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ベルの夢 7


 僕があらかたの事情を話し終えると、リリアさんは時を進めるかのように息をついた。


「そう……そんなことがあったのね」


 そう言うリリアさんは、どこか他人行儀だった。


「でも、教えてくれてありがとう。私にはちょっと重すぎる話だったけど……」

「忘れたければ、忘れてください」

「ふふ。忘れたことにしておくわ」


 リリアさんは自分の言葉を押し込むように水を飲んだ。


「でも、これだけは言っておくわね」


 リリアさんの瞳が僕を捕らえる。


「ありがとう。あの子の……エリンのことを守ってくれて」

「違います。僕は、エリンに守られて……」

「違くないわ。私はね、ずっと心配だったの。私の勝手でエリンを冒険者に巻き込んで。自分だけやめちゃって。エリンに恨まれてるんじゃないかって」

「そんなことないです」

「わかってるわ。エリンは自分の意志で冒険者をやってた。でもね、わかってても心配なの。それでもエリンを応援できたのは、あなたがいてくれたからよ」

「そんなこと……僕なんて、守られてばかりで……」

「私はね、エリンのことも……ジルのことも……よくわかってるつもりよ。あの二人は、自分のことをよくわかってた。自分が何をしたくて、そのために何をすればいいのか。それがわかってて、そのことにひたむきにまっすぐだった」

「……」

「あなたは守られてばかりだなんて言うけど、それは違うわ。あの二人は、無駄なことなんてしない。あなたのことを守ったのは、それだけあなたに守られて、助けられて……自分の命を投げ売ってでも、あなたのことを守りたかったからよ」

「……ちがいます」


 涙が止まらなかった。


「……ちがうんです」


 何に言い訳をしているのか、自分でもわからなかった。

 リリアさんの言葉が、朝の陽ざしのように僕の心を溶かす。

 最初は拒むように聞き流そうとしていたその言葉も、やがて僕の心を晴れやかにしていった。


「だからもう……あなたはあなたの道を歩いていけばいいと思うわ。エリンも……ジルも。それを望んでいるはずよ」

「……!」


 僕はこれまで、ひたすら最強になろうと生きてきた。

 最強というのが一体何なのか。それもわからないままに。

 でも、それがジルの夢だったからだ。



『俺と最強を目指そうぜ!』



 僕がジルに冒険者に誘われたときに言われた言葉だ。

 当時の僕は、鼻で笑った。

 最強?なんだそれは。

 今でもそう思う。

 ジルが目指した最強というのが何だったのか。もうその答えは分からない。

 分からないものを追い求めてここまでやって来たのだ。

 エリンを巻き込んで。色んな人を巻き込んで。

 こんな僕と一緒で、エリンは幸せだったのだろうか?

 もうそれも分からない。



 ───でも、それでいいのだろう。



「ねえ、ベルはどうして冒険者になったの?」

「僕?僕は……奇跡の杖を手に入れるためです」

「……そう」

「ありがとうございます。リリアさん」


 僕がそう言うと、リリアさんは満足そうに頷いた。

 僕はまた、一つ成長したのかもしれない。

 どんな強敵を倒しても、どんなに難しい依頼を達成しても感じられなかった一歩を、僕はようやく踏みしめたのだった。


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