the beginning
プロット自体はある程度でき上ってますが、改稿ばかりしてるので不定期かもです。なるべく一日一本のペースで上げてきます。
二酸化炭素や排気ガスに覆われ、変化することのない真っ黒な空。見える星など何一つない。
その代償なのか、22世紀後半、時代はついに科学に追いついた。
《進行可能になりました》
モデルSに搭載されているAIが、抑揚のない音声を連ねる。
僕の名前は寝屋川 優一。日本の高校に通う、普通とはちょっと違う高校一年生。今はその高校からモデルSで帰宅中だ。
22世紀後半の現代では、全てにおいてAIの下に世界が回っている。日々の生活も学校も、大人達の仕事でさえも。
モデルSにも搭載してある僕の相棒によれば、何十年前だかには有り得なかったことらしい。例えば、僕が今乗っているモデルS、昔で言うところの車に乗るには、適正年齢を超えた上で試験に合格してようやく、車に乗れていたらしい。しかも乗れたといっても、手動運転の車だとか。
でも僕が生まれたころには、既にそんな代物存在していなかったから、モデルSでない車なんてもはや都市伝説に近い。
《優一様、お母様からお電話です》
いつもと変わらない音階をなぞる僕の相棒。
お母様、ねぇ……いい予感はしないな。
「取らなくていい。家に帰って直接話す」
《かしこまりました》
着信が留守電に切り替わったのを確認して、一つ溜息をこぼす。
悪い予感がする。僕が唯一、他の奴らとちょっと違うと言える、原因が関わってる気がする。
先に断っておくが、僕は別に現実を見ずに理想ばかりを語る痛いやつでも、隙あらば自分語りがしたい自己満足の塊でもない。
中学半ば頃だったか……僕が天才と周りから言われるようになったのは。
その当時まだ、技術的には実現不可能とされていたテレポーテーションを、僕は実現した。
その実績が一気に僕を世界的な研究者へと押しあげ、気づけば僕は研究者としての未来を世界に決められていた。別にそんな大層な気持ちがあったわけでもないのに、だ。
そんな情熱もなく目的もないままに研究者にされたものだから、当然僕はあーだこーだと理由をつけては逃げ続けた。逃げて逃げて、アイツはもうだめだと言われるようになるまで、逃げ続けた。
そういった不名誉な時代があったせいか、僕の家には僕専用の研究室がある。
そしてその研究室には、現代から過去に行くことのできる、時空間移動装置がある。所謂タイムママシーン的なモノが。
あると言っても僕が作ったものではない。何度も言うようになるが、テレポーテーションの実現はまぐれなのだ。偶然の延長線上にできた産物なのだ。
それにそもそもの話、今日では時空間移動装置は普通に製作できる。ただ製作はされていても、販売、使用することは世界条約機構において禁止されているわけだが。
だからまぁ、僕みたいな一高校生が持っていていい代物ではないわけだ。
そんな代物が僕の研究室にあるわけだから、家族はもちろんのこと、誰が見たって驚く。
まだ母上に見られたと決まったわけではないが、そんなあってはいけないものを所持しているのだから、嫌な予感の一つだって感じる。
当たらなくていい感覚程当たるものだし、まぁ最悪の事態を想定して動くに越したことはないか……。
重たい目つきで空を見上げる。
僕用に改良したこのモデルSは、屋根の当たる部分にスカイルーフがある。だから上を見上げてみれば、眼前には星一つない真っ黒な空が広がる。
この真っ黒な空にもまた、昔はLEDライトのように光り輝く粒体が存在していたらしい。史実などによれば、光り輝く流体は星と呼ばれていたらしいが、見たことのない僕にとってみれば、その存在もまた都市伝説的なモノでしかない。
何十年も前の時代には当たり前だったのだろうか?夜空を見上げれば星があるということは。
「はぁ……」
史実上の話にとらわれた頭を振り払うようにして、無気力なまでに溜息をもらす。
今の時代に関係のないことを考えても仕方がない。僕が今考えるべきことは母上の電話の用件が何なのか、ってことだ。
「ルツ、なるべく早いルートで頼む」
《かしこまりました》
route2、略してルツ。僕をサポートしてくれるAIであり、僕の相棒だ。
僕の全ての交友関係を含めた上で、一番と言っていいほど信頼している。まぁ僕が開発したってことが、理由としては多分にもあるんだけど……。
予定していたルートを変更して走るルツ。
しかしルートを変更しても空の風景は変わることなく、頭上にはいつもと同じ見慣れた真っ黒い空が広がっていた。