を見ているひとりに、エミリーが声をかける。
若い男の子で、高校生くらいの褐色の人だった。
なんで、レッドプレイヤーなんてしているんだろう。
すごく不思議な感じがした。
「オレ達に資金提供をしたいんだとさ、それでギルドに入れって勧誘してるんだよ」
情報通りじゃないですか。
隠す気もないってことなのかな。
「知ってる人ナノ?」
「いや、オレは見たことねーな、今まで目立ってなかっただけかも知れんが」
声を上げている男を、うさんくさそうな目で見ている。
レッドプレイヤー同士でも、仲がいいとは限らないようだ。
「ふーん、お金持ちなんだネ」
「ケッ、怪しいぜ」
他の人達も、声を上げている男を遠巻きに見ているだけだ。
どうやら、レッドプレイヤーの勧誘は上手くいっていないらしい。
「君は、どこかのギルドに入るノ?」
「知り合い同士でギルドを作るつもりだよ」
「じゃあ、あのギルドに入って、アイテムだけもらって、すぐに退会すればいいんじゃないノ?」
「どんなシステムか知らないが、関わらない方がイイだろ」
「まぁ、それもそうだね、ありがとウ」
「おう」
エミリーが戻って来る。
「エミリーちゃんすごいねぇ、怖くないの?」
「レッドプレイヤーと言っても色々だヨ、話し掛ける人は選んでいるからダイジョウブ」
それができるのが、もうすごいんだけどね。
「どうやら、あの男は、あまり好かれていないみたいだヨ」
「でも、もう5人もギルドに入ったよー?」
「サクラなのかな?」
「あるかもネ」
なんとなく、損をしている気にさせる手だ。
数人が手を上げれば、オレもオレもとなる予定なんだろう。
「一枚岩じゃないレッドプレイヤーをまとめられるのかな?」
「イベントの時に、何万人って集めたでショ?」
それもそうだった。
何万人と集められるのは、正直すごい。
声をかけるだけで、途方に暮れてしまう人数だ。
「イベントの時は、アシステルさんがいましたからね」
「それダレ?」
わたし達の話に入り込んでくる女性がいた。
この人も高校生くらいだろうか? 結構美人で、多分日本人だ。
レベルもまぁまぁ高そうかな?
装備もちゃんとしている。
「レッドプレイヤーのまとめ役みたいな人がいるんですよ」
「そんな人がいるんだ」
「怖そう……」
優は正直にそう言う。
でも、その女性はくすっと笑った。
「ちっとも怖くないです、むしろかわいいですよ」
「かわいいの!?」
名前と噂からして、その人も女性だろうか?
どこの国の人かは、想像も付かないけど。
「あなたは、なんでレッドプレイヤーをしているノ?」
わたしも、それは聞いてみたい質問だった。
性癖ですと言われたら、もうどうしようもないんだけど……。
「私は、現実で、ストーカーに狙われてたんですよ」
「ストーカー!? 大丈夫だったんですか!?」
優が心配そうにそう聞く。
でも、女性はやわらかく笑って答えた。
「わたしがゲームを始めたら、案の定、近寄ってきまして」
「フムフム」
「現実では裁判中ですけど、ゲームでは殺してやりました」
「ええええっ!?」
優が驚いている。
そういうパターンもあるのか……。
現実で晴らせない恨みを、ゲームでということだ。
「まだゲームをつづけるノ?」
「はい、同じように苦しんでいる人が大勢いますから」
そういう事情がある人も、レッドプレイヤーには大勢いるわけだ。
というか、この人の場合、明らかに誘ったよね。
ストーカーがゲームを始めれば殺せるって、思ってたよね。
「人を殺すのって、抵抗なイ?」
「初めはありましたけど、慣れですね」
「慣れるんですか……」
「VRゲームって、初めはモンスターを倒すのも抵抗あるじゃないですか」
確かに、それが嫌で、やらない人も多い。
切っても血しぶきとかは出ないんだけど、何とも言えない手応えは感じる。
「レッドになっても、受け入れてくれる人達がいるのは、とても助かっていますよ」
「思ったよりも、複雑みたいだネ」
エミリーは肩をすくめてみせる。
家庭環境とか、境遇とか、色々ありそうだ。
「あそこにいる黒い鎧の大きな男の人、わかりますか?」
「わかるヨ」
レアリティの高そうな、黒い鎧の大男だ。
あれじゃあ、どこにいても目立つだろう。
「あの人は、NPO法人の人で、ゲーム内で悩んでいる人の心のケアをしてくれているんですよ」
「詳しい人なんだネ」
「はい、レッドプレイヤーには、過激な人もいますから、そういう人達から、守ってくれる人でもあります」
そんな話をしている間にも、また5人が怪しいギルドに入会していた。




