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第81話 道化師、空を舞う

 蒸気が一気に晴れると、そこには異形の怪物となったネレウスがいた。


 真っ青な巨体は、一見すると蛇のよう。

 背中からは巨大なヒレにも見える翼が生え、その下からは鉤爪を生やした足が四本。

 尾はやはりヒレになっていて、空を掻いている。


 これが魔族ネレウスの本当の姿というわけか。

 彼が呼び出していたモンスターが、可愛く見えるほどの怪物だ。


 恐らく彼がモンスターを使役するのは、省エネという意味もあるのだろうな。

 しかし……こんなに大きなモンスターの姿で、周囲に被害を出さないようにいけるのかな……。


 そこだけはちょっと心配だ。

 観客も怯えている。


 いかんいかん、ショーとしては、観客第一で進めなければいけないのだ!


「ご安心ください皆さん! 例えネレウスが巨大な姿になろうとも、我々ラッキークラウンが負けることはない! マールイ王国に、最強の冒険者ラッキークラウンあり!」


 俺は高らかに宣言した。

 いやあ、どう見たってネレウスは安全なわけがないが、こういうのはハッタリが大事だ。

 俺はギスカにウィンクしてみせる。


「えっ!? あ、ああ、なんとなく分かったよ。ハッタリを本当にしろって言うんだね!」


「コラッ、口に出さない!!」


「あっ、ごめんよ!」


 ほら、観客が不安そうな顔になった。

 ここは実力で、俺の言葉が本当だったと分からせるしかない。


『勢いで変身してしまったが、してしまったものは仕方ない! 行くぞ! うおおおーん!!』


 ネレウスの声も野太くなっている。

 彼は咆哮をあげながら、前足を振り下ろしてきた。


「うおーっ!!」


 これに突っ込むジェダ。

 正面から行くのかあ。


「行けっ、ジェダーッ! ほれ、レッドキャップたちも行けえ!」


『ギギギィー!』


 ジェダとレッドキャップ軍団が、ネレウスの前足に立ち向かう!

 そして全員、ぽいーんと弾かれた。


「ウグワーッ! やはりだめだったかーっ!」


 ジェダはダメ元で突っ込んだらしい。

 男気は認めるが、そういうのはどうか……いや、猛獣使いの芸らしくていいか。

 鷲の姿のまま、空中で体勢を立て直したジェダ。


 フリッカは新たな妖精を呼び出している。

 それは戦いのための妖精ではないようだ。


「ドライアド! 支援してや!」


 森の乙女と呼ばれる妖精ドライアド。

 精神の働きを司るが、どちらかというと落ち着きを取り戻させる力などが強かった気がする。

 精神を高揚させるのはあれだろう。男性の妖精使いが呼び出せる、戦の妖精ヴァルキリーだ。


 現れたドライアドの可憐さに、観客がほう、っとため息をつく。

 ちなみにその背後では、イングリドが「ぬおおおおーっ!!」とか叫びながらネレウスの猛攻をしのいでいる。

 俺もナイフをポンポン投げたりして牽制はしているのだが。


 ドライアドはぺたっとフリッカに触れた。

 すると、フリッカの表情が冷静なものになる。


 おお、前回の戦いから学習したのだな!

 冷静さを保つのか。


「ジェダ! ビーストモード! バイソン!」


「おうよ!!」


 ジェダの全身が変化する。

 大鷲から、漆黒の牡牛に。

 それがイングリドの横を駆け抜けて、ネレウスの足を激しく跳ね上げる。


『ぬうおっ!!』


「戦いってのは、でかさ、重さ、パワーだけじゃねえ! テクニックもあるんだよ!」


 牡牛が吠えながら、ネレウスの巨体に体当たりした。

 ネレウスの体勢が崩れる。

 その足がバランスを取るため、観客席ギリギリのところに突き刺さりそうになる。


 そこに発生する、分厚い石の柱。

 観客が悲鳴と歓声を上げる。

 ギスカの鉱石魔法が間に合ったのだ。


 ホッとする俺。

 石柱はネレウスの足を受け止めて、びくともしない。


「しんどいんだけどっ!! 詠唱短めなぶん、鉱石の消費が半端じゃないからね!!」


「経費で出す!!」


「よし! どんどんおいで!!」


 体勢を立て直せなかったネレウスが、地面に転がる。

 のたうちながら、魔族は口を開いた。

 喉奥が青白く光る。


 ブレスを吐くつもりだ!

 幸い、ネレウスも気を使っているのか、観客が巻き込まれない方向に吐いてくれるようだが……。


 これを観客側に逃げて回避するのは違うだろう。

 それじゃあ面白くない。


 俺は仕込んでおいた道具……マントを取り出すと、ブレスの真正面に向かって駆け出した。


「オーギュスト! また無茶をする!」


「イングリド、ネレウスの足を任せた!」


「任された!」


 これでネレウスの動きは止まる。

 ジェダとイングリドがその全力で、ネレウスのフィジカルな動作を封じるのだ。

 止まらないモンスターなどいないだろう。


 そして吐き出されるブレスは、恐らく冷気のブレス。

 これをマントで受け止める俺は、風の勢いを利用しながら跳躍した。


「ご覧あれ! 我が飛翔! そして……!」


 ポケットから取り出した折りたたみの傘を広げる。

 すると、傘は風をはらんで俺の落下速度をゆっくりとしたものにする。


 普通、こんなもので俺の体重を支えられるわけがない。

 すぐに骨が折れ、傘は使い物にならなくなるだろう。

 だが、そこは風を読み、俺のバランスをコントロール。


 それによって、ふわふわと傘の力で降りてくる道化師の姿が出来上がるというわけだ。

 高度なスキルの組み合わせだが、そんなものを表に匂わせるようでは二流か三流。


『ばかな!? ブレスすら踏み台にするのか! お前はどこまで私の上を行こうというのだ……!』


 ギリギリのタイミング、俺のスキルを全力で使ってようやく成立する、綱渡りのような芸当だがね。

 俺の実力を本来以上に感じ取らせることができるならば、最上。

 対戦相手を騙せているということは、観客の目も俺が意図するようにコントロールできているということ。


『ぬがああああっ!!』


 ネレウスが吠え、全身から冷気を吐き出した。

 ギスカが無数の鉱石を空中に放り投げ、真っ赤な輝きを放つ。

 炎を発生させ、相殺しているのだ。


 いやあ、あれは一体どれだけの金額になることだろうか。

 考えるのはやめだ。


 イングリドとジェダに妨害されつつも、無理やり立ち上がったネレウス。

 その背中に俺が降り立った。


「イングリド!」


 彼女の名を呼ぶと、それは一直線に放られてきた。

 彼女が常に手にしている魔剣である。


 俺はこいつをキャッチして、軽くステップを踏みながらくるりと回って振り回す。

 よし、このバランスか。


 ネレウスほどのサイズになると、ショートソードでは通用しない。

 長物が必要だ。


「さて、ネレウス、この俺を振り落とすことができるかな?」


 戦い(ショー)は次なる段階へ進む。

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