第百話 レイドボス
体育祭も終わった6月の下旬。
そろそろ、ランキングの心配を始める時期に来ていた。
「17階層はクリアされないんだね」
「そうだね、ユニットの育成を始めたのが一週間前くらいだから、手こずっているのかな?」
ユニットの育成で、最近は優とエミリーと、ずっと17階層で狩りをしている。
でも、一週間以上経っても、18階層が解放される気配はなかった。
「エミリーはどう思う?」
「気になるなら、リサに聞いてみよウ」
リサは、最前線で戦っているはずだ。
事情にも詳しいだろう。
エミリーが、プロフに話し掛けている。
「17階層にいるから、お兄さんと来てくれるっテ」
「え?」
あのイケメンのお兄さんが一緒に来るんだ。
どうしてだろう?
3人でおしゃべりをして待っていると、リサとお兄さんが歩いてやってきた。
「リサちゃん、おはようー」
「おはようございます」
「前にも会いましたね、リサの兄のパトリックです、よろしく」
王子様っぽい人だけど、大会社の御曹司だから、あながち間違ってはいないだろう。
VRのことを調べるために、エミリーを雇って、このゲームをさせている人だというのも聞いている。
「どうして、17階層をクリアしないノ? ってふたりが疑問に思っているから聞いてみたんだヨ」
「……苦戦しているからです」
少し苦しそうな声で、リサがそう言う。
相当に苦戦していそうだ。
「そんなにボスが強いんだ? それとも、難しいギミックが解けないとか?」
「それは……」
「僕から話そう、少し込み入っているんだ」
厄介な話らしい。
聞かない方がいいんじゃないだろうか?
でも、お兄さんは話し始めてしまった。
「まず、ボスが強すぎる。おそらくだけど、これはレイドボスなんだと思う」
「レイドボスってなに?」
優がわたしに聞いてくる。
わたしも、そんなに詳しいわけじゃないんだけど……。
「すごく大人数で倒すボスのことだよ、パーティー1チームとかじゃ太刀打ちできない、ものすごく強いボス」
「じゃあ、仲間を集めなくちゃいけないんだね」
「もちろん、それは考えた。今、最前線で戦っているパーティーが4チームあるんだけど、そのチームと一時的にでも手を組めればと思ったんだ」
レベル差もないだろうし、妥当な案だと思う。
出し抜きたい気持ちを抑えて、一時的に手を組むなら有りじゃないだろうか。
「相手の正体はわかっているノ?」
「正体?」
優が疑問の声を上げる。
「多分、リアルで何をしている人とか、そういうのだと思う……」
「えええ? それが関係あるの?」
わたしも別にいいと思うんだけど、最前線ともなれば、政治的なやりとりもあるんだろうか。
「おおよそは、わかっている」
「手を組めそうな人達なのネ?」
「ひとつは、中東の王子様のチームだ。本人は娯楽でプレイしていると思うが、家来達は、もっと上から指示を受けている節がある」
「ふぇ~、そんな人達がプレイしているのぉ~?」
そういう噂は、わたしも聞いたことがあったけど、根も葉もない話ではなかったみたいだ。
「すごいよ、プレイしているのは6人じゃない。予備や代打も含めて、18人くらいでプレイしているんだ」
「どうしてですか?」
何となく想像は付く。
「多分、そのマップに合ったスキルとかを持っている人で、パーティーを組むようにしているんじゃないかな」
「その通りだね、でも、いつも3パーティー一緒に行動しているから、最適化というよりは、数の暴力という感じかな」
18人も育成していれば、どんな状況でも切り抜けられるだろう。
まぁ、今回は、それ以上の人数が必要だったみたいだけど。
「あとの2チームハ?」
「アジアの独裁国家のエージェント達のチームだ。正体を掴むのに苦労したけど、国家的な力でプレイされたら適わないね」
「その人達でも、突破できないボスなんですか?」
「おそらく、今、人を増やしてレベリングしていると思うよ。最近、17階層で見かけないから、余程の大人数を組織しているんだろう」
「ふぁ~」
「まるで戦争だネ」
国家的力を費やしてでも、クリアしたいというのが怖い。
目的としては、マギウスの調査とか、そういう感じなんだろうけど。
「最後のチームは、何もかもわからない、不明のチームだ。でも、他のチームのように数を組織したりはしない、人種の違う6人のパーティーだね」
「…………」
「おそらくは、表に出てこないアンダーグラウンドの技術者達なんだと思うが」
すごい数の人がプレイしているのに、17階層で戦っているのが4チームしかないっていうのは驚きだった。
脇道にそれることができるから、深く深く攻略していく人が少ないんだろう。
「どう考えても、6人で倒せるボスじゃない。でも、レイドシステムなんて無い。ならば……おそらく、ギルドが実装されるんだと思う」
「ギルドですか」
コミュ障には辛い展開だ。
でも、ギルドが実装されたら蒼天騎士団に入るしかないだろう。
団長の座を降りるという手もあるけど、名塚さんに押しつけることになってしまうから、ちょっと気が引ける。
「ギルドはわかるよ、蒼天騎士団みたいに、みんなで仲良く集まるんでしょ」
「そうだネ、ワタシ達は、ギルドの心配はしなくてイイネ」
「運営の構想としては、後発のプレイヤーが17階層まで追いついてきて、大勢で倒すことを想定しているんだと思う」
もう滅茶苦茶にわちゃわちゃしながら、倒しちゃう感じだろうか。
ボス部屋に入れるだけ入って、後はわちゃわちゃだろう。
「でも、僕たちは、それを待っているつもりはない。そこで、他のチームにも共闘を打診してみたという流れだね」
「わかったヨ、それで、オーケーしてもらえたのかナ?」
「王子様のパーティーと、色々不明のパーティーは了承してくれた。それで、今、試行錯誤して戦っているんだけど倒せないんだ」
それで無理なら、無理なんじゃないかな?
王子様のチームは18人いるんでしょ?
「そこで頼みなんだが……」
「3人に手伝って欲しいんです、たまには手を貸してくれてもいいですよね?」
お兄さんを遮って、リサがそう言った。
 




