第百一話 他力本願な王子様
倒せない、17階層のボス。
それを手伝ってくれと頼まれても……。
「ど、どうするの?」
「いいヨ」
「私も、お手伝いしますよ」
「じゃ、じゃあわたしも」
「ありがとう、それじゃあ、ボス部屋前までポータルするよ」
リサのお兄さんにポータルされて、ボス部屋前まで飛んでいった。
「…………」
中東の人を中心に、30人くらいの人がいる。
王子様の仲間が18人いて、リサのパーティが6人、素性が不明のパーティが6人だから、30人ちょうどか。
わたし達を入れて33人。
結構な大所帯だけど、それでも倒せないのか……。
「私、死んだこと無いから怖いな~」
優が本当に怖そうにしている。
わたしも死んだこと無いから、ちょっと怖い。
「パニックにならないようにね?」
リサのお兄さんのパーティーの人だろう。
秘書みたいな感じのお姉さんが、優をなだめてくれていた。
包容力が大人の人だ。
「神聖魔法使いだね、この3人はパトリックが面倒を見るのかな?」
例の王子様だろうか。
すごい派手なアバターの中東の人だった。
みんなうやうやしくしているので、間違いないだろう。
「もちろんだよ。でも、ゲームには慣れているから頼りにしてくれ」
「ほう、それは楽しみだ、この階層にも飽き飽きしているから、早く突破させてくれ」
他力本願な感じだけど、それをさっくりと言えてしまうのは、揺るぎない地位と自信があるからだろう。
さすがは王子様だ。
下々にどう思われようとも、気にもしないか。
「難しいギミックはない。ただシンプルにボスの体力と火力の問題だ」
「そういうことだ、後発のプレイヤーがすぐに対応出来るように、難しい動きを入れなかったんだろうさ」
なんだかんだ、王子様も説明してくれる。
根の悪い人じゃないんだろう。
「ボスは、最大3体まで増えるから、僕が攻撃しているやつを集中して攻撃して欲しい」
「初めは一体で出て来て、それを倒すと3体に増えるノ?」
「それで合っているよ、エミリー」
「ということだよ、スナオ」
「え……」
一体目に、大技を使うなってことかな?
まぁ、様子を見ながら戦うけど……。
素性のわからないパ-ティーの人達は、自分たちだけで固まっていて、他に話し掛ける様子がなかった。
でも、トップレベルの実力の持ち主なんだろう。
どういう人達なんだろうね。
「さあ、ここで話していても始まらない、そろそろ攻略法を見つけてくれよ? 死ぬのも、もういい加減飽きた」
「なるべく努力させてもらうよ」
「それじゃあ、行くぞ!」
「…………」
一応、ヤキニクを出しておこう。
わたし達のパーティーは3人だから、問題ない。
「ヤキニクオン」
「オレ様の出番だな!」
元気な声で、ヤキニクが現れる。
「…………」
なんか、ちょっと場の空気を読んでいない登場だった。
となりのおじさんに、じろっと睨まれてしまった。
「攻撃してればいいからね」
「わかったぜ!」
「ふん、イベントの隠しモンスターか」
「は、はい……」
なんか、嫌われてる?
子供だからかな?
まぁ、この感じは、慣れてるけど……。
そして、ボス部屋に突入となった。
中は、かなり広いフィールドだ。
本当に、大人数を想定しているんだろう。
「<ブレス>」
「<ストライキング>」
「<バルキリーウェポン>」
「<カウンターマジック>」
みんな、色々とバフを唱え始めた。
優は、慌てていて、何をするのか決められないようだ。
「落ち着いて、いつも通りでいいよ」
「う、うん、じゃあ、<プロテクション>」
「<ディバイドポ-ション>」
新技なのか、エミリーが知らないアルケミスト魔法を唱えていた。
「それは何?」
「ポーションの効果が上がる魔法だヨ」
「へぇ~」
わたしは、あまりバフ魔法を使ってこなかった。
今度、ちゃんと研究してみよう。
今は、付け焼き刃だからやらないでおく。
「あ、何か来た!」
優が上を指さす。
地面に影ができていた。
その影が、段々大きくなっていく。
みんなは、固唾をのんでその光景を見守っている。
もう、何度も挑戦したんだろう。
そして、それと同じだけ失敗してきたんだ。
翼を羽ばたかせて下りてきたのは、なんと蛇だった。
蛇に翼が生えている。
「やっぱり、メキシコなんだネ」
「メキシコのモンスターなの?」
「神様だヨ」
「えええ、それじゃあ強いわけだよぉ」
これだけ混成で戦うとなれば、範囲攻撃は使えないだろう。
「ヤキニク、エクスバーンは使っちゃダメだからね」
「あれが一番強いぜ!」
「周りの人を巻き込まないように攻撃して」
「わかったぜ!」
「行くぞっ!」
リサのお兄さんが、先陣を切って突撃していった。




