第百八話 カタコンベ
「家に帰らなくて大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ」
安全な教室に帰ってきて、途中から授業を受けたけれど、今はもう放課後だった。
危ない目に遭ったばかりだし、今日は早く帰ってもいいと思うんだけど。
「でも、あんなことがあったばかりだし……」
「レッドプレイヤーに援助をして、変なギルドを作ろうとしている人達なんでしょ?」
「そう言ってたね」
「どうやったら止められるのかわからないけど、手伝うよ」
うーん、そう言うならそれでもいいんだけど……。
わたし達は、プレイルームを確保すると、そのままログインしていった。
マイルームであれこれした後、孤島にポータルする。
「やはっ、ギルド実装だってネ」
エミリーがどこで覚えて来たのか、変な挨拶をしてくる。
そこに優もポータルしてきた。
「やはっ」
「おはよー、ギルド実装だよ」
「おはよう」
一通り挨拶を済ませると、やはり話題はギルド関連になる。
「蒼天騎士団に入るノ?」
「それが、ちょっとややこしいことになっていて……」
わたしは、今日あったことをエミリーに話していった。
エミリーらしくなく、神妙な顔をして聞いている。
「教師のMIが気になるネ」
「そこなんだ」
「3人の男の所属する組織と学園は、符丁が通じ合う仲だと言うことだヨ」
「先生個人っていうことはないかなぁ?」
担任の先生は、正直、あまり目立つ人ではなかった。
二十代中頃の男性で、中肉中背、顔も割と普通。
性格も生徒受けも、いたって普通の人だ。
「あやしいね、まるでスパイみたいだヨ」
「スパイ~?」
「スパイは、目立ってはいけないから、普通の人が一番いいんだヨ」
それは、いくらなんでも話が飛躍しすぎだと思う。
そもそも、一体どこのスパイなのか。
産業スパイってことなら、まぁ、あるのかもしれないけど、それで教師をやってるというのも変な話だった。
「でもスパイ映画の人は、みんな格好いいよね」
「映画だからネ、イングランドの有名なスパイ映画も、みんなイケメンだから、変なイメージがついちゃってるのかモ」
「まぁ、それはいいや、でも、学園側が何か知っていそうだっていうのは、覚えておくよ」
まさか、学園の警備員さんってことはないよね?
テーザー銃なんて持ってたし。
「というか、警察に知らせた方がいいんじゃないノ?」
うーん、それもそうなんだけど……。
「犯人も連れて行かれちゃったし、事件があったことを証明できないかな?」
「フム、優は怪我しなかったのネ?」
「私は無事だよ」
首にナイフが当たったように見えたけど、無事だった。
リアルラックが高いのかな?
「それで、レッドプレイヤーのことを調べるノ?」
「そのことは、任せるみたいなことを言われちゃったから……私たちの味方なのかな?」
「蒼天騎士団の方はいいの?」
「蒼天騎士団は、名塚さんが立ち上げるって言ってたから、後からでも大丈夫だと思う」
泣かれてしまったことは伏せておこう。
ちょっと重い話しだし。
「じゃあ、レッドプレイヤーのいる7階層に行ってみようカ」
「うん、行こう!」
わたし達は、パーティーを組むと、酒場にポータルした。
ここは、駅みたいになっていて、たくさんのポータル屋さんがいる。
メモできる数が限られているので、あまり行かないところには、ポータル屋さんに飛ばしてもらうのが普通だった。
そして、7階層に飛ばしてくれるポータル屋さんを見つけると、お金を払って飛ばしてもらった。
「7階は墓地なんだね……」
優の活躍できるマップだけど、あまり嬉しそうではなかった。
墓地が好きな人って、なかなかいないと思うけど。
正直、採取品も人気が無さそうな気がする。
5階層くらいまでは攻略したけど、その次は10階層だったから、途中のマップのことをあまり知らなかった。
「人が寄りつかないから、レッドプレイヤーの拠点にできたんだネ」
「わたし、レッドプレイヤーになるの無理」
色々な意味で無理なんだろう。
ポータルされたのは、7階層の入口ではなく、かなり奥の方だと思われた。
カタコンベの入口となっている階段が見える。
入口には、見張りなのか、ふたりの男がいた。
「お嬢さん達、ここはおっかないところだぜ」
「プレーンの来るところジャねえってことさ」
ふたりは、オーラがオレンジだ。
レッドプレイヤーではないようだけど、オレンジというだけで、警戒してしまう。
多分だけど、プレーンとは、リライアビリティ違反をしていない者のことだろう。
「ギルドシステムが実装されたの知ってル?」
「なんだ、レッドのギルドに入りたいのか?」
「ちょっと、興味があるんだヨ」
「物好きだな、まぁ、何があってもしらねぇぜ」
見張りからお許しが出る。
そして、わたし達はカタコンベに入って行った。




