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Factoring road  作者: arahim
第一章 R.start
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どこで区切ればいいか悩みに悩んで、早速遅れちまった・・・・・・


「ジリリリリリ……」


一日の始まりを告げる目覚まし時計の音が、とある住宅街の木造建築の2階の部屋に鳴り響く。

その部屋のカーテンの隙間からは、朝を告げるように太陽の光が差し込んでいた。


「ぅ、うぅん……」


目覚ましが鳴っても、件の部屋に居る彼女は目を覚まさない。何度か布団の上でゴロゴロしながら目覚ましをやり過ごそうとしている。


「あぁもう……うるさい!」


耐えきれなかったのか、勢い良く起き上がって目覚ましの音を止める。そこでようやく起きたのかと思いきや、また布団に横になり二度寝を決め込もうとする。


「みちるーもう朝よー……そろそろ起きなさい」


しかしそれを許すまいとみちるの部屋に入り、慣れた手つきで彼女を覆う布団を取り払う、みちるの母。

突然布団を奪われたみちるは、籠っていた熱を抱え込むように足を曲げて折りたたむ。


「うぅん~……」

「今日も学校でしょ。早く起きて準備しないと遅刻するよ」


起きようとしないみちるに、みちるの母は半ば呆れたように溜息をもらす。

件の少女、尾道 みちるは現在高校二年生。今日は普通の火曜日だから、もちろん学校だってある。


「もうちょっだけ……」


むにゃむにゃと寝ぼけ眼をこするみちる。にへらと頬を緩めて、枕に顔をうずめる。


「そんなこと言ってまたギリギリになるんでしょ。いいから起きなさい!」


二度寝をさせた後の展開が目に見えているみちるの母。だからみちるが何を言ったところで、母が取り合うわけもない。


「ん~分かったよぅ……」


観念したのか、半分しか目が開いていない状態で布団から起き上がるみちる。

黒い髪はぼさぼさで、服もところどころ着崩れている。


「ご飯、できとるからね!」


みちるが起きたことを確認して下に降りていくみちるの母。

母の言葉にぬか返事をして、ぽりぽりと頭を掻く。首をころころと揺らせば、ふわぁ~と大きく欠伸をする。


「よっこいしょ」


およそ乙女には似つかわしくない掛け声とともに、ベッドから身を乗り出せば、そのまま階段を下りて食卓へと向かう。

着崩れた服も、ぼさぼさの黒髪も直さずに。


「おはようみちる」

「おはよう父さん」

「みちる、弁当鞄に入れといたからね」

「ん~……」


適当に返事をしながら席に着き、目の前にあるコップを手に取るみちる。そしてそのまま一息に牛乳を飲み干す。

軽く息を吐いて、ようやく目を見開く。


目の前には新聞を読みながら、コーヒーを啜る父、隣にはトーストにバターを塗る母。

何も変わらない、いつも通りの尾道家の日常だ。


「あ、そうだ。母さん、今日帰り遅くなるかも」

「何時頃?」

「ん~まだ分からん」


母からバターナイフを受け取って、自分のトーストにたっぷり塗りたくる。綺麗なきつね色に焼けたトーストの表面が完全に見えなくなるまで。


「何それ。まぁ時間が分かったら連絡して」

「分かったぁ」


これでもかとバター塗りたくったトーストにかじりつく。

尾道家ではお決まりの朝食。バターの塗られたトーストに、目玉焼きとベーコンと牛乳。

決して洋食好きなわけではないが、尾道家では毎朝このメニューだ。


「早く食べて着替えんと学校遅れるよ」


時刻は既に八時前。みちるの通う高校は、八時四十五分迄には登校しないといけない為、時間に余裕があるとは言い難い。なにせ今のみちるは、服も着替えてなければ寝ぐせも直していないのだから。


いくら準備を早く済まそうとしても、みちるも乙女なのだ。最低でも十五分はかかる。


「父さんもそろそろ会社でしょ?新聞もそのぐらいにして準備せんと」

「あぁ………そう、だな」


同じように母に急かされる父。けれど余程新聞に集中しているのか、どこかぬか返事になっている。


「お父さん、時間」


仕方なし、といった感じにみちるが再度問いかければ、広げていた新聞をパタリパタリと折りたたんで、机の上に置く。


尾道家の主導権は父にはない。常に女性優先なのだ。

例えみちるに完全に非がある事件が発生したとしても、最終的に謝るのは父の方なのだ。


「それじゃ行ってくるよ」


上着のスーツを羽織り、鞄に手をかけて立ち上がる父。


「行ってらっしゃーい」


リビングから出ていく父を横目に、フォークを目玉焼きの黄身の部分に突き刺すみちる。そして垂れそうな黄身をこぼすまいと、急いで口の中に放り込む。


「あんたも早く食べて着替えなさい」

「ふぁかっへるっへ」


家だからとはいえ、流石の行儀の悪さ。


補足しておくと、みちるはこんなでも、学校ではそれなりの人気を得ている。告白だって何度か経験しているぐらいに容姿は整っているし、困っている人を率先して助けようとするほど、人間性も悪くない。


けどそれはあくまで外面であって、家の中となれば話は違う。


行儀も別によくないし、部屋着だってよれよれ。出かける予定も遊ぶ予定もない休日は、ほとんどベッドの上だ。

よく言えば切り替えのできる、悪く言えば裏表の激しい、そういう人間なのだ。尾道 みちるという人間は。


「行儀悪いよ。母さんもそろそろ仕事行くから、戸締りよろしくね」

「はーい」


そのことは母もよく知っている。だから口では言うけど、本当の所ではあまり心配はしていない。

起こさなければ学校に遅刻ぐらいはするかもしれないが、学校に行かないわけではない。それが母のみちるに対する解釈だ。


流し台から水滴の音が響く。


先程まで人気のあったこの食卓も、打って変わったように静かになる。

ぼんやりと時計を眺めて、ベーコンにフォークを突き立てるみちる。


「……」


時計は既に八時を回っており、流石にそろそろ準備しないと、みちると言えど遅刻は免れない。だからなのか、フォークを突き立てたベーコンを、勢いよく口に放り込むみちる。そしてそのまま咀嚼しきる前に、寝ぐせを直すべく、洗面所へと向かっていった。



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