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プロローグ 1

 

「クソッ!」


 いかにも魔術師といったローブを羽織った男が、突然そう吐きながら壁を殴りつけた。

 この男は俺達『マジックナイツ』の一員であるダルツだ。この日のダルツは普段の冷静さからは想像もつかないくらいに荒れていた。


「何が……何がオークキングの討伐だ!騙しやがって!ふざけんな!」


 ダルツはそう叫ぶと、頭を抱えて座り込んでしまった。




 俺達は今日、国からどうしてもと頼み込まれた依頼をこなしに来ていた。内容は先程ダルツが叫んだ通りオークキングの討伐だった。

 しかし指定された場所にあったのはいかにも怪しげな城で、それは魔王軍幹部の『暗黒騎士ヘルグレア』の城だったのだ。そうと気づいた時には既に大量の魔物に囲まれていた。

 それでも俺達はがむしゃらに戦い、奇跡的にもヘルグレアを討つことが出来た。───二人の仲間の死と引き換えに。


「………だから、あんな国の依頼は断るべきだと言ったでしょ」


 今度はとんがり帽子を被った魔女風のレミアムがそう呟いた。魔女と言っても、レミアムはかなり小さいのでロリっ子魔女だ。それを本人に言ったら一瞬で消し炭にされてしまいそうだが。


「レミアム、お前はリーダーが悪いって言いたいのかよ」


 レミアムの言葉に、ダルツが言い返した。


「そこまでは言ってないでしょ?」

「じゃあ、なんのつもりだよ。今更そんなこと言っても仕方ないだろうが!」

「それを言うなら!こんな所でいつまでもしょげってても仕方ないでしょうが!」

「お前は悲しくないのかよ!仲間が死んだんだぞ!二人も!」

「悲しくない訳ないでしょ!それでも、いつかはこうなるかもしれないって覚悟は決めてたんじゃないの⁉あいつを倒してからもう何時間も同じ場所に座り込んで!」


 ダルツとレミアムの口論はどんどん激しくなっていく。俺はどう止めたものかと、生き残った四人の内の最後の一人───リーダーのベルの方を確認した。

 しかし、予想通りというべきか、リーダーは魂の抜けた人形のように部屋の片隅でうずくまっていた。リーダーはこの戦いで、恋仲であったエリンを亡くしてしまったのだ。しかも、彼女が盾になるという形で。


 そして、死んだ残りの一人はパーティーのムードメーカーだったガーディスだ。こんな言い方をするのもあれだが、考え得る限り最悪ともいえる二人を殺されてしまった。彼らは、パーティーとしてやっていく上で欠かすことの出来ない二人だった。

 普段ならまとめ役になってくれるリーダーも再起不能。リーダーを支えてきたエリンも、みんなから好かれていたガーディスもいない。おまけに、ダルツとレミアムはどんどんヒートアップしているようだった。


「二人とも、その辺にしておけ」


 覚悟を決めて俺が仲裁に入ると、二人は心底驚いたように俺を見つめた。


「すまん。セロに止められるほどだったか……」

「……ごめんなさい」


 あれ?俺ってそういう扱い?

 断固抗議をしたい気持ちにもなったが、言い争いが収まったようなので、ここぞとばかりに声を上げた。


「そろそろ撤退しないか?気持ちはわかるが、ここだと何があるかわからないぞ」


 もちろん俺も仲間の死を悲しんだが、流石に何時間も経ってくると魔王軍幹部の城にとどまっていることに対する不安の方が大きくなってきていた。

 ダルツもレミアムも先程の言い争いで疲れたのか、俺の一言に黙って従ってくれた。

 三人で手分けしてエリンとガーディスの遺品を集めていく。俺は、ヘルグレアの討伐証拠品としてヘルグレアが装備していた漆黒の鎧を回収することにした。




「リーダー。もう帰ろう。歩いてれば気持ちの整理もつくかもしれないぞ」


 撤退の準備も終えた頃、ダルツがずっとうずくまっていたリーダーに何度も声をかけてみていたが、リーダーが反応することは一度も無かった。


「……仕方がない、リーダーは俺が運ぶからお前は荷物を頼む」


 リーダーを説得することは困難だと諦めたダルツは、俺に荷物を託してリーダーを背負いあげた。そうして、俺達はようやくヘルグレアの城を後にしたのだった。


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