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第89話 モンスター、イフリートと名乗る

 炎のモンスターとの戦闘が始まった。

 全身に炎を纏っているから、どう攻撃していいものか攻めあぐねる……というのが一般的な考え方だろう。


 だが、炎を纏っているからと言って実体が無いわけではないのだ。

 炎を突っ切って殴ればいい。


 それを実践しているのがジェダだった。


「オラァ!!」


 巨大なリンクスとなったジェダの前足パンチが炸裂。


『ウグワーッ!? ば、馬鹿な、なぜ怯まない!』


 炎のモンスターが揺らぐ。

 おや、喋るぞこいつ。


 イングリドが無視して槍で殴った。


『ウグワーッ!?』


 おお、効いてる効いてる。


「なんや、虚仮威しかいな。せやっ!」


 フリッカが鞭でビシバシ叩く。

 俺もショートソードで、つんつんと突いた。


『そこの男は剣だというのに、どうして俺様の炎を恐れない! 熱くないのか!』


「俺はバルログの血を引いているから、炎は平気なんだ」


『なん……だと……!?』


 驚愕に一瞬止まったモンスターを、一斉にみんなで殴った。

 やつは『ウグワーッ!』と断末魔を上げると、そのまま崩れ落ちる。


 動かなくなると、炎が消えていった。

 あとに残ったのは、角が生えたトカゲのような姿である。


「これはなんだい?」


 後ろでじーっと見ているだけだったギスカが、近づいてきて杖でつついた。

 どうやら今回の仕事、気乗りしないことこの上ないので、鉱石魔法はとことんケチっていくつもりらしい。


 俺はじっと、モンスターを見つめる。


「これは……リザードマンの一種だな。謎のモンスターでも無ければ、もちろんバルログですら無い。何らかの方法で炎を纏うことができるようになったリザードマン……つまり、君たちと同じ人族だ」


 この君たちから、俺とジェダは除く。


「しまったな。彼がモンスターとしてドワーフを襲った理由が何かありそうなのに、聞き出す前に倒してしまった。最後に言い残す言葉でもあればよかったのだが」


 俺が呟いたところで、リザードマンがちょっとだけ目を開けた。

 生きてた?


「わ……我らの名はイフリート……! 我らが聖なる炎の地に、土足で踏み込んだ報いを受けよ……! ぐふっ」


「あ、また死んだで!」


「本当に死んだのか?」


 フリッカとジェダで、リザードマンを転がす。

 微動だにしない。

 どうやら今度こそ、本当に死んだようだ。


 イフリートと名乗っていた。

 それは、炎を司る妖精王の名前である。

 伝説上の存在なので、実在するかどうかは分からない。


 炎の魔神とも呼ばれており、信仰の対象になっていたりもする。

 恐らくはこのリザードマン、イフリートを崇める者なのだろう。


 鉱山を掘り進んでいったドワーフたちは、イフリートを崇める者たちの土地にぶつかってしまったのだ。

 つまりこれは……モンスター退治ではなく、宗教戦争ということになる。


 またか!!

 魔王教団と言い、腐敗神の司祭と言い、厄介事を起こす連中は、みんな何かを信じているのか。

 というか、信仰対象の意思を勝手に代弁し、自らに都合のいい理由をでっちあげて暴れているだけという気がする。


 俺は推測した事を仲間たちに話した。

 イングリドがふんふんと頷く。


「それは違うぞオーギュスト。今回のイフリートはどちらかというと被害者だ。ドワーフたちが掘り進みすぎて、彼らの居場所までたどり着いてしまったのが良くないのだろう。この穴を埋め戻させて、別の方向を掘らせるよう言うべきだ」


「なるほど。俺としたことが、バーバリアン思考になっていたよ。敵を倒すだけでは解決しないものな」


 納得する俺。

 最近、何もかも力で解決して来過ぎた。

 いかんいかん、俺は蛮族ではなく道化師なのだ。


 イングリドが提示した平和的解決方法は、検討すべきであろう。

 俺はこれを持ち帰ることにした。


 かくして、再びバリンカーに乗り込む。

 リザードマンの死体は荷台に乗せて、エレベーターを上っていくのだ。


 長のもとにやって来ると、彼は死体を見て目を剥いた。


「リ、リザードマンだったのか!? なんということだ! わしらはバルログだとばかり思って恐れておったと言うのに……」


 ホッとしている長。


「恐ろしくなくなったからと言って、作業を続行するのは辞めたほうがいいですよ。彼らは自分たちの宗教的聖地に、ドワーフが入り込んできたから怒ったのです。非は鉱山都市にある。ここはドワーフが退くべきでしょう」


 だが、長は口をひん曲げて、鼻を鳴らす。


「ならん!! 掘り進み、拡大するのが鉱山都市のあり方だ! 一度掘った穴を埋め戻すなど、ありえん!!」


「なんだって!?」


 俺は耳を疑った。

 こちらが退けば、全ては丸く収まるというのに。

 意味のわからない事を言って、何を意固地になっているんだ。


「道化師。ドワーフってのはねえ、頑固なんだよ。一度決めたことを曲げるのは、プライドが許さない。例え人様の迷惑になってもね。あたいはこういうのが嫌で都市を出たんだよねえ」


「なるほど、よく分かったよ」


 俺はすっかり呆れてしまった。

 さて、どうしたものか。


 こちら側が一方的に向こうの領域に踏み込んだから、反撃を受けたのだ。

 イフリートたちをドワーフの側に立って排除したのでは、侵略者の尖兵ではないか。

 それは俺の趣味ではない。


「いいだろう、長。仕事は引き受ける。だが、俺たち流のやり方で決着をつける。その時に、君たちドワーフの矜持がひん曲がることがありうるかも知れないが、それは甘受してもらいたい」


「な、なんだと!? それになんだか、いきなり口調がぞんざいになったような……」


 敬意を払う気が無くなったからだ。

 俺は仲間たちに宣言する。


「イフリートたちの元を訪ねるぞ! そして、彼らの話を聞いて状況の妥協できるポイントを探す!」


「そんなことだろうと思った」


 イングリドがうんうんと頷いた。

 なんだか彼女の物分りの良さが、どんどん増しているような気がする……。

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