第一話 パーティ追放
さくさくっと、ゆるゆる進めていきます!
お楽しみ下さい!
「もう我慢できねえ! パーティーから出て行け! お前は追放だ!」
「猪狩くん、ちょっと落ち着いて」
友達の優が宥めてくれるけど、リーダーの猪狩君は収まらない。
世界初のVRMMOである『WORLD IN ABYSS』
始まったばかりのゲームとはいえ、一流パーティーに属しているわたしは、ちょっとお荷物になっていた。
「まあな、ガチャ運向上だけじゃな」
タンクの片石君も同意見のようだ。
「で、でも、パーティーに足りないスキルをたくさん習得してるし!」
優が擁護すればするほど、場の雰囲気が白けていくようだった。
「使えないのばっかりだけどね。ジト目で陰キャだし。わははっ」
ハンターの悦美も笑っている。
いつも笑っている気がするけど……。
「…………」
わたしの取っている職業はシャーマンLV2、フェンサーLV2、スカウトLV2だ。
どれも不人気で、取る人が少ない職業だけど、パーティーで持っている人がいないから取った職業だ。
しかも、三つも同時に上げているから効率が悪い。
いずれ、みんなについて行けなくなることはわかっていた。
「いいよ、わかったよ、出て行くよ」
わたしは、システム画面を呼び出すと、パーティー脱退をタップした。
「ちょっと、砂緒ちゃん!」
わたしは、パーティーを脱退してソロになった。
なんだか、急に寒くなったような気さえする。
「私もついていく!」
優もパーティーを出ようとするけど、その手をわたしが止めた。
この学園で、それは命取りだ。
「ログアウトするから、今までありがとうございました」
そう言って、わたしはゲーム世界からログアウトした。
ログアウトすると、学校の天井が見える。
わたしは、専用のゲーミングチェアに座っていた。
完全没入のVRMMOに接続するためには、この椅子が絶対に必要だ。
身長が低いから、結構椅子が余っている。
隣では、優が横になっていた。
寝ていても、胸の辺りのふくらみはトップクラスだ。
わたしとの格差が酷い。
「…………」
いつも、ペアで使える部屋を借りていたけれど、明日からはひとり部屋だね。
「あっ」
すぐに優もログアウトしてくる。
衣服は違うけど、ゲーム内と同じ顔。
犯罪などを防ぐために、外見は変わらないようになっていた。
小さい頃に頭を怪我したんだけど、それもちゃんとゲーム内で再現されている。
「砂緒ちゃん、本当にパーティ止めちゃうの?」
「だって……仕方がないよ」
「もう……取りあえず遅いから帰ろう、ご飯奢るよ」
明日からのことを考えると、奢ってもらった方がいい。
帰りに、学校の中にあるレストランに寄った。
割とおしゃれで味もいいけど、割高な店だ。
椅子に座ってメニューを開くと、料理の写真の下に値段が書いてあった。
でも、単位が円じゃない。
『ルピ』や『イヤ』という単位で書かれている。
「わたしは、何にしようかな」
「また麺にするの?」
「優こそ、いつもハンバーグじゃん!」
「だって、ハンバーグ好きなんだもん」
ルピやイヤは、ゲーム内の通貨だ。
でも、そのゲーム内の通貨をリアルでもそのまま使えた。
ハンバーグのセットが、1ルピ500イヤ。
パスタのセットが、1ルピ200イヤだった。
優が、スマホで決済してくれる。
逆に言うと、この学園の中で、円は使えない。
食べていくだけでも、ゲーム内で稼がなくちゃいけないのだ。
「明日からどうするの?」
「細々とやっていくよ」
今の状態で他のパーティーに入るのは、ちょっと厳しいかも知れない。
地力が無さ過ぎる。
でも、一流パーティーにいたわたしたちは、割と裕福だった。
まぁ、すぐに底を付くだろうけど……。
「明日また、猪狩君に相談してみようよ」
「もう、パーティー脱退しちゃったしいいよ」
「じゃあ、やっぱり私も脱退する!」
それは、保険的な意味合いも込めて、止めたいところだった。
「わたしが、どうしようもなくなったときに頼りたいから、優はあのパーティーで稼いで」
一応、どうやって生きていくか、何となく考えてはいるんだけど、不安は不安だ。
「うん、そういうことなら……」
優はかわいい。
そして、成り手の少ない支援職の神官で、神聖魔法だけを上げているから効率も良かった。
ソロでは動けないけど、パーティーの要だ。
それに比べて、わたしの精霊魔法は、精霊の居るところでしか発動できない魔法だった。
砂漠で水が飲みたくても水の精霊が居ないし、火山の敵が水に弱いのわかってても火の精霊ばっかり居て水魔法が使えない欠陥スキルだ。
フェンサーはクリティカル……つまり運重視で重い武具を持てないから、イマイチ前衛としては心許ない。
サブアタッカーというところだ。
スカウトも、バトル重視のこのゲームでは宝箱くらいしか活躍の場面がなかった。
「食べよう食べよう」
優がハンバーグを切り分けていく。
わたしも、嫌なことを忘れるようにパスタを食べていった。
「うちは母子家庭でお金がなかったから、外食なんて珍しかったんだよねぇ」
「家に仕送りするために、ゲームを頑張るんでしょ?」
この学園では、ゲームの成績によって、アルバイト料が支給される。
その他にも、ゲームで稼いだお金をRMT、リアルマネートレードすることも可能だった。
1ルピが、おおよそ1000円くらいの換算だ。
レアアイテムをゲットできれば、かなり儲けることも可能だった。
「お金に厳しく生活する! 守銭奴になるの!」
「砂緒ちゃんには向いてないんじゃないかなぁ、楽しくゲームをして、楽しく稼ごうよ」
優は、雰囲気からして結構裕福な家の娘さんだ。
どうして、アリス学園に入学したのかわからないけれど、頼れる友人だった。
「中学生でお金を稼ぐとしたら、このゲームが一番いいはず」
「そうだろうけど、砂緒ちゃんはお金稼ぎには向いて無さそう」
酷いことを、ずばっと言われてしまった。
まぁ、確かに、いきなり路頭に迷ってはいるんだけど……。
「大丈夫、明日からのことは一応考えているから」
「そうなの?」
「今度は、わたしがご飯奢るからね」
「はいはい、そうしたらケーキバイキングがいいかな」
「ケーキバイキングでも、焼き肉食べ放題でも連れて行くよ!」
「期待して待ってるね」
優はにっこりと微笑むと、熱々のハンバーグを美味しそうに食べた。
不定期更新で連載していきます。
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