表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
106/164

第百六話 学校裏の廃屋


 午後の授業中。


 先生がいないときに、優を誘拐したというささやきがあった。


 学園のネットに繋げれば、わたしにささやきをするのは可能だろう。


 でも……。


「…………」


 わたしをおびき出そうとしている?


 なんで? 誰が?


「…………」


 いや、誰でもなんででもいい。


 優を助けないと。


 わたしは考える。


 そんなに時間はないだろう。


 先生が帰ってくる前に、教室を出た方がいい。


 でも、のこのこ出て行っても捕まるだけだ。


 優を人質にされたら、戦うこともできないし……。


 誰かに言ったら、優は殺される。


 相談はできない。


「…………」


 わたしは、ヘッドセットを外す。


 今までの視界が消えて、現実の教室が見えた。


 みんな、机でヘッドセットをして考えている。


「…………」


 武器を持っていこう。


 掃除用具の箒を持って行く。


 わたしが授業を抜けたことを不審に思われないように、すぐに教室を出た。


 先生と鉢合わせたら詰みだ。


 下駄箱で靴を履いて、外に出る。


 外に出たら、箒の先端を踏んで壊した。


 これで、木の棒になる。


 弱いけど、ないよりはいい。


 学校裏は森になっていた。


 学校裏の廃屋ってどこだろうか。


 校庭を走ってフェンスを越えると、そのまま森に入る。


「…………」


 なにか、変な音はしないだろうか。


 精神を集中させて、耳を澄ませる。


 学校から音が聞こえた。


 当たり前だ。


 でも、森の方からは……聞こえない。


 いや、足音?


 小さな足音だけど、誰かが早足で歩いている音が聞こえた。


 誰だろう……近所に住んでいる人かも知れないけど……。


 いや、そうだったら、廃屋の場所を聞いてもいい。


 わたしは、足音が聞こえる方に走っていった。


「はっ、はっ……」


 不安定な森の地面を蹴るように走る。


 ずいぶんと体力が付いていた。


 あまり疲れない。


 スポーツ駄目だった頃の自分を思い出せないくらいだった。


「…………」


 作戦はどうしよう。


 とにかく、優を助けることが一番だ。


 優先順位には迷いがない。


 最悪、わたしは捕まってもいいんだ。


 わたしひとりなら、なんとかできるかも知れない。


「…………」


 足音は移動している。


 結構速い。


 この音からして、ひとりじゃないだろう。


 ……3人?


 音は小さいけど、重そうな音だ。


 大人の男の人か……。


 3人で森の中をランニング?


 平日の昼間に?


 無いことはないだろうけど、違う可能性を考えた方がいい。


 なにか、関係者なんだと。


 十分ほど森を走ると、廃屋が見えた。


「…………」


 足音の主は、どこにもいない。


 罠かな?


 どんな罠?


 いや、どうやったって圧倒的に不利な状況だ。


 どんな罠だってやることは同じだ。


 待って、考えることを放棄しない方がいいかな?


 わたしは、取りあえずしゃがみ込んで、周りの音を聞いてみる。


「…………」


 小屋の中に誰か居る。


 ふたり……かな?


 数が合わない。


 もうひとりはどこにいるの?


 いや、廃屋の扉が開いた音がしなかった。


 足音の3人と、廃屋の2人は別人だ。


「…………」


 引き返す選択肢はない。


 でも、わたしをおびき出して、どうするつもりなんだろうか?


 お父さんの居場所を吐かせる?


 お母さんの研究?


 どっちも知らないんだけど……。


 わたしを人質にして、更にお母さんを脅すとか?


 これもあり得なくはないけど、回りくどい気がする。


「…………」


 そろそろ、先生が教室に帰ってきて、授業にわたしが居ないことがバレているだろう。


 ささやきも再生されてしまうかも知れない。


 そうなったら……。


「…………」


 もう後手に回っているんだから、相手に対応するしかない。


 でも、廃屋の中にいるのが、優だと確信したかった。


 違かったら酷い無駄足だ。


 どうなるかわからないけど……。


「優、どこにいるの!?」


 わたしは、大声で叫ぶ。


 森の中は、しんとしていた。


「…………!」


 廃屋の中から、ぐぐもった優の声が聞こえた。


 猿ぐつわをされているのかも知れない。


 でも、中に優がいることはわかった。


 この辺りに他の人の気配はしない。


 あの足音の3人が気になるけど、行こう。


 廃屋の近くに寄っていく。


「中に入ってこい」


「…………!」


 野太い男の声が聞こえた。


 緊張する。


 優の命がかかっているんだ。


 上手くやれ。


 扉を開けると、縛られた優が、床に座らされているのが見えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ